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成りきれるかって?無理でもやり通すしかないんだよ (長男)

初めてこの学校の特色を知ったときはそんな馬鹿なって唖然としたものだけれど、環境が環境だからか、長い物には巻かれろってことなのか、もしくは伝統なのか……とにかく、この学校はおかしい。




体が入れ替わる前にリョウが印刷した紙の束をホチキスで留める作業をしながら、資料の中身を確認する。

生徒会役員や各委員会の委員長に何人の親衛隊員がいるかとか、親衛隊との交流がどうとか、過去にどんな事件が起こったか……などなど。

何これ。


「ヒロキさん、んな変な顔しないで下さい。怪しまれます」

「あ、うん。ごめん」


リョウの親友で、僕達兄弟の秘密を知ってるカナタ君に小声で注意され、気を引き締める。

そうだった。今の僕はリョウだ。ここは生徒会室で、カナタ君の他に四人の生徒がいる。変に思われるような真似はできない。




金持ちの息子ばかりが通うこの学校は、約九割が幼等部からの知り合いらしい。

街からさほど遠くないとはいえ、校舎の建つ小山には自分達が暮らす寮もあって、そこには高級レストラン並みの食堂は勿論、コンビニも設置され、常時管理人、用務員も在中とのこと。欲しいものがあっても今はネットで買える時代だし、長期休暇中を除けば、学校の敷地から出ない面倒臭がりというか、出不精な生徒が殆どとか。

けれども、それではあまりに刺激がない。そして思春期ということもあって、そういった欲求も溜まりやすい。故に、主に異性へと向けられるであろう感情が同性へと転換され、中でも顔の良い生徒が注目される。

人気者を崇める熱烈な支持者の集団、それが親衛隊だと聞いた。

○○様が日々快適に過ごせる環境を貢献したい、というのがモットーらしいけど……僕にはいまいち理解できない。




「リョウち~ん。喉渇いたぁ。お茶入れて~」


長めの金髪をワックスで整えた、緩い雰囲気の男子生徒にそう言われて席を立つけど、ふと気になってその彼に近付く。とても生徒会役員には見えない彼は会計と聞いている。


「リョウちん?」

「カッターシャツの釦、ちゃんと留めて下さい。さすがに四つは開け過ぎです」

「アハッ。なぁに?リョウちん、俺のチラリズムにドキドキしちゃった?」


ニヤニヤ笑いながらふざけた態度をとる姿は、彼の甘いマスクに良く似合うけど、僕の不機嫌を一層煽るだけだ。服装を注意しただけでどうして自分に気があるだなんて思えるのか。見た目だけでなく頭の中まで緩いのかと、溜息を吐きたくなるのをグッと堪える。

代わりに会計の胸元に手を伸ばし、半ば強引に釦を留めた。


「生徒会は生徒の模範となるべき存在だろう。あまりに堅苦しいと息も詰まるだろうけど、さすがにこれは頂けない。世の中、外見で第一印象が決まると言っても過言じゃないんだ。この学校もそんな特色が強いから親衛隊というものがあるんだろう?気やすさとだらしなさを混合するな」

「………」

「それに、今日は気温が高くとも、ついこのあいだまで寒い日が続いていたんだ。寒暖の変化が激しいときというのは風邪を引きやすいんだし。何だかんだで未成年というのは自己管理が――――」

「ゲフン、ゲフン」


わざとらしい咳払いにハッとして恐る恐る周囲を見渡せば、会計に負けて劣らずの明るい頭をしたイケメン会長も、クールビューティー副会長も、渋い雰囲気の精悍な面立ちの書記も、みんなキョトンとこっちを見てた。僕が詰め寄ってた会計に至っては、瞬きさえ忘れてる。

どうしよう、とカナタ君に視線で助けを求めれば、呆れた眼差しを返された。うん、ごめんなさい。


「会計先輩、お茶ッスよね?ほらリョウ、入れに行こうぜ」

「う、うん」


生徒会室に設置されてる給湯室に入るとき、誰が言ったか分からないけど「あれが噂のセッキョー魔……」という呟きの声が聞こえた。

こっちは注意のつもりなのに、説教として捉えられたのがちょっと悲しい。

でもそれよりも、影で説教魔って言われてるのがリョウにバレたら……さすがに怒られるかも。ムカイに。




「ただいま」

「兄貴おかえり。今ちょうどカレーできたところなんだ」


帰ってすぐダイニングキッチンに向かうと、テッペイの体をしたリョウとムカイがいた。僕の体、もといテッペイはまだみたいだ。そういえば靴もなかった。

空間を漂う香辛料の臭いに、食欲が刺激される。辛いのが苦手な僕は、自分の体だと甘口が一番好みなはずなのに、リョウになっているときは何故か辛口が普通に食べられるようになっている。

口の中に分泌される唾液をごくりと飲み干す。


「兄貴、学校で何か変わったこととかなかった?」

「え~と、明日の放課後はHRが終了次第、一度生徒会室に集合して、それから第一会議室に行くって言ってたっけ」

「明日会議なんだよね。帰りもきっと遅くなるし……」


「やだなぁ」と呟くリョウの頭を、ムカイが優しく微笑みながら撫でる。


「バイクも戻ってきたし、明日送り迎えしてやるよ」

「え、ホント?!あ……でも、ムカイ君、明日も講義あるんだよね?」

「大丈夫だ。明日の一限は休講になったし、六限もないからすぐに迎えにいってやれる」

「……ムカイ。明日の一限、本当に休講になったの?」


まさか自主休講ってことじゃないよね?と言外に問いかければ、顔色こそ変わらなかったものの、僅かに視線が泳いだのは見逃さなかった。例えしがない事務員だろうと、探偵事務所の社員を嘗めてもらっちゃ困るよ。


「リョウ、明日はいつも通り自転車で行きなさい」

「うん。……ムカイ君、ありがとう。気持ちだけ貰うね」


一瞬でも期待していたようで、声がちょっと沈んだものの、ムカイに礼を言うその表情は本当に嬉しそうだった。ムカイもその雰囲気に中てられたようで、若干耳を赤くして照れた様子を見せた。

微笑ましいなぁと思う反面、リョウが一番に頼りにしてるのは自分やテッペイじゃなくてムカイなんだと実感して、ちょっと落ち込む。手のかからない子だから助かるっていえば助かるんだけど、正直、もっと頼ってほしいと思う。

……免許はあるけど車ないから送り迎えはできないけど。




   *




晩御飯を食べてお風呂に入ってリビングで寛いでいたら、入れ替わるタイミングに起こる眩暈に襲われて、目を開けたら案の定元の体に戻っていた。

目の前には憮然とした同僚の顔があって、思わず「何?」って訊ねたら「別に」と不貞腐れた声で返事された。別にって顔してないよ。


「まさか、テッペイに変なことしようとしてないよね?」

「しようとしたらお前に戻ったんだよ。……チッ。前に俺のPCの壁紙弄ったのを理由に彼是しようと思ってたのによ」

「……間一髪で戻れて何よりだよ」


前にテッペイが僕の体になってたとき、タツヤのPCの壁紙をボディービルダーの画像に変えてたらしい。僕を含め他の社員は大爆笑だったけど、やられた本人はかなり腸が煮えくり返ってた。


「さて、そろそろ帰るか。送ってく」

「当然。テッペイを送るつもりだったからミキさん帰しちゃったんでしょ?」


車のキーを弄びながら外へ向かおうとする奴の後ろ姿を一瞥し、こっそり溜息を吐く。

タツヤがゲイであり、テッペイを狙っていることを、僕とミキさんだけは知っている。テッペイは、僕が知っていることは知らない。

ホントはテッペイに何かしら言った方がいいのかもしれないけど……。


「僕もつくづく甘いなぁ」


タツヤに「俺の恋路を邪魔するな」って言われたのはともかく、僕の体である限り、こいつがテッペイに手を出すはずがないと何となく分かるからだ。

万一そんな真似したら……説教なんて生温いことしない。容赦なく使いモノにならなくしてやる。

何をって?言うまでもなく、“アレ”です。“アレ”。

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