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文化祭パニック!【後編】 (三男)

「「美女コン?」」

「ああ、カナタもリョウも外部生だから知らないんですね。各クラスと文化部、運動部の代表一人を女装させて、誰が美人か競い合うんですよ」

「今年はどこが優勝するかな~?書記君なんか着飾れば大和撫子な感じに化けそうだよね~。衣装着たまま俺にお持ち帰りされてね」

「生徒会役員が出場できないのは既知の事実だろう。それに、頼まれてもお前に組み敷かれる気は毛頭ない」

「美女コンは文化祭で一番盛り上がるが、破目を外す生徒も多い。だから毎年、外来を迎え終えた最終日の午後にやるんだよ。今年もどんな奴が出てくるか楽しみ……じゃない、どんな危険が待ち受けてるか分かんねぇし、仕方ないから俺様が現場に着こう」

「ちょっ!会長ズールーイ~。俺も、俺も!」

「いえ、こういうときは現場の状況を見て冷静に判断できる私が」

「大立ち回りする生徒がいないとも限らない。俺が行くのが適切だろう」


美女コンの見回り兼守衛に我こそはと言い合う会長、会計、副会長、書記。

そりゃあ美容系の会社の跡取り息子も多く通ってるわけだし、かなりクオリティーの高いモデルが出場するんだろうけど……。


「カナタ、美女コン見たい?」

「面白半分で見たい気もしないでもないけど、美人だろうが可愛かろうが、所詮男だし。あんま気乗りしない」

「だよねぇ」



……なんて会話してて、美女コンなんて微塵も興味なかったのに。


「何でこんなことに……」


ファンデーションで淡い輝きを放つ肌に上向きの睫毛、ダークベースのアイメイク、そして真っ赤な口紅。全体的に濃い化粧にも拘わらず、それに違和感を抱かせない強烈な印象のロリータファッション。

姿見に映し出された美少女はまさしく僕……というか、兄ちゃんの体。


「こういうのって普通、運動部の中で代表決めるんじゃないんですか?」

「そうなんだけどよ、俺らみたいな骨の作りからして男らしいのは、まずアウトだろ。だからマネージャー勢に頼んでみたんだけど……」

「出場して変なのに付き纏われるようになったらどうするの!」

「出ない代わりにメイクや衣装を担当したんだからいいでしょ!」

「脳筋で不器用な君達にこんな美少女を仕立て上げられるわけないんだから、感謝なさいな」


ガヤガヤ騒がしい運動部員の会話をBGMに、姿見の横にポツンと置かれてる兄ちゃんが着ていた服の入った紙袋を見つめながら思うことはただ一つ。

帰りたい。切実に。


「さぁ、いよいよ最後の一人を紹介しましょう!運動部の美女、カモン!」


兄ちゃん、自業自得なんだからね。ここに来なきゃ女装なんてしなくてもよかったのに。

現在兄貴の体になってどこにいるか知れない兄ちゃんに想いを馳せながら、運動部の誰かに背中を押されて舞台に上がる。

僕が姿を現して、熱気の上がってた会場が更に盛り上がりを見せたのを肌で感じながら、キャットウォークから下がった文化部の代表を視界に入れた瞬間、思わず持ってた傘を落としてしまった。


「ぎゃーーーー!」

「あーーーー!」


予想だにしなかった、意外に早い兄ちゃんとの再会!入れ替わった状態だから体は兄貴だけど。

……って!兄貴までここに来てるの?!文化祭のこと何にも言わなかったのに、何で二人してここに?!というか、仕事は?学校は?!

暫し茫然と二人して立ちつくしてたけど、先に我に返った兄ちゃんは慌てて僕の手を掴んで、僕が出てきた方の舞台裏へと引っ込んだ。

その際に視界の端に映った会長と副会長の姿。ふと思い出したのは、会長は派手な雰囲気の美人が好きで、副会長も夜な夜な部屋に可愛い子を連れ込んでるという噂。

今の兄ちゃんや僕の姿って、まさしく二人のストライクゾーンなんじゃ……。

あーもー!現実逃避したい……。




それから空き教室で着替えとメイク落としを済ませて、二人で色々と話し合った。

どうして兄貴と兄ちゃんがここにいるのかと訊けば、こういう行事があるにも関わらず何も話さなかった僕が心配だったからだという。

中学のとき、授業参観とか体育祭とかいつも報告してたから、今回みたいに言わなかったら不信がられるのも無理ないか。でもまさか自分の用事すっぽかしてまでくるとは思ってなかった。


「お前も俺らのこと心配して敢えて言わなかったんだろうけど、次からちゃんと言えよな」

「うん」


どうして兄ちゃん達を呼ばなかったのか、理由を言わなくても兄ちゃんは勘付いてるみたい。

兄貴も自分の顔にもう少し関心と危機感を持ってくれてたら――――って、そういえば。


「……兄貴のこと、すっかり忘れてた」

「あ。兄貴って今、お前の体だっけ。お前入れ替わる前どこで何してたの?」


今日は誰も近寄らないと思われる外の体育倉庫で監禁されてました。

そう言ったら問答無用で拳骨された。痛い。兄ちゃん、自分の体だって忘れてるよね。

生徒の目を掻い潜りながら玄関でスリッパから靴に履き替えていたとき、ポケットから携帯電話が鳴った。


「もしもし、リョウ?」

「カナタ!」

「ついさっきヒロキさん救出したから、お前テッペイさん連れてもう帰れ。タクシー呼んでるから」

「あ、ありがとう」

「……リョウ」


わっ!あ、兄貴だ……。


「僕やテッペイを文化祭の呼ばなかったのは、何か理由があったからだっていうのは何となく分かる。でも、もし僕達に迷惑掛かるんじゃないかって理由なら、そんなの全然気にしなくていいんだからね。それに、どうしても言いたくなかったとしても、来てほしくないなら来てほしくないって、ただ一言言ってほしいんだ。今回みたいに何も知らされずにいると……心配だし、不安だよ。そりゃあ僕やテッペイじゃ頼りにならないかもしれないけど……」

「ちがっ、違うよ兄貴。兄貴も兄ちゃんも、この学校じゃきっと生徒の目を引いて大変な目に遭うだろうからって、僕の勝手な憶測で言わなかったんだ。だから……ごめん」

「……反省してるみたいだし、これ以上言わない。でも、今後同じようなことが起きるのはごめんだからね」

「うん」


僕の気遣いが逆に兄貴と兄ちゃんを心配させてしまった。

この先、行事なんてまだまだたくさんある。保護者や来賓を招くことだって。それでなくとも僕達は突如中身が入れ替わってしまうのに。

同じような……ううん、それどころかもっと酷いことが起きたとき、僕は素直に二人を頼ることができるのかな……?




翌日、文化祭の後片付けの最中に新聞部発行の号外が届けられた。

どのクラス、部の売り上げが一番だったとか、客入りが好調だったかとか色々載ってるんだけど……。


「あ~……やっぱりなぁ」

「………」


一面を飾ってる写真は……どう見ても女装した兄貴と兄ちゃん。否、中身兄ちゃんと僕なんだけどね。


「あぁ……ホントに綺麗で可愛らしいお二人でしたよ」

「同率一位……俺も間近で見たかった」

「会長、副会長ズリィ~!」

「おい、カナタ!リョウ!この二人が何処のクラスの生徒か調べろ」

「無理で~す」


二人ともこの学校じゃないんで。

この号外……兄貴と兄ちゃんに見せるか否か。さてどうしよう?

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