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皆でお手伝いしました (次男)

「だーーーーっ!アホだろ!アホだろ、お前!仮にもミキさんの息子だろ!マジで何やってんだって話!」

「煩い。俺にだって譲れないものくらいある」

「お前、どんだけリョウのこととなると見境なくなるんだよ?カテキョならひっつくような体勢になるのもしゃーねーだろ。それが嫌で無理矢理カテキョ辞めさすとか……アホか!」

「今更だろうが。食べてしまいたいくらい、俺がリョウを溺愛してるのは」

「開き直るな!」


今朝になって兄貴から聞いた話ではあるが、どうやらこのアホの幼馴染は、リョウが女と部屋で二人きりという状況が堪え難く、うちに不法侵入した揚句リョウのアサインメントを妨害しやがったとか。ターゲットをうちから追い出すと、ミキさんに電話を掛けて「今すぐリョウのカテキョを切らないと東海林先輩に全てバラす」などと脅したらしい。当然ミキさんだって反論したらしいけど、ムカイのリョウLOVEは筋金入り。最終的に「言うこと聞かないとリョウと無理心中してやる」なんてことを言ったとか言わなかったとか。ヤンデレか。

あ、因みにムカイが電話掛けてる間、リョウは晩御飯の準備してたんだと。あいつ、ムカイを親切で頼りになる隣りのお兄さんだと頭から疑ってないんだよ。厄介なことに。でもまぁ、物騒な会話を聞いてなくて何よりか。

……うん。文化祭の件、こいつに報せなくて正解だわ。


「んで、リョウの奴、ターゲットについて何か言ってたか?」

「話してみる限り、浮気するようなタイプには見えなかったとだけ。彼氏に対して不満を零すようなこともなかったらしい。とはいえ、リョウが接触できたのは昨日限りだし、たった一日で人の本質に色を付けるなんてこと素人にはできないから、お袋はあくまで参考意見として聞いとくんだと」

「お前が邪魔しなきゃ、他にも色々訊き出せたかもしれないのによ」


「ケッ」と悪態を吐いて、机の上に置かれた食後のおやつのポテチを摘む。勿論ムカイの奢りだ。

……さぁて、俺はこのあとどう動こうかねぇ。

とりあえずミキさんから言われたのは、東海林先輩の大学内での人間関係、評判、行動範囲といったもの。ここらへんは既に把握済み。俺って仕事早ぇ。Wonderful!

え?たった数日でどうしてここまで把握してんのかって?それは東海林先輩と同じ学部の奴らに聞いたから。俺、これでも結構顔広いし。

知らなかったけど、東海林先輩は毎年ミスF大候補に挙がっているらしい。だからそんな彼女に近付こうとする輩が多いんだとか。んで、俺に情報くれた奴らの内三人くらいは特にコアなファンだった。食べ物の好き嫌いだけじゃなく、靴を履き換えるときは必ず左足からだとか、普段何処の棟のトイレを使ってるのかまで……ヒくわ~。あいつら、さすがに盗撮とか、犯罪にまで手ぇ染めてねぇよな?ガクブル。

そういや今年のミスコンの候補者リストとか貰ったけど、別にいらねぇのに。

ミスコン……俺が参加されられたのは美女コンだけど……あれ?何か、目から滝が……。




   *




ちょ~ど四限の講義が終わって席を立とうとした瞬間に、毎度のクラリ。

あ、今回も兄貴の体だ。つーかここ、結構大学の近く?あの高い建物、情報処理学科のだよな。何で兄貴がこんなところに……って、あ!

凭れていた電柱からひょっこり顔を足して周囲を見渡してみれば、長い黒髪のスレンダーな後姿。実物を見たのは昨日が初めてだけど、間違いねぇ、東海林先輩だ。

そういや俺達にこの件頼むとき、ミキさん言ってたな。


「他にも色々急ぎの調査が舞い込んできて人手が足りないのよ。だから今は内勤だけど、調査員としての経験も積んでるヒロキ君にホントは頼みたいところなの。でも今はいつ入れ替わりがあるか分からないでしょう?その点東海林チアキ(彼女)はテッペイ君と同じ大学で、家庭教師のバイトで受け持ちする生徒の募集も掛けている。それにヒロキ君の見た目なら充分大学生としても通用するし、万一彼女があなた達の誰かと接触していたときに入れ替わりがあっても、どうにか取り繕えるしね」


てことで、リョウが家庭教師の生徒、俺が大学内での情報収集、そんで兄貴がターゲットの尾行ってことになったんだよな。

確かに兄貴なら大学生……うん、高校卒業したばっかの一回生とでも言えば疑われねぇだろうし。そっか、今まで東海林先輩を張ってたのか。

……てことは、俺のこともチラッとどっかで見かけてたりして。うわ~、俺、昨日今日と別に変なことしてねぇよな?

ちょっと焦りながらも、今は東海林先輩を見失わないよう追うのが先決と、一定の距離を保ちつつ後をつける。後を追いかけられているとは露にも思ってねぇみたいで、一度たりとも振り返る素振りはない。フッフッフ、俺もやればできるじゃん、尾行!

お前は雑すぎると、前に資料整理のときブーたれてたタツヤの顔を思い出し、内心あっかんベーと舌を出したそのとき、突如肩を叩かれた。


「オイコラ、百面相しながら尾行するなよ。テッペイ」

「っ?!?!?!」


振り返った瞬間に頬に喰い込んだ長い指。一瞬「何すんだ?!」って思ったけど、それよりまず、何でこいつがここにいるんだよ?!


「タ、タツヤ?!何でここに?!つーか、何で俺って……?!」

「担当してる依頼、さっき交替の時間に入ったから、こっちは今どんな感じかと思って来てみたんだよ。そしたらヒロキの姿した、不審者に片足突っ込んだような歩き方してる奴がいたからな。すぐにお前だと分かった」

「何だよ、不審者に片足突っ込んだような歩き方って……て、あーっ!お前の所為で見失っちまったじゃねぇか!」


ハッと前を向いたら、東海林先輩いねぇし!

どこだどこだと見渡していたら「落ち着け」と思い切り頭押さえられた。ちょ、痛ぇし!

奴の手を払い除けて睨み上げたら、タツヤは俺を見ることなくジッと一つの建物を眺めていた。俺もその視線を追ってみたら……あったのは本屋。

あ、ターゲット発見。


「入るぞ」

「え?ちょ……オイ!」


いいのかよ?ちっちゃそうなトコだぞ?俺らの姿、見つかるんじゃねぇの?

ざっと見て店内にいたのは、半分舟漕いでるカウンターにいる爺さんと漫画コーナーにいる東海林先輩のみ。俺らは漫画コーナーからほど近い、けど東海林先輩からこっち側が見えない就職・資格のコーナーからそっと様子を窺う。


「そういやお前、進路って決めてるのか?」

「あ~……具体的なことはまだ決めてねぇけど、とりあえず教員免許は取っとこうと思ってる。できりゃ玉の輿にでも乗りてぇところだけど」


ケラケラ笑いながら冗談言ってると、急に肩を抱き寄せられた。グッとタツヤの顔が近付く。


「I have money very well(俺は結構金持ってるぜ)。Will you marry me?(俺と結婚するか?)」

「~~~~誰がっ!」


タツヤの顎に一発食らわせてハッと東海林先輩がいる方に顔を向けば……バシッと視線が合った。

ヤッベ!見つかった!

でも何故か、俺が焦ると同時に東海林先輩もまた、まるでやましいことを見られたような顔をして脱兎の如く店から出て行った。え?何で?

東海林先輩の行動が分からず、俺は茫然と出入り口を眺めた。




だから俺は知らない。

俺が呆気にとられている間にタツヤが東海林先輩が買うかどうか迷っていた一角を眺めて変な顔をしていたこととか……さっきの奴の発言で俺が無意識に顔を真っ赤にしていたことなんて。

テッペイは可愛らしい童顔と話術で学部関係なく人脈を広げているので、大学ではかなりの有名人という設定です。

前の三男の話でチアキ嬢がムカイのことを知っている素振りがありましたが、それはテッペイの連れということで見覚えがあったから、なわけです。

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