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文化祭パニック!【前編】 (三男)

畏まった挨拶と行われる日程。各クラス、部活動がどこでどんな模擬店を行うのかが記載された地図。来場された際の注意点……etc。

これらのプリントは、数週間前に僕が生徒会室で打ち出した文章を印刷し、コピーしたものだ。自分で確認した後、他の人にも見てもらったし……誤字、脱字はないはずなんだけど。

文化祭について記された書類を一通り目に通し、僕とカナタに手渡してきた教師らしからぬホスト……もとい、見た目ホストな担任に訊ねる。


「……どこか抜けてるところありました?」

「別に不備があったわけじゃねぇから、んな不安そうな顔すんな」

「じゃあ何スか?わざわざ俺ら呼び止めて」

「お前ら以外の生徒は寮生だろ。だから通常は郵送して実家に届けられるんだが、お前ら二人は自宅通いだし、直接親御さんに渡してもらおうと思ってよ」


「頼んだぞ」と、高そうな腕時計を巻いた手をヒラヒラ振りながら去っていく担任の背中を見送っていると、隣りでカナタが呆れた顔して溜息を吐いた。


「金持ち校がたかが二人分の書類の郵送料、ケチんなっつーの」

「僕は正直助かったって思ってるよ」

「え?お前まさかヒロキさんやテッペイさん呼ばないつもり?!」

「だってここに二人を呼べば、絶対大変なことになるよ?」


平凡な顔をした僕の体に入れ替わってる状態――前みたいに親衛隊に囲まれるような事態を除く――ならいざ知らず、自身の体のままここに来られたら、間違いなく生徒の餌食になる。

兄貴は恰好良いし、兄ちゃんは可愛い。それに二人とも、身内の欲目を差し引いたとしても生徒会の人達に匹敵……或いは凌駕するくらい魅力的だと僕は思うし。


「テッペイさんはまぁ、間違いなくタチに狙われるわな。んでもってヒロキさんはネコ七割、タチ三割ってとこか」

「おまけに兄貴の場合、自分の顔の良さ分かってない節あるし」


モラルとか身のこなしとか人柄とか、外見そっちのけで内面重視だからなぁ。ま、それが兄貴らしいところなんだけど。


「でもヒロキさんは護身術できてテッペイさんは……えーと、何だっけ?あれ。忍者みたいなの」

「パルクール」

「そう、それ」

「兄貴の護身術は多勢に無勢でせいぜい六、七人が限界らしいし、パルクールは格闘技じゃないよ」

「ふぅん。……ま、呼ばなかったら呼ばなかったで、後々大変だと思うけど~」


ニヤニヤと、どこか楽しそうに笑うカナタの脇腹に肘鉄をくらわせて、この話はそこで切り上げた。

でも、本音を言えば迷ってた。だって、言わなかったことを知ったら兄貴も兄ちゃんもムカイ君も悲しむだろうし。

結局プリントを家に持って帰って散々悩んだんだけど……やっぱり言わないことにした。

……だから、兄貴がクシャクシャに丸めてゴミ箱に捨てたそれを拾って読んでしまうなんて、想像もしてなかった。




一日目、二日目と文化祭は終わって、遂に最終日。

生徒会役員の仕事は主に校内の見回り。来客が生徒にちょっかいをかけたり、その逆だったり、連れてきていた子どもが転んで怪我をするといった問題が、毎年のように起きるらしい。

実際に昨日、開き教室で二年生が一年生に難癖付けて脅したという事件があった。報告を受けたときはヒヤッとしたけど、すぐに駆けつけた書記先輩が場を丸く収めて事なきを得たと聞いてホッとした。

いつどこで何が起こるか分からないので、生徒会役員は自分のクラスの催しよりもこちらを優先しなければならないという決まりだ。


「見回り飽きた~」

「決まりなんだから仕方ないよ。それともメイドやりたかった?」

「いやいや。俺がメイドとか有り得ない。寧ろ体格的にリョウだろ」

「それこそないでしょ。わざわざ地味な僕を給仕に使うほど、うちのクラス、可愛い子いないわけじゃないし。それに僕は接客より調理向き」

「リョウの腕前なら、確かにそうだな」


一階の見回りが終わって二階に上がろうとしていたとき、背後からカナタを呼ぶ声がした。


「あのね、さっき副会長様が君のこと呼んでたんだ」

「げ~。何だよ、一体」

「多分生徒会室にいらっしゃるはずだよ。それから補佐の君はコーンを三つほど、第一体育館に運んでほしいって。午後のイベントで急遽必要になったらしいよ」

「何でわざわざんなこと生徒会に要請すんだよ?人使い荒いな。じゃあリョウ、副会長の用が済み次第お前んとこ行くわ」

「もしカナタの方が長引いたら、体育館の入り口で待ってるね」


そうしてまず第一体育館の倉庫に向かったんだけど、あるはずのコーンが見つからない。今、体育館に設置されてる分で全部らしい。仕方なく次は第二体育館……もなくって、第三……もなかった。


「グラウンド用の、底を拭いたら問題ないよね?」


そう思い付いて第三倉庫から出ようとしたとき、背後の扉が閉じられてしまった。


「ちょ、ちょっと待って!」


思い切りガンガン叩いて中に人がいるってアピールするけど、開けられる様子はない。耳を澄ませてみると、誰かがクスクス笑ってる声が聞こえた。

嵌められた……!


「君みたいなのが生徒会面してるの、ムカつくんだよ!」

「仕事をサボったとなったら、間違いなく役員から外されるよね」

「せいぜいそこで反省してるといいよ!」


聞き取り辛いけど、甲高い男子生徒の声。十中八九親衛隊に間違いない。

気配が遠ざかるのを感じ取って、深く溜息。第三体育館倉庫付近で催しはやってないから、第三者がここを開けてくれる可能性は極めて低いんだよね。

カナタが気付いてくれることに期待したいところだけど、親衛隊が言葉巧みに煙に巻くのは想像するに容易いし……望みは薄いよなぁ。


「あ~……やられた」


隅に追いやられてるマットに腰掛けて、さてどうしようかと考える。

携帯電話は持ってないし、窓から逃げるにしたってあまりに小さすぎる。誰かが気付くまでドアを叩き続けるのも、無駄な足掻きな気がするし。

ぼうっと思考に耽って……どれくらい時間が経ったかな。多分一時間以上過ぎたとき、変化が起きた。

一番望んでいなかった、入れ替わりの合図である眩暈。


「何でこんなときに……!」




   *




パッと目を開けると、見ず知らずの人の顔面が目の前まで迫ってきていた。目を瞑って唇を突き出して、まるでキスする直前……ってこの人、男ーーーー!


「みぎゃーーーー?!」


その人の顔を思い切り両手で突っ撥ねて、どうにか難を逃れた。


「な、な、ななな何なんですかーーーー?!」

「何って、いきなり気絶したからマウス・チュー・マウスを……」

「しなくていいです!大丈夫です!」


危ないところだった。例え僕の体じゃないとはいえ、さすがにやられたら兄貴……じゃなくて、この掌は兄ちゃんか。うん、兄ちゃんに顔向けできない。


「あの、本当に大丈夫ですか?」

「あ、はい。どうも心配かけて――――」


……うん?この人確か、美化委員長さんだ。そっちにいるのは野球部の主将さんで……って!何で兄ちゃん、うちの学校にいるの?!


「元気ならお兄さん、ちょっとお願いがあるんだけど」

「へ?」

「さっき俺らの店の品、タダで食べさせてやっただろ?」


ホントに兄ちゃん、何してんのーーーー!


「その御礼に、今日の美女コンに出てほしいんだよね~」


拒否は許しません。誰も彼もがそんな目をしていた。

屈強な体をした運動部員中心に囲まれてるこの状況でノーと言える人がいたら、もはや勇者だと思う……。

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