作者が気が向けば書いてるだけの毒にも薬にもならない駄菓子屋的なほのぼの女子高生コメディトークシリーズ
ポテト全サイズ150円をLサイズで買うかどうか迷う女子高生三人の風景。
【マックスポテト S・M・L 全サイズ150円! 本日まで!!】
「う~ん……どうしよう……」
私立椥辻学園第二高等学校に通う高校二年生、瓜生沙弥香。茶髪をツインテールでくくっている、おしゃべり好きなはつらつとした女の子。
彼女はいま、街中で頭を抱えて悩んでいた。
目線の先には、マックスポテト150円の文字。
「Lサイズかぁ……今日までなんだよね~。う~ん、でも……いやしかし」
「さやりん、いい加減に決めなよ」
そうやってさとすのは、瓜生の友人、射原小知火。あだ名はともちん。黒髪をポニーテールにした、クールな印象の強い女の子。
「そうだよう。悩んでいてもしかたないし、パッ! と決めて、早くお店に入ろうよー!」
そうやって勧めるのは、瓜生のもうひとりの友人、小野原雲母。あだ名はきらりん。赤みのさすふわふわパーマのロングヘアで、天然っ気を全力で発している女の子。
これは、マックスポテトのために人生(のごく一部)をかけた女子高生達の、真実のドラマである。
さやりんはいま、友人二人と買い物に行った休日の昼間、〔マックスポテトが全サイズ150円!〕の広告につられ、ランチのポテトをLサイズにするべきか、心の底から迷っていた。
「いつもなら迷わずいっちゃうんだけどなぁ……どうしよっかなぁ」
「さやりん、なんで悩んでるのー?」
きらりんが尋ねる。さやりんは、大きなため息をもらしながら、答えた。
「なんでって……それはダイエット中だからね」
「えーっ! さやりん、ダイエットなんてしてたの!?」
「私だってダイエットくらいするよ。当たり前じゃん」
「でもさやりん、バトミントン部でしょ。バトミントンって階級とか、あったっけ」
「ないない。体重でハンデがつく競技じゃないし」
「ふ~ん。あ、そうか。ダイエットしたら体重が軽くなるから、すばやく動けるようになるもんね」
「そうそう。スリムで強いバトプレイヤーを目指してるんだ。それに、ダイエットは女子高生の永遠のテーマだからね」
「だよね~」
ともちんが口を挟む。
「でもさ、それって筋肉もやせないの。あんまりダイエットってやりすぎると――」
「ともちん。君と私とは体の質が違うんだよ。わかる?」
「体の質?」
「そう。ともちんは、いくら食べても太らない体質。私は、食べればその分だけすぐ体重にはねかえる体質。言いたいことわかる?」
きらりんが手を挙げる。「はいはいー! 私は食べてもあまり太らない人種ですー!」
「だからいいの。きらりんも、ともちんも。でも私は――いまマックスポテトLサイズを食べたりしたら、間違いなく太るの。これは地球ができてからの法則よ。逆らえないの」
「んな大げさな……じゃあ、Sサイズにすれば」ともちんが云うのに、さやりんは首を振った。
「だめ。せっかく全サイズ150円なのに、Sサイズにするなんてありえない。なんのための150円なの」
「でも太る、っていうんなら、仕方ないでしょ」
「違う! ともちんはわかってない! 私がこれまでLサイズのマックスポテトを食べたくても、値段の都合で泣く泣くSサイズにしてきたんだよ。それがいま、同じ値段でLサイズを食べられる今世紀最大のチャンスなの!!」
「百年に一度のチャンスがポテトなのね……」
「ああ、どうしよー。私の体重をとるべきか、ポテトをとるべきか……」
きらりんが云った。「どうするのー、とりあえずマックス入っちゃう?」
ともちんも云った。「入ってから決めれば? 別に食べなくてもいいんだし」
「待って。もしポテトを食べない選択をして店に入って、隣の席の人がポテト食べてたりしたら、私たえられないから」
「どんなけポテト好きやねん」
「うっわ、でた。ともちんの大阪つっこみ」さやりんが云ったのに続けて、きらりんも云う。
「ともちんってつっこむときだけたまに大阪弁になるよねー。さすが大阪人!」
ともちんは京都人である。
「で、どうするの。食べるの食べないの」ともちんが云う。
「ちょっと待って。いま考えるから――プリプリエビバーガーとドリンクのセット……でもなぁ。アップルパイとスムージーアイス……物足りないなぁ。マックスバーガー×2と……いや、それは邪道よね。いっそのこと、キッズセットにしてイカちゃんのマスコットをゲットするのも……」
さやりんはマックスポテト抜きの様々な組み合わせを頭の中でめぐらせる。だが、これという妙案が出ない。
業を煮やして、ともちんが云った。
「ほかのだってカロリー高いでしょ。ハンバーガーだって、アップルパイだって。そんなに悩むんなら、いっそのことカフェいこうよ。近くにガーブ系列のいいお店知ってるんだ。かっこいいバリスタもいるし」
きらりんが反応した。「バリスタ! すごい、バリスタがいるんだ~。すごいね。すごい。――で、ともちん。バリスタってなに?」
「知らへんのかい。バリスタっていうのは、カフェでエスプレッソとかカプチーノとかをつくる技術を身につけた人のことで、あわ立てたミルクでカプチーノの上にハートを描いたりとか……」
「ねえねえ、その人、かっこいいんでしょ? だれ似?」
「バリスタはスルーなのね……。まあ、芸能人なら、弟子丸翔太かな」
「でっくんー!? すごいイケメン!!」
さやりんはその間にも、頭を抱えていた。
「う~ん……どうしよ……でも期間限定だしなあ……う~ん……」
それに気がつき、ともちんは腕を組む。「それより、さやりんのほうをどうにかしないとね。このままじゃ、マックスバーガーにもカフェにもいけないよ」
「即決のさやりんがこんなに悩むのって珍しいね。いつもだったら私の方が迷うのに」
きらりんの言葉に、さやりんは悔しい思いと、譲れない思いとが交錯して、訊いた。
「もしさあ、マックスバーガーに入ったら、二人は食べるの? マックスポテトのLサイズ」
「「うん」」
迷うことなくうなずく二人に、さやりんはため息をついた。
「はぁ。なんで私だけ自分の体質に苦しめられなきゃなんないんだろ。神様、これは不公平だよ。世の中の女子高生はみんな食べればすぐ太る体質にしてくれれば、こんなことで悩まずにすむのに。いや、女子高生全員とはいわないからさ、ここにいる二人だけでも私と同じ体質にしてくれればいいのに。それならみんな道連れじゃん。Lポテト みんなで食べれば 怖くない……ブツブツ……」
「さやりん、よく聴こえないよ……」
どんどん沈んでいくさやりんを心配し始めたきらりん。そこで、ともちんがきらりんの肩をたたいた。
「しかたない。きらりん。あれ、やってよ」
「えっ……あれ、って?
「あれっていったら、あれしかないでしょ」
「あれ――えっ、もしかして、あれのあれ?」
「そう。あれのあれ」
「あれのあれ……ほんとにやるの?」
「うん。きらりんは椥辻学園演劇部のホープだし。いまこそその真価をみせるときでしょ。大切な友人を助けるためだと思ってさ」
「……うん、わかった。やってみる」
そう云い、きらりんは決心して両手を握りしめつつ、進み出た。彼女の前には、いまだ悩み続けているさやりんがいる。
「……でも、150円は今日までなんだよね。でも欲望に負けると体重が……う~ん……」
「さやりん」
きらりんが云った。これまでの天然な雰囲気を一変させて。
さやりんが顔を上げる。そこには、人が変わったように真に迫った表情になったきらりんがいた。
「いつまでくよくよしているの。無意味な時間ばかりかけて――いつになったらポテトを食べる気になるの」
「……?」
「食べるでしょ。ここで食べないでどうするの。 ――今日まで。マックスポテト全サイズ150円は、今日までなんだよ。そのポテトを食べにわざわざここまで来たのに、一体なにを迷っているのよ」
「……きらりん、急にどうしたの?」
いつになく真剣な表情のきらりんに、さやりんは戸惑う。かまわずきらりんは続けた。
「目の前にマックスバーガーがあるのに、さやりんはここで手をこまねいているだけ……。さやりんが言ったとおり、マックスポテトLサイズが150円で売られることなんて、もう今世紀中にはないかもしれないんだよ!」
「でも――」さやりんは云った。「Lサイズなんて食べたら、また体重が増えるかもしれないし。そうでしょ。いつもの三倍の量入ってるし、明日にはもうそのまま体重にはねかえっているかもしれないし……」
「いい加減にして」
きらりんは云った。拳をにぎりしめ、友人に対するやるせなさを必死に抑えているような表情で。
「ふぬけたようなこと、言ってんじゃないわよ。太る? はねかえる? ――それがどうしたっていうのよ。太ればいいでしょそのときは! そのときは……さらにきついダイエット生活もアリよ。覚悟しなさいよそのくらい!」
きらりんは、大きくまっすぐな瞳を向けて、訴えた。
「第一、ここで逃げたとしても……そのあとは? 毎朝1kg増えたの減ったの、そんなことばかり気にして、なにもかもに臆病なままの暮らしを送って――マックスバーガーの前を通り過ぎるたび、あのときポテトを食べておけばよかったって後悔し続ける。そんな生活がせいぜいよ。そんな人生がさやりんの望みなの? 違うでしょう。さやりんの望んでた未来は、そんなんじゃないでしょう?」
「きらりん……」
彼女の真剣なまなざしに、さやりんは思わず胸を打たれた。その目には、光るものがうかびはじめている。そして、きらりんの目にも。
「迷うことだってあるよ。長い高校生活だもの。体重を減らしたいのもわかる。ダイエットは、女子高生の永遠のテーマだもの。でも――」
きらりんは首を振った。それは違う、ということを示すように。
「――迷ったら、希望に進もうよ。それが後悔しない、気持ちのいい人生ってものでしょう?」
「きらりん!」
さやりんは彼女に思い切り抱きついた。かかえていた重みも、プライドも、全てを投げうって。
「私……怖かったの。体重が増えるのが。家に帰って体重計に乗るのが。それで1kgでも増えていたらどうしよう、って……。でも本当は、私に……私自身に負けるのが、怖かったの!」
さやりんは、泣いた。
涙がこぼれるのを、どうしてもおさえられなかった。
きらりんはそんな彼女の涙を、優しく受け止めた。
「聞いて、さやりん」きらりんは彼女を抱きしめながら、そっと云った。「もし、さやりんが太るようなことになったら……高校のランチの時間に、カテキン緑茶を二本、ふるまうよ。さやりんが、元の体重に戻るまで――」
「きらりん、うう……ううううう……!!」
さやりんの嗚咽が、マックスバーガーの前に響き渡る。きらりんの言葉に、さやりんは胸の中でこり固まっていたコンプレックスが、太陽に照らされた氷のように溶けていく感覚をおぼえた。
かくして三人は、きらりんの決死の説得により、マックスバーガーに入店するという一大プロジェクトを成功させたのである。
(店に入るだけで大変だわ)
ともちんのつぶやきが、聞こえたような気がした。
お読みいただきありがとうございました。
ポテトを食べにファーストフード店に入るだけ、という感動の物語。
全米が泣くでしょう。僕も泣きました。
……いちおう、文章については自分なりに全力を尽くしたつもりです(苦。
感想をくださいとは言いません。一笑に付していただくだけで幸いです。。。
ちなみにきらりんがさやりんを説得するくだり、某アニメの某名シーンのパロディです。気づいて頂けると半分うれしいですが、半分ごめんなさい。
……後編もあるよ。




