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×××が現れた! (三男3)

後頭部に受けた衝撃によって前方に傾く体。反射で顔だけ振り返ってみたものの、時間的に廊下の照明は既に落ちてて、校舎の上空から降り注ぐ月明かりだけが頼りという薄暗い場所だからか、そこに佇む相手の顔はぼやけてて……あ、ぼやけてるのは殴られたショックで視界がぶれてる所為か。

リノリウムの床に横たわると同時に遠ざかる足音。一人分だからきっと単独犯。

僕、誰にやられたんだろう。生徒会に近付くなって名目なら親衛隊の可能性が高いだろうし、愛敬君関係なら生徒会の先輩達だけど……そっちはあまり考えたくないかな。補佐といえど、今まで生徒会の一員として貢献してきたつもりだし。


「油断したなぁ……」


さすがに夜九時となると生徒は寮に帰ってるって、学校にいるはずないって、そんな思い込みがあった。

それに……今日は兄ちゃんとムカイ君が一緒にご飯食べようって、家で僕の帰りを待っててくれてるから急いで帰らなきゃって、気持ちが逸ってた。本当に油断してた。

……最後に皆でご飯食べたのって、いつだっけ?兄貴も、兄ちゃんも、今は同じ学校に通ってて……近い場所にいるはずなのに、何でだろう、凄く遠く感じる。

でも仕方ないよね。兄貴も兄ちゃんも遊びで来てるわけじゃないんだし。

もし、僕が兄貴と兄ちゃんの弟だって学校の皆に知られたら、ますます僕の風当たりって強くなるんだろうなぁ。でもそれなら別に、構わない。けど万が一、嫌われ者の僕の兄だって目で二人が見られるようになったら……二人に顔向けできない。

兄貴にも兄ちゃんにも失望される日がきたら……きっとムカイ君も……。


「会いたいよぉ。ムカイ君……」


いっぱい、いっぱい、話したいことがある。

励まして。労わって。叱咤して。悼んで。でも……できることなら、褒めてほしいんだ。

よくやったなって、言われたい。

目頭が熱くなって、ポロリと涙が零れたのを最後に、僕の意識はシャットダウンした。




「まさか……までここに……なんてね」

「それより………ですか!」

「勿論……だって……」

「なら……!」


誰かと誰かが言い争ってる。寝ている僕を気遣ってか声を抑えてるみたいで内容はよく聞こえなかったけど、その二人がかなり怒ってるのは何となく分かる。

ここがどこで、今何時で、そして誰が傍にいるのか確認したかったけど、瞼が酷く重たい。そういえば最近あまり睡眠とれなかったからなぁ。ここぞとばかりに体は休む気でいるんだけど……起きなきゃ駄目なんだって!生徒会室に溜まった書類、まだまだいっぱいあるんだから。

眠りを欲する自身に鞭打ってどうにか目を覚まそうとした次の瞬間、ゆっくりと頭を撫でられた。


「おやすみ、リョウ」


優しく、睦言を囁くように慈愛の込められた声。そして額に触れた柔らかな感触。

その人はこの部屋の主らしき人物に一、二言喋ると部屋を出て行った。

待って。待って。

手を伸ばして引き留めたくても、思うように声が出なくて、指一本まともに動かなかった。

だからこれが夢だったのか、そうじゃなかったのか。

確認するよりも早く、僕の意識は一度も視界を広げることのないまま再び沈んでいった。




蛍光灯の光じゃなくて、カーテンから差し込んだ日差しで明るみになった白い天井。家の自室でも生徒会室内に設置された仮眠室のものとも違うそこを見つめて数十秒。

え~と……ここ、どこ?

場所を確認しようとふと横を見て、吃驚した。


「おはよう」

「お、お……はよう」


椅子に腰かけた兄貴がジッと僕を凝視していた。右半身に陽光を浴びながらもその眩さに顔を顰めることもなく、それどころか身動ぎ一つしない。喜怒哀楽何の感情も浮かばせていない表情で瞬きもせずにいるから、まるでマネキンに見つめられてるみたいで居心地が悪い。容貌が整ってる分、余計そんな気持ちにさせられるんですけど。


「リョウが眠ってる間にトクさんに診てもらったんだ。脳震盪だって。どう?頭、痛む?」


そういえばトクさんって医師免許持ってたっけ。どういうわけか、医者じゃなくて守衛やってるけど……じゃなくて。

頭、という単語で気絶させられたことを思い出す。やっと最低限片付けなきゃいけない仕事終わらせたその矢先に後ろからガツンと……。

あれ?でも、ここ、多分兄貴の部屋だよね?寮の。

僕と兄貴は赤の他人って設定になってるはずなのに、何で?


「大丈夫。それより僕――――」

「誰にやられたの?」


何故ここに?

そう続けようとした言葉を遮って、兄貴が声を被せてきた。……今まで聞いたことないくらい、背筋が凍りそうなまでに冷たい声で。

声だけじゃなくて僕を真っ直ぐに見つめてくる双眸もまた、比例するように据わってるから益々怖い。


「わ……かんない。暗かったし、振り返ろうとしたら目の前霞んでたから」

「………」

「………」

「………」


……うわぁぁぁ!怖いっ!兄貴、何か言って!この沈黙の均衡、いつ崩れるの?!

兄ちゃん、ムカイ君!助けて!


「あ、のさ、兄貴。面倒見てくれてありがとね。このこと、風紀委員会に連絡してちゃんと対処してもらうから」

「………」

「兄貴の部屋で目が覚めたってことは、兄貴が僕を運んでくれたんだよね?ごめんね。重かったでしょ?人目とか大丈夫だった?もし見られてたら僕らの関係、色んな人に聞かれちゃうだろうから色々大変だろうし」

「………」

「そうだ!兄貴とムカイ君に連絡しなきゃ。遅くなるって伝えてたけど、昨日は二人が家で待っててくれることになってて……」

「昨日の内にテッペイに連絡入れておいたから」

「あ、ありがとう……」


殴られた後頭部を擦ってみると、ザラザラとした包帯の感触がした。

……さすがに兄貴も勘付いてるだろうなぁ。

生徒会の先輩達に近付く為に補佐となって、最近じゃ愛敬君を利用してより一層先輩達に媚売ってる……なんて馬鹿げた噂の所為で、僕が制裁(こんな目)に遭ってるってこと。

この学校に来たときには……いや、その前から既にそんな情報掴んでたのかもしれない。例えそうでなかったとしても、今回の件で確実に兄貴には知られてしまった。

決して事実じゃないけれど、しかしそのような不名誉な噂を流されてしまう弟。

兄貴には知られたくなかったのに……!


「頭の他にも、手首、腕、足にも痣があった。何かにぶつけたような内出血に関しては、リョウはパルクールやってるし、それでかなって思わないでもなかったけど……でも、掴まれた手形の痕だったり、引っかき傷は明らかに偶然じゃないよね。誰に、どういった経緯でやられたのか、ちゃんと説明して」

「言ったら……どうするの?」

「その子達と直接話す。絶対有り得ないけど、例えリョウが先に手を出したんだとしても、さすがにこれは限度を超えてる。相手の生家が富豪だろうと権力者だろうと、関係ないよ。自業自得を味わわせてあげるだけだから」


唇だけっていう必要最低限の表情筋しか動かさないで、なのに声色だけは普段通りとか。心なしか瞳孔開いてる気が……。

ヤバイ……兄貴、ブチ切れてる。せっきょー魔どころの話じゃない。

でも、言われるがままに打ち明けたら、兄貴は間違いなく行動に移す。兄貴は職業柄、情報には敏いし、攻撃する相手の家がどれだけ有閑階級だろうとそれに対抗しうるネタを付きつけるだろうことは想像に難くないけど。

でも、それでも。


「言わない」

「………?!」

「兄貴の気持ちはすっごくありがたいよ。でも、人って無情にもなれるけど、逆に心馳せを持つことだってできるんだよ」


例えば僕が生徒会補佐になったばかりの頃、クラスは僕のことが気に食わない人で大半だった。でも生徒会に興味がない子だったりカナタの親衛隊をはじめ、徐々に視野を広く持ってくれる子が増えて、今じゃ愛敬君を除いた全員が僕を助けてくれる。

クラスメイトだけじゃない。風紀委員だったり、各委員会の委員長だったり、たまにだけどF組の先輩らしき人だったり……色んな人が僕に気を掛けてくれる。

時間は掛かるかもしれない。僕を理解しようとしてくれた上で僕に敵意を持たれたなら仕方がないけど、単に噂だけで理非曲直をわけまえない行動をとられてるなら、分かってもらいたいんだ。知ってもらいたいんだ。伝えたいんだ。

僕が、噂と違う人間であることを。

三男、“凶漢”と遭遇!


頭部にダメージを受けて長男の部屋に運ばれた。

さて、三男を運んだ人物は……?

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