文化祭パニック!【前編】 (次男)
「こんな面白そうなこと見逃せねぇだろ」
なぁ~んて軽く言ってみたものの、ぶっちゃけちょっと怒ってる。
相手は勿論、俺や兄貴に文化祭の日程を知らせなかったリョウに対して。兄貴がプリント見つけなかったら後の祭りになるトコだった。兄貴、Good job!
だから俺は大学を自主休講して、ムカイに代返を頼むようメールした。
え?リョウを溺愛してるあいつにこのこと知らせなくてもいいのかって?いいの、いいの。だって、あいつが後からこのこと知って悔しがる姿、見たくね?
……あれ?やっぱり俺、ちょっと面白がってる?
胡散臭そうな恰好した――でも髭剃って身嗜み良くすりゃ、男前っぽかった――用務員のおかげで、俺達は無事、リョウの学校に招き入れられた。
リョウに会ってもバレないようにと、俺も兄貴も変装している。他校から遊び半分で来てみました~的な若者を演出してるつもり。
俺は普段から高校生に間違えられるから、いつも着てるのとは雰囲気が違うチャラ男系。……おい、それってあんま変わんないんじゃね?(笑)、なんて思った奴、前に出ろ。いつもはもっと大人しい感じの恰好してるっての。中身だけじゃなくて外見までチャラ男路線でいく気ねぇから!……金ねーし。
「まずはリョウのクラスに行ってみようか」
兄貴も、俺よりはマシだけどチャラい系の服装。兄貴がこんな恰好するの初めて見た。マジ二十六には見えねぇ。俺と同い年って言っても通用しそう。
因みに服は古着屋でバイトしてる後輩から借りた。
「ねぇ、一般の人が入れるのって昨日までじゃなかったっけ?」
「特別客とか?」
「顔がよく見えないけど、恰好良い感じじゃない?」
ヒソヒソ、ヒソヒソ。
だーーーー!言いたいことあるなら堂々と言いやがれ!視線だけならまだ我慢できっけど、口は閉じろ!Shut it!
兄貴は一般客だから興味津々に見られてるんだって思ってるらしいけど、大間違い。
兄貴よ。ここは同性愛者が多い箱庭だって知ってんだろ、しかも審美眼の肥えた。いくら顔隠してても、分かる奴には分かるんだって。俺もその点は少し甘かったけどさ。
……ああ、でも、言ったところで無駄か。兄貴は立ち振る舞いとか品の良さで人を見てるから、容貌は大して気にしないし。だから、自分がカッコ可愛いと言われる顔立ちをしてるって自覚がない。
よく考えりゃもしかして、狼の群れの中に羊を入れちまった系?
どうにか言い包めて兄貴にはお留守番してもらうべきだったかも、と思い始めたところで、目的地だったリョウのクラスに辿り着く。
「おかえりなさいませ、ご主人様」
「た、ただいま……?」
「………?!」
ヒいた。マジで。
共学ならまだ分かる。女子が面白がってやらせてるって想像できるし、ぶっちゃけ俺が高三のとき、隣りのクラスの男子が女子の制服着せられて色モノ喫茶やらされてた。でもあいつらは恥ずかしがってたぞ!無理矢理テンション上げてハイになんなきゃやってらんなかったんだと思う。
でもこいつらは全然違う。恥ずかしがる素振りが全くない。プロ意識を目指す、なんて都合の良いものじゃなくて、何つーか、「メイド服着た僕って可愛い(ハート)、キャ!」みたいな。……うえぇ。
リョウもこんな嗜好に染まっちまったらどうしよう……って、あっ!
「兄貴。リョウが俺達を呼ばなかった理由って……」
「うん。メイドをやることになったからかも」
一通り教室の中を見渡して、俺らの顔立ちにつられたっぽい生徒何人かと目が合うけど……いない。休憩中か?
「あ……あのさ、メイドってここにいるので全員?」
思い切って、鳥肌が立つ名称のドリンクを運んできたメイド男子に訊ねてみた。
「今四人、外で呼び込みしてますけど……もしかして誰かのご家族なんですか?!」
「え?!誰の?!」
「こんな素敵な御兄弟がいるなんて!」
「あの!いつもお世話になってます!」
ヤッッッベェェェェェ!地雷踏んじまったぁぁぁ!
メイドのみならず客として来てた男子、更には調理係に宛がわれてたゴツい連中まで俺らに群がってきた。
俺も兄貴もお前らと同じモンが付いてんだぞ……って、ここじゃ関係ねぇんだったよな!ちくしょう!
俺達が座ってるトコは出入口と窓の丁度中間辺り。兄貴はドア側で、俺は窓際。
やるっきゃねぇ!
「逃げるぞ、兄貴!」
カプチーノ代――一杯千五百円とかぼったくりだろ――をテーブルの上に叩き付けて、俺は一目散に窓に駆け寄り飛び降りた。
上手く逃げろよ、兄貴!
二階から無事脱出した俺は、一先ずあの校舎から離れて別の建物に移った。視聴覚室や図書室、理科室、音楽室なんかがある特別教室棟ならあんま人いねぇんじゃないかって思ったんだけど、盲点。部活動に所属してる生徒が模擬店をやっていた。こっちのが人少ねぇから捲き易いかもしんねぇけど、陸上部に追っかけられたらおしまいかもな。
出直すか。
踵を返して別の場所に行こうとしたとき、ジュージューと美味そうな音と匂いがした。思わずそっちを向くと、そこにあったのはチヂミの店。鉄板の上で焼かれてる韓国風お好み焼きが俺を呼んでいる。
「これ、いくら?」
「は、八百円ッスけど……」
だから高ぇって。
「負けてくんねぇかな。……駄目?」
サングラスをちょっとずらして目元をチラ見。秘儀・上目遣い。
女子大生やOLはこれでメロメロなんだけど……男子高校生に効くかどうか。
「た、タダでどうぞ!」
「え?マジで?」
やたら高そうな陶器の皿にこれまた高そうな箸を添えられたそれを受け取る。
その場でパクリと一口。モグモグ。……意外とイケんな。材料が良いんだろうな。
「うん。美味い。サンキュー!」
ニッコリと笑って見せたら、鼻血噴かれた。うおぉ!
「あの!このチュロスも試食してください!」
「この肉巻きおにぎりも!」
「いや、このフライドポテトを是非!」
「馬鹿野郎!この可愛らしい方には甘い物がお似合いだろうが!」
野郎に囲まれても嬉しくねー!
でもタダで食べさせてくれるらしいから我慢する。タダ飯万歳。
チョコバナナ、チーズドック、ホットドックに限ってはやたらキラキラした目で見られたから、期待に応えてガブリと勢いよく噛み砕いてやった。お約束の下半身を隠す動作をした奴らを見て俺、したり顔。
さて、次は何食おう。
腹を擦りながら舌舐めずりしたところで、くらりと目が回る。
げ。これって……。
*
ヤベーよ!超ヤベーよ!あんなとこで倒れたら襲ってくれって言ってるようなもんじゃん!Oh my god!
顔を覆って思わず悶絶してたけど、こうしちゃいられねぇ。俺の体の一大事だ。
服装を確認すれば、俺は兄貴の体に入れ替わったらしい。兄貴、トイレに隠れてたのか。揉みくちゃにされた形跡もないし、無事で何より。
無事じゃねぇのは俺の体!
トイレを出て、スーパーダッシュで特別教室棟に向かう。
俺が兄貴になったってことは、リョウが俺になったってことだ。兄貴ならミキさんから継承した護身術でどうにか切り抜けられるかもしれねぇけど、リョウは俺と同じで喧嘩できない。えらいこっちゃ!
「そこの人、どうか待ってください!」
あとちょっとで俺の体の元に辿り着くってときに、そいつらは立ちはだかった。
背の低い、メイド男子なら良かったよ。蹴飛ばしてでも通ったさ。けどなぁ……高校生とは思えねぇ筋肉マッチョは無理だって!
どうする?!どうしよう?!どうしちゃうの、俺~~~~!