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×××が現れた! (三男2)

兄貴を職員室まで送り届けた僕の足は教室ではなく、生徒会室へと向かっていた。本当は教室に行ってクラスの皆と一緒に授業受けたいけど、然うは問屋が卸さない。生徒会室の机の上に積まれた書類がとっとと片付けろと言わんばかりに積み上がってるから。

ふと窓ガラスに映った自分の顔を見て自嘲する。さっき兄貴、僕を見て驚いてたなぁ。多分あれ、迎えに来たのが僕だったってだけじゃなくて、この顔色を見てって意味合いの方が大きいんだろうな。確かに酷い顔してるもん。

最近碌に食べてないし、寝てもいない。そんな時間があったら、学校にいる間は生徒会の仕事に集中して、帰ってからは特待生として学力キープの為に勉強する。こんな生活してたらいつか倒れるかもしれないけど……でも、まだ大丈夫。


「ちょっと!」


背後から呼び止める声に振り返ると、睫毛バサバサの僕よりちょっと背の高い、けど小柄な先輩らしき生徒が二人、体格の良い同じく先輩らしき人が三人立っていた。

このパターン……親衛隊の制裁ですか。そうですか。

そもそも今の時間、授業中なんですけど。


「何でしょう?」

「君、親衛隊に喧嘩売ってるの?」

「厚かましく生徒会補佐になっただけじゃなくて、最近は金魚のフンよろしく転校生と一緒に必要以上に生徒会の皆様に近付いたりして」

「生徒会補佐はカナタに頼まれてなったんです。これまでに何度もそうお伝えしました。それに転校生と一緒に生徒会に近付いたって、無理矢理連れ回されてる身にもなって下さい。そもそも僕も生徒会の一員です。あ、認めてないんでしたっけ。そうですか」


……眠気の所為かな。ちょっとイライラしてやさぐれてるかも。

今の僕の態度って感じ悪かったよね。でも間違ったこと言ったとは思ってませんから。

多分口振りだけじゃなくて顔にも出てたのかもしれない。そんな僕が非常に気に食わなかったようで、小柄な先輩達は柳眉を吊り上がらせ、後ろに控えてた大柄な先輩方はズイッと前に出てきた。


「随分生意気なこと言うなぁ、お前」

「痛い目見ないと分かんないようだね」

「その不細工な顔、男前にしてやるよ」


ついに平凡から不細工に格下げですか。そうですか。

なんて考えてる場合じゃないよね。指の関節パキパキ言わせながら近付いてきてるし。暴力反対。フルボッコ断固拒否。

と、いうことで逃げよう。


「待ちやがれ!」


待てと言われて誰が待つんだよ!

とにかく怒られてもいいから授業受けてる教室に駆け込もうと思いひたすら廊下を走るけど、全く人気がない。……そういえばここ、特別棟だ。一時間目から特別教室使ってるクラスってあまりないのかも……。

生徒会室は二つ上の階だけど、この人達連れたまま行けるはずないし。滑り込みで中に入れたとしてもドアをドンドン叩かれ続けたらいい迷惑。やっぱりどこかで撒くしかない。

階段を上るか下りるか、逡巡してた所為で腕を掴まれかけたけど回避。そして上がるフリをして壁を登るようにして蹴って空中で半回転し、手摺りを掴んで踊り場を通り越して階段を下る。


「うぉ?!」

「何だっ?今の動き?!」


パルクールです。親衛隊(あなた方)や愛敬君から逃げたりするのに重宝してます。

最近練習行けないのに、追いかけられる機会が多い所為か、否が応にも鍛えられてる気がする。その点に関してだけ、嬉しいような、嬉しくないような……。

ふと視線を感じてそちらを向くと、向かいの校舎にいる一人の生徒と目が合った。瓶底眼鏡にマリモを連想させる鬘を被った彼は、まさしくここ数日の波乱の元凶。

僕を見つけた彼は嬉しそうに口元を歪ませて駆け出した。傍にいた会長と副会長、それに会計先輩らしき人達が慌てた様子で愛敬君の後に続く。

うわああああ!何でこんなときにっ!というか、何で皆、授業受けてないんだよ~!そして会長達は仕事しろー!


「リョーウー!」

「待ちやがれ、補佐野郎!」

「ちょこまかと!」


声を弾ませる愛敬君と、苛立つ親衛隊。二つの勢力に追われる僕。

あ、もう泣きそう……。

精神的には勿論、寝不足と空腹に苛まれた体力的にも限界がきてたみたい。階段を上って角を曲ったところで膝が笑った。一歩の踏み出しが非常に重い。

もう駄目か、と唇をキュッと噛み締めた刹那、すぐ脇の扉が開いてその教室に引きずり込まれた。

数秒後、足音と共に声が聞こえた。


「ちっ!この階にはいねぇ。上か」

「あれ?お前ら何だ?もしかして親衛隊か?!」

「ルカ、どうし……あ?お前ら今、授業中だろうが?こんなところで何してやがる?」

「か、会長!それに……副会長に会計様……!」

「一体リョウに何しようとしてたんだ?!リョウをどこにやったんだよ?!」

「し、知らないよ!」

「俺らがここに来たときにはいなかったし、多分上の階に……」

「というか転校生!お前、生徒会の皆様の邪魔すんじゃねぇよ!」

「邪魔してんのはお前らだろ!お前ら親衛隊がこいつらを孤立させてたから、こいつらには友達がいなかったんだぞ!親衛隊なんて解散しろよ!こいつらが嫌がってるの分からないのかよ?!」

「なっ?!」

「転校生!何勝手なことを……!」

「全く。ルカの言うとおりだな」

「そのとおりですね。私達に親衛隊なんて必要ありません」

「ホント~。鬱陶しいんだよね~」

「そ、そんな……」

「な、何で……」


愛敬君の恫喝に会長、副会長、会計先輩の非難と罵倒。それにショックを受けたのか、親衛隊は声を詰まらせながら立ち去り、愛敬君達もその後で僕達(・・)のいる教室の前から姿を消した。


「あのバ会長、何が「今、授業中だろうが?」だ。てめぇらもこんなところで何やってんだっつの」

「ありがと、兄ちゃん。助かったよ」

「さっきから騒がしかったのには気付いてたけど、まさかお前が追いかけ回されてるなんて思わなかったぜ。お前の名前聞こえてこなきゃ、マジでシカトしてた」

「いやいやいや。生徒が授業サボってるんだから注意しに行こうよ」

「こっちも暇じゃねぇんだよ。教材研究やってたっつの。つーか百歩譲って親衛隊と生徒会だけならまだしも、そこにあの宇宙人がいるなら余計に関わりたくねぇよ」

「え……まさか兄ちゃん、愛敬君と接触しちゃった……?」

「してねぇよ。したくねぇから極力会わねぇように細心の注意を払ってんだよ」


鼻に皺を寄せて心底嫌そうな顔をしてるし、愛敬君が学園にどんな被害を齎したのかは重々承知してるみたい。ユタカ先生に聞いたのかな?

でも油断はできない。愛敬君はよく親衛隊に「見た目で判断するな!」って口にするけど、その彼こそが容姿端麗な人に食い付きたがる。だから兄ちゃんのことを知るのも時間の問題かもしれない。

心配なのは兄貴も一緒。いくら変装してるといっても顔のパーツ一つ一つまでは誤魔化し切れない。

二人には二人のやるべきことに集中してもらいたいのに……。


「ところで兄ちゃん、教育実習って母校じゃなかったの?」

「マヌケな校長がボケやらがした結果、こうなったんだよ」

「よく分かんないけど……教育実習っていつまで?」

「三週間」


三週間……。兄貴に至っては仕事内容聞いてないし、どれくらいここに滞在するかも分からない。

愛敬君が転校してきたのを切欠に、今この学園は荒れている。そんなときに二人がここに通うことになって、学園の醜態を目の当たりにして……こんなところに弟が通っているんだって、きっと幻滅されてる。

だから兄貴や兄ちゃんがこの場所を去るまでに元の学校に戻したいって思ってるんだけど……今の僕にできるだろうか。


「……いいか、リョウ。ただでさえ俺らは入れ替わりっていうhandicapがあるんだ。そして今、兄貴は仕事、俺は教育実習、お前はまともに運営してねぇ生徒会という厄介事を抱きかかえてる。話の通じねぇ宇宙人もいて、今まで以上に身動きの取り辛ぇ状況だけど、ここが踏ん張りどころだ。俺がお前になったとき、俺なりに努力するから、お前も頑張れ」


負けるな。

そう言って僕の頭を撫でながら、兄ちゃんは小さく笑った。

自分だって単位が懸かってるのに……。

照れ隠しでそんな小言を呟きたかったけど、僕は唇を噛み締めるのがやっとだった。

そうしないと、今にも嗚咽が漏れそうだったから。

今度は“親衛隊”が現れました。

入隊当初は小柄でも、成長期を迎えて体格が良くなった子もいるので、チワワ系男子ばかりが隊員とは限りません。



三男を助けたい気持ちは長男も次男も同じですが、次男は三男が助けを求めれば動くけれど、それまでは三男自身に任せる姿勢。

長兄は自分が頼られずとも自身がアウトだと判断したら行動するつもり。

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