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国家

「にのみねけ……の、タカツキさん?」

 私のたどたどしい言葉に鷹槻は無表情に頷いた。

「え、と。ごめんなさい、私まだこの家に不慣れで。二ノ峰家とか三ノ峰家っていう意味がよく分からなくて」

「ああ。それじゃあこの敷地内には二ノ峰から五ノ峰っていう家があることは?」

「それは存じています」

「……俺は二ノ峰なんで、敬語はいらないですけど」

 感情らしい感情を感じさせない声で鷹槻は言った。

「え。で、でも」

 この人だって今私に敬語を使ったのに、私ひとり偉そうにタメ口って言うのは出来ない……というか居心地悪い。そういう決まりがあったとしても、根っからの一般人育ちの私にはまだ無理だ。

「いいんじゃね?」

 どう言ったものかと言葉に詰まった私と口を閉ざした鷹槻の間に割って入ったのは千歳だった。

「ここはうるさい奴もいないし。結恵は別にタメ口でいいんだろ?」

「うん。申し訳ないけど私は小市民だから、初対面の人が敬語を使っているのに自分だけ使わないのは無理」

「だってさ、鷹槻」

「ならやめる」

 存外あっさりと鷹槻は承諾してくれた。

「様付けもしないほうがいいか?」

「様っ!?」

「結恵様って」

 真顔で鷹槻は言う。

 悪い冗談だ。

「え、いやあの私達、親戚……ですよね?」

「だから敬語はいらない。……一応遠いけど、親戚関係になる」

「じゃあ」

「ここはそういう所だから」

 間髪入れずに鷹槻は返してきた。

「この家はよそからすると妙な決まり事が多い。それは不文律だったり、慣例として文書に残っていたり色々だけど」

「はぁ」

「その中で最も重きを置かれるのが、本家絶対主義とでも言えばいいのか。とにかくそういうのがある」

「……二ノ峰家、とかは本家ではないの?」

 てっきり同じ敷地内に居を構えているくらいだから本家と同等の扱いだと思ったけれど。

「違うな。いわゆる分家って奴だ。他にも分家は多くあるが、その中でも最も古くに本家から分かれた四つの家を二ノ峰から五ノ峰って呼んでいる。まぁ屋号みたいなものだと思ってくれればいい」

 屋号。その家の苗字以外の通称か。

「だから本家は一ノ峰って呼ばれることもあったらしいけれど今は皆、本家って呼んでいる。今本家と言ったら桂子ばあさんとお前だけだけど」

「何だ、桂子『様』じゃなくていいのかー?」

 千歳が茶々を入れる。けど鷹槻は全く気にも留めない。千歳の扱いに慣れてるんだな。

「うるせー大人たちもいないんだからいいだろ。話を戻すけど、この敷地内の本家っていうのは例えるなら王家だな」

「お、王家?」

 随分話が大きくなってきた。だが鷹槻の表情も声も真剣そのものだ。

「ああ。それも絶対王制の、だ」

 絶対王制。その名の通り、王が絶対的権力を持つこと。通常は法によって制限される王の権限が、全く制限されていないということだ。貴族、議会、民衆……国王以外のあらゆるものに左右されない、絶対的な王の権力。

 絶対王制の例として挙げるならフランスのブルボン王朝だろう。そのブルボン王朝期の国王、ルイ十四世の言葉は今なお残されている。

 ――ちんは国家なり。

 自身を国家と称した国王。もっともその子孫、かの有名なマリー・アントワネットの夫、ルイ十六世の代でフランス王室の財政は破綻する。そしてそれをひとつの契機としてフランス革命は起こり、ブルボン王朝最後の国王ルイ十六世の処刑によって王制は廃止された。

 それが三百年以上も昔の話だ。

 現代に絶対王制など通用するわけもない。それが実行されているか否かはともかく、まがりなりにも人類皆平等を謳う現代社会で。一人の人間が絶対的権力を持つことなどたとえ国内で受け入れられても、世界的に受け入れられない。それなのに。

「ここでは本家は絶対。本家の人間には最大限の敬意を払うが当然、それがこの家の法なんだよ」

 何を考えているのか読めない無表情で、鷹槻は言う。

「そんな……今時?」

「だからここは特殊なんだ。それに違和感を持つ奴は少ない。生まれてからずっとそうなんだから当然と言えば当然だが」

 鷹槻は白茶を一気に飲み干し、空になった碗を静かにローテーブルに置いた。

「言うなれば、この綾峰家は一つの国家だ」

 鷹槻の口調も声音も軽い。なのにその内容の重みはそれにそぐわない。

 古くから続く名家。その圧倒的財力。世界の政財界への影響力。

 まだ綾峰家をよく知らない私でも、この国における綾峰の強さを知っている。

 けど、国家とまでいくものなのか。それも絶対王制の。そんなことが本当にこの現代社会でまかり通るものなのか。

「国家の三要素って知ってるか?」

 黙り込んだ私に、明るい声で千歳が話しかけてきた。

 千歳を見ると、私の目の前に人差し指を突き付けてきた。

「法学的、政治学的見地からすると国家は三つの要素から成り立つ。これを備えていると国際法では国家として認めてくれるそうだ。その一つが領土。その『国』を物理的に存在させる一定区画。この敷地内は十分その役割を果たしている」

 確かに。

 綾峰一族の居住地。言い換えればここは綾峰家の領土だ。

「二つ目」

 千歳は更に中指を立てた。

「それは人民。どんな立派な統治者がいて、どんな広大な領土があろうとも、人がいなければそれは国じゃない。この二つ目の条件も満たしている。本家から五ノ峰までの五家。さらにそれぞれの家の分家もいくらかこの敷地内には住んでいる。それら全員が綾峰であり、永遠に綾峰の人間で在り続ける」

 いつの間にか冷めていった声音に、その強い色の瞳に気圧される。

 その瞳から、表情からもたらされるものはどこまでも冷たい。

「三つ目」

 そして薬指が立てられる。

「最後の条件は、権力」

 冷え切った声が冷めた表情を通して告げる。

「平たく言えば、他者を支配する力。屈服させ強制する力……そんなものだろ。綾峰本家には権力がある。その有効範囲は綾峰家内部だけじゃない。もちろん、外部に対しても」

 その声音があまりに冷たく無機質で、全身が凍りつくような錯覚に陥った。

 怖い、と思った。

 その言葉の重みが怖い。それを告げてくる存在が怖い。

 体中の血が、細胞のひとつひとつが、強く強く内側でざわめく。

 その権力の有効範囲は、外部とはどこまでのことだ。私は、私が思っていた以上の場所へ踏み込んでしまったのだとこの時初めて、本当の意味で気付くことが出来た。

 無意識に体が震える。綾峰本家という名の重さが今更のしかかってくる。

 覚悟は決めていた。

 強い地位はそれに比例した重みを持つ。だけどここへ来る前の私はまだ、本当の意味ではそれを分かっていなかった。

 だけどその地位ゆえの負荷があることは覚悟して、それがどんなものでも絶対に手に入れると思った。私が私を貫くために。迷うことなく、私の意志を貫くために。

 けれど初めてそれを怖いと思った。自身を貫き通すことが。正しいことの意味もまだ理解できない自分が、強さがなければ自分の意思もまともに口にすることも出来ない程度の自分が、それだけの力を持つことが。

「結恵」

 名前を呼ばれ、ぎこちなく顔を上げると口に何かを放り込まれた。

 それは口の中でさらりと溶け、舌の上に爽やかな甘みを広げていった。それがローテーブルの上に置かれた干菓子だと気付き、改めてそれを口の中に放り込んだ張本人を見た。

 千歳は無邪気に笑っていた。

「甘くて美味いだろ?」

 その笑顔に、先程までの冷たさは微塵も残されていない。口に広がる甘さとその笑顔に、自然と震えは納まっていった。

 首を縦に振ると彼は満足そうにさらに笑った。

「和三盆の甘さっていいよな。チョコとかもいいんだけど、たまにこういうさっぱりした甘いものが食いたくなるんだ。なんか和んでさ」

 明るく屈託ない声でそう言う。

 それを見て、安堵すると同時に思う。

 あの冷たい目をしていたのはいったい誰だったのか。あの冷たい声を発したのは……ここにいる彼は、一体誰なのか。

 綾峰千歳。彼はこの不思議な家の何なのだろう……。

「千歳は……」

 茶碗を両手で握りしめて、千歳を見上げた。

 千歳は干菓子を頬張りながら首を傾げる。

「んー?」

 呑気ともとれる声と仕草にもとぼけるという様子はなく、これから私が何を聞いてもあるがままに受け入れるといった風に感じられた。だから包み隠さず疑問を口にする。

「千歳は……何?」

 人に対して「何」という聞き方もないだろうと思うが、その時は本当にそれしか思い浮かばなかった。そして一つの疑問から、次々と新たな疑問が生まれる。

「何でこんな地下に部屋があるの? あの回廊を通るのに許可を出せるほど高い地位にいるの? 何でおじいちゃんや大叔母様を呼び捨てにできるの? 何で何で……」

 まくし立てるような私の言葉を受け止めながら真っ直ぐに私の目を見てくる千歳に、少しずつ頭が冷めてくる。

「……ごめん。部外者が変なこと聞いて。忘れて」

 千歳を異端者のように感じた罪悪感の分も、恐怖を感じていた分も含めて深く頭を下げた。

 千歳と鷹槻の視線を感じる。

「部外者って誰のことだ?」

 先に口を開いたのは千歳ではなく鷹槻だった。その声は抑揚少なく淡々としたもの。

「もうお前は関係者だ、綾峰結恵」

 淡々とした、けれど抗い難い強い響きを持った声が降ってくる。

「……残念だけど鷹槻の言うとおり」

 溜め息がちに千歳も言う。その声に顔を上げると鷹槻は相変わらず表情らしい表情はなく、千歳はどこか疲れたように頬杖をついていた。

「部外者でもそうでなくても、別に今しがたのことは気にしてないから結恵も気にしなくてもいいさ。まぁ持って当然の疑問だ。俺もさっき会った時に答えるって言っておきながら答えるのすっかり忘れてたし」

 千歳は鷹槻の空いた茶碗に急須から新たに茶を注ぎながら言った。

「けど結恵はもう紛れもなく、この綾峰って『国』の関係者だ」

「私が? だって私は単なる居候でおじいちゃんとは立場が違う。育ちだってあんた達みたいに立派なものじゃないし」

「そんなことは関係ない」

 ぽつりと鷹槻が言った。その鋭い瞳と目が合う。

「さっき千歳は本家を王家と言った。そしてお前はその家の血族だ。お前のじいさん、綾峰義将は綾峰の当主となるはずだった人物なんだからな」

 確かに大叔母が当主を務めている時点でそうではないかと思ってはいた。家を継ぐのは男という意識が今より強かった時代なら尚更。祖父はやはり絶対的地位を約束されていたんだ。

 けどだからこそ。

「だったら、そんな大層な地位にいながら家を出たおじいちゃんの孫の私がそう易々とこの家に受け入れられるものなの? それもおじいちゃんは駆け落ちしたんだよ?」

 それは家の意思に反したという事。国家にも例えられるこの家の意思に。

「絶対王制って言ったろ?」

 千歳が視線を寄こして言う。

 ガラスのテーブルと陶器の急須が当たり、小さく音がする。

「駆け落ちした義将の話を出したけど、あれは本当に家の中の話だ。本家の中の義将の両親、近い親族、側近達なんかだけが義将の意志を認めずに反対した。本家以外の家に義将の意思を止める権限なんて持たされてない」

「その時の人間で生きてるのは、桂子ばあさんや当時の下っ端使用人くらいのものだしな」

 新たに注がれた白茶を一口飲み、鷹槻は言ったがそれから急に顔をしかめた。

「……千歳、渋い苦い」

 何のことだと思っていると、向かいで千歳がカラカラと笑った。

「あー悪い。余ったやつを入れといただけだから、出すぎたかも」

「お前、時間気をつけろって言ったろ!? 渋い茶は嫌いなんだよ」

「悪かったって。そんな泣きそうな顔すんなよ」

「泣きそうじゃねぇ!」

 千歳は笑いながら鷹槻の背を叩き、鷹槻は碗を持ったまま憤慨する。

 さっきまでの重苦しい空気はどこへ行ったのか。

 そんな私の視線に気づいた鷹槻が千歳の手を強引に退けて一つ咳払いして仕切りなおした。

「とにかく、義将じいさんのことはもう関係ない。……ま、色々言う奴はいるだろうけどそんなことはこの家じゃ全く意味のないことだ。結局のところ、当主の桂子ばあさんとその兄貴の孫であるお前に逆らえる人間なんていやしないんだから。社会でどれだけデカイ顔してふんぞり返った大人であろうと、ここで物を言うのは血だから」

「血?」

 鷹槻は頷き続けた。

「綾峰本家の血。本来の当主のはずだった義将じいさんの直系に逆らえる奴はいない。よそじゃ奇妙なことかもしれないがこの家じゃそれが普通。年齢も経歴も何も関係ない。問われるのはその血だけ」

 だから、と千歳はソファの背もたれによりかかって高い天井を見上げた。

「ここの連中は思ってる。桂子や結恵にその気があろうとなかろうとこの家の次の当主候補……いや、次の王って言ったほうがわかりやすいか。それは綾峰結恵だって、そう思ってる」

「はぁ!?」

 見事に声が裏返った。だがそんなことは気にしていられない。

「なっ、おかしいでしょ、それ。まだ顔も中身も知らないような相手を? 確かなのは私がおじいちゃんの孫で大叔母様と血が繋がってるってことだけなのに、他の誰かが本家を継ぐとかそういう発想はないわけ?」

「ないな」

「ない」

 千歳と鷹槻が同時に言い切る。いっそ私のほうがたじろぐ程の自信を持って。

「義将が出てかなきゃ、実際この家の跡取りだったのは結恵だろ?」

「そうだけど、私はお父さんたちが海外に行ってる間だけお世話になる居候だよ!?」

「お前が何て言おうと他の連中はもうそういうものとして意識してる。お前がこの家に来る前から。きのうも俺、他の奴らとそういう話したし」

「他の奴らって誰!?」

「んー……トモダチ?」

 鷹槻は無表情に首をかしげながら答える。

「『トモダチ?』って何……何で疑問形?」

「いや。一応親戚だけど、親戚の中でもまた別と言うか」

「わけわかんないんだけどっ」

「親戚多すぎてひとくくりに親戚って言うのものなんか変な感じなんだよな。デカイ家だから親戚同士と言ってもやっぱり派閥とかあるわけだ。ガキ同士でも」

「親戚同士で、派閥?」

 本当にどこの幕府でどこの時代のどこの王室だ。

「結恵、眉間に皺。取れなくなるぞー」

 いやに呑気な声を上げる千歳が腹立たしい。

「うるさいなぁ……だってもう、わかんないことだらけなんだから仕方ないじゃない!」

 つい声を荒げて当たってしまう。

「親戚同士で派閥とか絶対王制とか血とか……わけわからないよ! 一体私にどうしろってのよ!?」

 覚悟はしていたのに。

 欲しいものがあるから、それを得るためならって。

 だから覚悟はしていた。していたがこんな大事だなんて想像もしなかった。

 唇を噛みしめて俯くと、場違いな程に穏やかで明るい声がした。

「どうするも何も、結恵がどうしたいかは他人に決められることじゃないだろ?」

 顔を上げると、千歳が不思議そうに私を見ていた。

「確かにここは変な家だけど、だからってお前のペースを崩す必要はない」

 鷹槻も淡々と、取り繕うでもなくただ自分の意見を述べる。

「他人にどう評価されようと、自分の行動を決定するのは自分しかいない。自分の行動に責任を持てるのも自分しかいない。だから好きにすればいいだろ」

 真実だから、慰めでも気休めでもないから、その言葉が染み渡る。

 膝の上で両手を握り締める。

「……それでも、いいの? 私は私の意思を通してもいいの?」

 それが正しいことだとは限らなかった。他人に巻かれることが一番楽な道だった。誰も個人の正義なんて必要としていない。誰も私の意見なんて必要としていない。必要なのは集団の意見。

「自分の行動に責任持てるなら、自分の意思通したってかまわないだろ?」

 何でもないことのように千歳は言った。

「むしろ自分の意思を通したいんだったらこれ以上最適の立場はないぞ? な、鷹槻?」

 千歳に目を向けられて鷹槻も頷く。

「王の意思がこの家の意思になるからな。お前が何かしたいと言えば一族の財力権力惜しみなく使われて、それは叶えられる」

「……そこまでじゃなくてもいいけど」

「謙虚だなぁ」

 千歳が苦笑する。

「なぁ結恵」

「何?」

 形のいい手が伸びてきて頭の上に置かれた。

「せっかくの立場だ。憂うよりも最大限に利用してやればいい。迷ったら鷹槻でも桂子でも俺でも。誰かに意見を聞け。そして自分で決めろ。結恵は結恵以外の誰でもない。誰にも結恵の意思を損なう権利なんてない。この綾峰でも、外でも」

 柔らかに紡がれる言葉。

 両目が痛いくらい熱くて、気を抜いたら涙が零れそうだった。くしゃりと頭を撫でられてそのまま泣き出したくなる。他人の前で泣くのなんて大嫌いなのに、誰の前でも泣くものかって決めていたのに。

「……ありがとう」

 それだけ言葉にするのが精いっぱいだった。

「うん。まぁ面倒くさいことも多いだろうけど、好きにしろよ」

「……うん」

 頷くと、髪をかきまわすように頭を撫でられた。

「……変な奴が来たら嫌だと思ってたけど、お前は合格ライン」

 ふいに鷹槻がそんなことを言う。

 千歳にぐしゃぐしゃにされた頭を撫でつけながら、謎の言葉を口にした鷹槻を見た。

 彼はまっすぐに私を見て続けた。

「俺、さっき千歳が言ったとおり多分世話役だから。あともう一人いるけど。そいつもさっき言ったトモダチ。同い年だからほぼ間違いなく俺らが結恵の世話役につけられる」

「……ごめん。同い年って誰と誰が?」

「俺ともう一人。結恵と同い年」

 あくまでも淡々とそう言った。

 同い年……。

「スミマセン、鷹槻……は、おいくつ?」

「十五歳。今、中三」

 表情一つ変えず鷹槻は答えた。

「……冗談?」

「戸籍謄本でも用意すれば満足か?」

 心なしか鷹槻の声音に苛立ちが混じる。

 言葉に詰まると、千歳がテーブルをバンバン叩きながら笑いだした。

「鷹槻~やっぱお前どう見ても十五には見えないって! 詐欺だ、詐欺! アハハハハハハ!」

「おい、ちょっとお前は黙ってろ!」

「え、本当に? 本当に同い年?」

「だからそう言ってるだろうが!」

 今日初めて見る勢いで怒鳴られ、肩を竦める。

「う、うそ。すごく大人っぽいし落ち着いてるし、私が見てきた同級生男子って何だったの!? それともお金持ちだと皆そんなに落ち着いてるの!?」

「鷹槻は老けてるんだよ。顔も性格も」

「老けてるって言うな!」

「そうやって怒鳴り散らしてると年相応なのになぁ」

 鷹槻の怒りなど柳に風。千歳はひとり、うんうんと納得している。

「じゃあ千歳も実は私と同い年とか……?」

 口元が引きつったままに千歳を見る。

 千歳は鷹槻と顔を見合わせた。そしてにっこり笑顔で振りむいてこう言った。

「俺は見たまま十七歳……」

「バツイチ子持ち」

 にこやかな千歳の言葉を鷹槻がうまく繋げてみせた。

「え?」

 一瞬、時間が止まった気がする。千歳がにこやかな表情のまま、鷹槻が無表情のまま、私が「え」の形で口を開いたまま。

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