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文化祭パニック!【前編】 (長男)

事の発端は、リョウの部屋から本を拝借しようとした僕が見つけた一枚のプリントだった。


「文化祭のお知らせ?」

「やっぱりそう見えるよね。リョウから何か聞いてる?」

「いや。何も」


憮然とした顔でテッペイは首を振る。無理もない。僕も同じ表情をしてる自覚がある。

理由は、クシャクシャに丸められてゴミ箱から零れ落ちてたその紙に明記されてる日にちというのが、一昨日から三日間、つまり今日までだからということに他ならない。

こんな大々的な学校行事の日程がつい先日決まった、なんてことあるはずもなく……つまりこのプリントが配布されたのは遅くとも数週間前。


「どう思う?」

「俺にも兄貴にも何も言わず、プリント(これ)がゴミ箱に捨てられてたことからして、俺らにこのこと知られたくなかったんだろ」


だよなぁ。

でも運命の悪戯か、神の啓示か、この紙を見つけてしまった。


「幸い僕は今日一日、暇を持て余す身だけど……テッペイはどうする?」

「こんな面白そうなこと見逃せねぇだろ」


大学は大丈夫なのかと心配したけど、今日は休講らしい。

まぁ嘘だとしても、今日だけは目を瞑ろう。




リョウは生徒会役員だから校内の見回りをしてるかもしれないということで、僕達は変装することにした。

キャップを深めに被って、左右の袖の長さが違う柄シャツにノースリーブベスト、そしてサルエルパンツという僕。

一方テッペイはヘアバンドターバンにサングラス、カーディガンの上にネックレスをジャラジャラ付けてクラッシュジーンズといった恰好。

如何にも保護者といった恰好をしてたらそれなりに目を引いてしまうと思ったから、じゃあ高校生っぽくなってみようって張り切ってみたら……本当に、街に遊びにきてる十代の若者にしか見えなくなった。

……僕、二十六なんですけど。


「着きましたよ、お客さん」


お金を払ってタクシーから降りたはいいものの……何?この無駄に洒落た敷地。奥に噴水が見えるんですけど。運転手さん、下ろす場所間違えた?

何処の高級リゾート地かと思ったけど、正面に構えてる門にはちゃんとリョウの通う高校の名前が掲げられている。そして“第五十六回文化祭”の文字も。

見るからにゴージャスな場所に、場違いな身なりをした僕達。入れ替わったときって大概校舎内にいたから、外がここまで凄い(なり)をしてたなんて思ってもみなかった。

どうしよう。さすがに門前払いされるかも……。


「兄ちゃん達、一般客け?外来の参加は昨日までじゃけ、今日は生徒内だけの催しなんじゃが」


門の横にひっそり……ではなく、でんっ!と建てられてる家から出てきた中年男性。腕には用務員の腕章。失礼だけど、ボサボサの髪を一つに縛ってヨレヨレのシャツを着てるその人を一目見て、ちょっと安心した。

……じゃなくって!


「え?!昨日まで?!」

「マジで?!」


折角準備してここまで来たのに?!


「……まぁええじゃろ、面倒臭か。首にこれ、掛けんしゃれ。騒がれるやもしれんが、下手に絡まれることはないじゃろよ」


これ、と渡されたのはネックストラップ付きのカード。これがないと不審者扱いされてしまうらしい。

いや、それよりも……面倒という用務員の一存で入れちゃったよ。僕達、これといって身分証明の提示してないんだけど、いいのかな?




一般客だから目立つかなって心配したけど、コスプレやら着ぐるみの子達もいるからか、思ってたより視線を集めることはなかった。でも首から下げてるカードに気付いたら、誰しも僕らの顔を確かめようとする。良家の子息だから、本当に不審者じゃないのかと怪しんでるのかなって一瞬思ったけど、多分日にちを間違えて来たのはどこの馬鹿だと呆れてるんだろうなぁ。

とりあえず、僕達はリョウの教室を偵察しようと一年椿組へ向かった。


「おかえりなさいませ、ご主人様」

「た、ただいま……?」

「………?!」


思わず「ただいま」って言っちゃった。仕事柄、世の中には人がいることを知ってる僕は驚くに留まったけど、テッペイは出迎えてくれた子を見て引いてる。

文化祭定番のメイド喫茶。給仕係りにボーイは皆無。全員メイド。男子生徒のはずなのに、女の子にしか見えない。

案内された席に着いてよく分からない名称の飲み物を注文した僕とテッペイは、メイド男子が離れた際に同じタイミングで顔を寄せ合った。


「兄貴。リョウが俺達を呼ばなかった理由って……」

「うん。メイドをやることになったからかも」


注意深く、メイド一人一人の顔を確認する。給仕に選ばれるだけあって線の細い、小柄で可愛らしい顔立ちの子が多い。リョウも条件に当て嵌まるし、強ち間違いないと思ったんだけど……見当たらない。


「お待たせしました~。当店自慢のキュンキュン甘~いLOVEチーノでございま~す」

「あ……あのさ、メイドってここにいるので全員?」


若干引き攣りながらもどうにか笑顔を取り繕って、テッペイがカプチーノを運んでくれた生徒に訊ねる。


「今四人、外で呼び込みしてますけど……もしかして誰かのご家族なんですか?!」

「え?!誰の?!」

「こんな素敵な御兄弟がいるなんて!」

「あの!いつもお世話になってます!」


他のお客を無視してメイド……のみならず調理係、そして客の生徒までもが僕達に群がる。え?!ちょっ……何事?!


「逃げるぞ、兄貴!」


千円札三枚をテーブルの上に叩き付けて、一目散にテッペイは窓から教室を抜け出した。

僕はというと、テッペイの奇行に周囲が動揺する隙を突いて、ドアから逃げる。弟二人と違って僕はパルクールなんてできないからあんな真似、到底無理です。

とはいえテッペイが飛び降りた高さは二階。慌てて一階に下りて外を覗いたけど、特に騒ぎになった様子は見られない。上手く姿を隠せたみたいだ。


「お兄さ……いや、弟さん?!従兄弟でも幼馴染でも赤の他人でも、もう何でもいいから、ちょっとお話を~!」


……何処に行方を晦ませたのか、連絡を取り合うのは僕自身、安全を確保してからにしよう。




「ここまでくれば大丈夫かな……?」


肩で息をしながら、一先ず職員トイレに隠れる。内勤の仕事ばかりしてたから、自分の体がどれだけ鈍ってるのかよく分かった。筋肉痛になったらどうしてくれるんだ!

そもそも何で追いかけられてたんだろ。別に食い逃げしたわけじゃないし。……あ。後でテッペイにお金返さないと。

というか、酸欠かな?何か眩暈が……。


「って、ちょっと!まさか、これって……?!」




   *




……はい。そのまさか。

目を開けると、随分と暗い場所にいた。よく見えないけど、トイレじゃないのは確か。職員トイレがやたらシトラスミント臭かったのに対し、ここは汗と埃っぽい臭いが鼻を衝く。


「どこだろ?ここ」


その声音で、僕が入れ替わった体はリョウのだと分かった。

薄っすら差し込む光を頼りに周囲を改めて凝視すると、どうやら体育倉庫らしき場所にいるらしい。もしかしたら、生徒会主催のイベントに必要な道具でも取りに来たのかもしれない。


「とりあえずここから出よう」


何か用事でここに来たのだとしても、僕にはどうしたらいいのか分からないし。手ぶらで帰って怒られたとしても、カナタ君に会えばどうにかなるはず。

そう思ってスライド式のドアに手を掛けてみるものの……開かない。


「あれ?」


力の限り引いても、前に押しても、ガチャガチャ音が鳴るだけ。

これはもしかして……もしかしなくても。


「閉じ込められてる……?」


何故?!

長男は自分の身嗜みには気を付けてますが、自分の顔立ちには無頓着です。

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