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×××が現れた! (次男1)

作者は教育学部に通っていたわけでも教育実習に詳しいわけでもないので、変に思う箇所があっても目を瞑って下さい。

――――ブシャッ


持ってたコーヒーの容器を思い切り握り潰して固まった、目の前の幼馴染。これぞまさしく鳩が豆鉄砲を食ったような顔!

いや~、想像以上に驚いてんなぁ。中身零れて右手、超濡れてんぞ。隣りのカップルも他の席片付けに来たクルーのお姉さんも、お前のこと凝視してっけどいいの?


「……おい、どういうことだ?」

「その前に手ぇ拭けよ。お前、目立つの好きだっけ?」

「お前の所為だろうが!」

「ギャー!汚れた手で胸倉掴むなっ、染みが付くだろうが!今日の洗濯当番、リョウなんだぞ!」

「だから!何で実習先がお前の母校じゃなくてリョウの学校に変更になったんだよ?!あ?!」

「お前、リョウに関することとなるとホント、柄悪くなるのな」


マジで文化祭、こいつ連れて来なくてよかった。あのときリョウ――途中から兄貴だったけど――の奴、制裁で体育倉庫に監禁されてたっていうし。そんな目に合ってたなんてこいつに知れてみろ。helicopter(モンスター) parent(ペアレント)ならぬguardian(保護者的)child()hood() friend() が学校押し掛けんぞ。


「お前はただでさえあいつと一つ屋根の下で暮らしてるのに……」

「だって家族だし」

「あいつと同じ釜の飯を毎日食って……」

「家族だからな」

「服の貸し借りもやったりして……」

「兄弟仲良いもん」


それよりムカイよ、濡れた手拭かずに俯きながらブツブツ喋ってるから、さすがに周りからの「うわぁ……」な視線が痛くなってきてんだけど。


「まぁ、聞け。教育実習って他の大学じゃ四回生でやるのが通常らしいけど、うちの大学、俺みたいに一回生のときから教職科目中心に受けてたら三回生でも可能ってのは知ってるよな?」

「ああ。去年母校に内諾貰ったって言ってたな」

「そ・れ・が!あの校長、俺が当時二回生だったからって、教育実習は二年後だと勘違いしてやがったんだよ。おかげで今年は現四回生の受け入れしかできないって急に言われてよ」


俺が在学してた頃からあのバーコード禿げ、抜けてる抜けてるたぁ思ってたけど、まさかここまでだったとは……。

そういやいつだったか、全校集会のときに「この前トイレのスリッパ履き替えるの忘れて、そのまま校長室に行っちゃってたよ。テヘペロ」とか言って、後から教頭に怒られてたな。生徒だった俺らは爆笑してたけど。

……何であんなのが学校の先生になれたんだ?


「来年来てくれとか言われたけど、ふざけんなって話だろ。だから代わりに受け入れてくれる近隣の高校探せって言ってやったわけ」

「それで星冨がOKしてくれたってわけか」

「Yes!That’s right]

「くっそ……俺も教職科目やっとくんだった」


いやいや、お前教師になんねぇじゃん。ミキさんの跡継ぐんだし。

でもまさかリョウの学校で教育実習やれるとはなぁ。弟に“兄ちゃん”じゃなくて“先生”と呼ばれるシチュエーション……あ、何かニヤける。

そんな俺の胸の内が表情に出てたらしい。目の前に座るムカイの悔しさと羨ましさと妬ましさが滲み出た顔といったらもう……ざまぁ~。

でもさすがに嬉しいこと尽くしってわけにゃいかねぇよなぁ。別に遊びに行くわけじゃねぇんだし。教材研究、授業参観、実習……それ以外に先生や生徒とのコミュニケーションなんかも必要不可欠なわけだし。

それにあの学校って普通の男子校とは嗜好がだいぶ変わってるしな。生徒会は一風変わった人気投票制、金持ち子息の集まりとあって金銭感覚がおかしいし、ゲイやバイの集まりで……etc。

加えて文化祭での美女コン(アレ)。奴らにとって俺が可食ってのは痛過ぎるくらい分かっちまったしなぁ。さすがに教育実習生だから奇襲かけられるこたぁないと思うけど。

そうそう、ムカイが言った星冨っていうのは私立星稜冨和学園の略称な。




そんで、やってきました。リョウの通う学校……もとい俺の実習先。

実習は明日からだけど、先に挨拶も兼ねて校舎内を案内したいから突如来てくれって言われたんだよな。折角の日曜だってのに。トホホ……。

とりあえずバイクから下りて校門横の守衛室らしき小屋……じゃねぇ、家のドアをピンポンする。


「すんま……すみません、明日からこちらでお世話になる教育実習生なんですが」


危ねぇ、危ねぇ。タメ語厳禁。

ちょっとソワソワしながら待ち構えてると、出てきたのは文化祭んとき俺らを校舎に入れてくれた用務員。今日もあんときと負けて劣らずのだらしない身嗜み。せめてシャツの裾、入れるなら入れる、出すなら出しとけよ。

兄貴が俺になってたら、スラックスの中に入れろって指摘してんぞ。きっと。


「はい、はい、はいよ。教育実習生君な。聞いちょるよ、ちょい待ち。ユタカ先生~」

「はい。ここに」


用務員の後ろから出てきたのは、眼鏡を掛けた小柄な中年。今じゃ目や口元の皺が深いけど、若い頃は結構モテてたんだろなって感じの老紳士。


「僕が君の担当です。どうぞよろしく」

「よろしくお願いします。えっと……」

「ユタカ先生と普段呼ばれてるんで、君もそう呼んでくれて構いませんよ」

「儂もよろしく。儂はトクさん呼ばれとるけん、そう呼んじょくれ。君のことはテッペイ君て呼んでよか?」

「はい」


そこで用務員、もといトクさん別れて、ユタカ先生と並んで学校の敷地内に入った。

因みにバイクはトクさんが預かってくれた。


「折角の日曜日なのにすみませんねぇ。挨拶なら明日、全教職員が揃っているときにすべきだと僕は思うのですが、理事長がどうしても今日がいいと仰いましてね」

「いえ。寧ろ休日がなくなってしまったのはユタカ先生の方ですよね。お手数おかけします」

「構いませんよ。僕は静かな校舎を歩くのが趣味でしてね、最近校内が慌ただしいので、今日みたいな静かな日は逆に好都合なんですよ」


俺だったら「折角の日曜が!」って腹立つなり凹むなり……って、なってたか、さっき。

でもこの先生、あまりにしみじみと言うからホントに苦に思ってないんだろうなって思う。さすが年の功というべきか。

でも校内が慌ただしいって何故に?文化祭はこないだ終わったし、先週リョウの体に入れ替わったときだって、カナタもバ会長も別に何も言ってなかったしなぁ?

う~む……。




三十分以上歩いて、最後に理事長室のある特別棟の最上階に向かってたときだった。


「………!!……!!」


何て言ってるかさっぱり分かんねぇけど、下から随分とでけぇ喚き声が聞こえた。間近だと超煩そう。声音の高さからして教員じゃなくて生徒か?休みなのに。

……つーかこの声、近付いてきてね?


「テッペイ君、こちらへ」


やや急ぎ足のユタカ先生に連れて行かれたのは理事長室の隣りの部屋。トロフィーとか校旗とかが仕舞ってある。

何でここに……って、ユタカ先生、眉間の皺が凄ぇことになってんだけど!

静かにするよう言われて黙ってたら、でけぇ足音がこの部屋の前を通り過ぎて、次にバンッ、と扉が開く音がした。多分理事長室。


「叔父さん!教育実習の先生って来たか?!」


距離のある、しかも室内にいる俺の耳にもはっきり聞こえるキンキン煩ぇ声。中にいる理事長と思わしき相手の声はさすがに聞こえねぇけど、喚き声の奴のおかげでどんな会話がなされたか、大体想像がついた。

要約すれば二分後、理事長は甥だという煩い声の主と共に俺との挨拶をボイコットしやがった。

「腹減った!!」って騒ぐ甥を連れてメシ食いに出て行きやがったぞ?!

しかも「教育実習生なんか待たせとけばいい」って……?!


「……理事長には私から話しておきますので、君は帰ってもらって結構ですよ」

「は?!」

「ですがその前に、予備知識として頭に入れておいてほしいことがあります」


そしてユタカ先生の口から語られた話に、俺は本気で頭が痛くなった。

教育実習、来年まで待った方が良かったかもしんねぇ……。

今回の×××に当て嵌まるのは“教育実習生”です。


生徒の前にはまだ現れてないですが(笑)

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