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因みにこうなった場合は…… (三男)

皆さん、こんにちは。三男のリョウです。現在の状況を説明させていただく前に、その直前のことを話させて下さい。

それはお昼休みが残り数分と差し迫ったときのこと。トイレから教室へと戻る途中、僕は見知らぬ生徒数人に呼び止められ、体育館裏というあまり人が近寄らない場所に連れて行かれた。可愛らしい容貌をした彼らが何者かっていうのは簡単に想像がついて、訊ねれば案の定、生徒会役員各々の親衛隊だった。

こうした呼び出しって、実は初めてじゃなかったりするんだよね。そして内容はいつも決まっている。


『今すぐ生徒会を辞めろ』


警告文が下駄箱に入ってたことも一度や二度じゃない。さすがにカッターの刃が机の中に仕込まれてたときは驚いたけど。

この学校は親の財力は勿論、顔の良し悪しで人を判断している節がある。実際生徒会役員を決まる際も重要視されるのは、やる気じゃなくて人気、つまり美貌だから始末に負えない。

だから大して僕と立場の変わらないカナタは顔が良いからって理由だけで、呼び出しなんてされたことがない。

チャイムが鳴って五時間目が始まったというのに、親衛隊のマシンガントークは止まらない。僕は一応生徒会役員って理由で授業免除――正直、この制度もどうかと思う――が適用されたりするんだけど、この人達、大丈夫なのかな?

いつ頃解放されるかなぁって呑気に構えてたときに、例の眩暈がきちゃったんだよね。滅茶苦茶焦ったよ。僕が多くの生徒から目の敵にされてること、兄貴にも兄ちゃんにも言ってないから、この状況にはきっと驚くだろうなって。

どうしよう、どうしようって内心アワアワしてる間に入れ替わっちゃって……現在僕は兄貴の体になってます。




「どうしたんだよ?さっきから視線が右往左往してっけど?」


ククッと喉を鳴らして、目の前の人はどこか楽しそうに笑う。その笑顔にカァッと顔が赤くなったのが、自分でも分かった。だって良い顔揃いの生徒会の先輩達以上に美人さんなんだもん。……でもこの人、誰?

それにここ、兄貴の働いてる事務所じゃない。入ったことないけど、事務所の近くにある喫茶店だ。コーヒー一杯に数千円するとか噂の、かなり高い……。そういえば座ってる椅子の感触も普通じゃない……!

何で兄貴こんなところにいるの?!


「安心しろって。言っただろ、俺の奢りだって。美味いぞ」


震える指先を叱咤してコーヒーを一口。……緊張しすぎて味なんて分かんないよぉ。

足元でガサッと音がして覗き込んでみれば、兄貴が事務所の必需品を買うときに使うエコバックが見えた。買い出しの帰りに目の前の人と遭遇してここに寄ったって経緯は何となく分かったけど、問題は相手が誰ってこと。事務所の人じゃないってことは確か。

依頼人として会ったことある人かな?


「久しぶりだよな。最近全然店に来てくれねぇんだもん。ずっと気にしてたんだぜ」

「ご、ごめんなさい。最近忙しくて……」


店?最近来てないって、前はしょっちゅう通ってたってこと?

中性的な顔立ちの所為で性別がどっちかさえ分かんない。声もハスキーだし。でも“俺”って言ってたから多分男の人、かな?


「へぇ。大変なんだな、事務員ってのも。俺、頭悪ィからあんまよく分かんねぇけど。でも……会えて良かった。病気とか怪我とか、結構心配したんだからな」

「だ、大丈夫です。忙しいけど体調不良とかは全然。そちらもお元気そうで何よりです」


事務所の依頼人と仮定して、兄貴だったらこんな感じで答えるだろうなって喋り方をしたんだけど……あれ?

目の前の美人さんが不機嫌そうに顔を歪める。な、何か怒ってらっしゃる!


「何で敬語で話すんだよ?」


え?お互い普通に喋る仲なの?兄貴が砕けた口調になるのって、僕や兄ちゃん、ムカイ君とカナタ、あと同僚のタツヤさんくらいのはず。

ホントに兄貴、この人とどんな関係なんだよ~?!

視線ウロウロ、冷汗ダラダラ、心臓バクバクの三拍子に襲われて、いっそのこと気絶しちゃいたいと思ってたそのとき、美人さんのケータイが鳴った。


「もしもーし。……はぁ?一人で捌ききれないくらい客来てるわけじゃ……ん~、あの人がそう言うなら……はいはい、分かりましたよ~。んじゃ」


大きな溜息を吐いてテーブルの上に突っ伏したかと思えば、美人さんは勢いよく顔を上げてパンッと両手を合わせた。


「悪ィ!誘っといて何だけど、仕事戻んなきゃいけなくなった。いつでもいいから……いや、なるべく早い内に店来いよ。……待ってるから」


よく分かんないけど耳を赤くしたその人は慌ただしく店を後にした。あ、ちゃんと宣告通り奢ってくれたよ。

それにしても……ホントに誰だったんだろ?




「た、ただいま戻りました……」

「遅い!買い出しにいつまでかかってるの?!」

「ご、ごめんなさいっ!」


事務所に戻ると、ここの所長さんで、僕達兄弟の恩人であるミキさんが柳眉を吊り上げて仁王立ちで待ち構えていた。スーツが似合うキリッとした美人さんなだけに、怒るとより一層迫力がある。

ミキさんに叱られるのって本当に久しぶりだったから、思わず気をつけの姿勢で固まってしまった。その一瞬で僕が兄貴じゃないって勘付いてくれたらしい。


「もしかして……リョウ君?」

「あ、はい。ちょっと前に替わっちゃって。えっと……兄貴、食料の買い出しに行ってんですか?」

「依頼が大量に舞い込んできちゃってね、社員の大半が徹夜になりそうなのよ。ああ、元々ヒロキ君は定時で帰すつもりだったから心配ないわよ。そんなわけで社員の夜食分を作ってもらおうと思って、今の内に買い出しだけお願いしてたの」

「じゃあ今日は久々にリョウ君の手料理が食べれるってことスか?」

「ヒロキ君が作ってくれるのも美味しいけど、毎日家事してるリョウ君の方が何となくおふくろの味って感じするのよね~」

「時々テッペイ君の癖のある料理も食べたくなるけどな」

僕達兄弟が入れ替わることは、この事務所で働いている皆が知っている。信頼第一の探偵事務所職員だから秘密厳守は折り紙付き。この厄介な体質を他言しないでくれているだけでも助かるのに、入れ替わった際は何かと気を使ってくれる。本当に良い人達ばかりで頭が上がらない。

兄貴ほどうまく立ち回れないけど、僕は出来る限りこの事務所に献身的に尽くすつもりだ。


「じゃあリョウ君。それ冷蔵庫にしたらこの資料打ち込んでくれる?分かるところだけでいいから」

「はい!」




   *




夕方前には元の体に戻ったけど、兄貴が帰ってくると同時に兄ちゃんも帰ってきて、あの美人さんが誰だったのか、訊くタイミングを逃してしまった。兄ちゃんの前で訊いてもよかったのかもしれないけど、もし下手に勘繰られてややこしいことになったら兄貴、きっと困るだろうし。

だけど、先に言っとけばよかったと思ったのは後の祭り。結論を言えば、僕は忘れてしまったのだ。

会長から届いたメールの所為で。


『人のことをあんな風に呼びやがったんだから、当然覚悟はできてるんだろうな?明日覚えてろ』


何このヤバそうなフラグーーーー!

今日は久しぶりに生徒会の仕事休みだったから、会長には会ってないはずなのに……違う。僕は会ってないけど、実際会ったのは――――


「兄ちゃんーーーー!」


一体何しやがりやがったの?!

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