序章
この作品は少し前に書いたもので今以上に未熟さが際立ちますが、よろしければおつきあい下さい。内容は誤字脱字以外以前掲載していたものと変わりません。
その日、村はその年一番の騒ぎになった。
「草次郎坊ちゃんが帰ってきたってよ!」
「天狗様に攫われたって聞いていたが、無事だったのか?」
「いやーよかったじゃねぇか」
「でも一体今までどこにいたんだろうなぁ?」
裕福な豪商の次男として生まれた彼は幼さゆえにまだ自分の身に何が起きたのか把握しきれないまま、両親に抱きしめられていた。ただ、確信するその事だけは伝えなくてはならないと本能的にわかった。
「……父様、母様」
「ああ良かった、良かった」
「本当に。さぁ、しばらくはゆっくり休みなさい」
「聞いて。父様、母様」
彼が少し語気を強めると、両親は喜びの声を静めて彼を見た。
「どうしたの?」
「どこか具合でも悪いのか?」
彼は生れてこの方見せたこともないような大人びた表情で静かに厳かに告げた。
「明後日、戦が始まる」
「そ、草次郎? 何を言っているんだ?」
「だから、村の人達も一緒に逃げるんだ。そうしないと皆、火に呑まれてしまう」
「ふ、不吉なことを言うんじゃない!」
父に叱られても彼は言葉を止めなかった。
「早く逃げるんだ! 隣国の殿様はこの辺りの村を焼く気なんだ!」
彼の強い声音に両親は不安げに顔を見合わせた。
そして明後日。
彼の言葉通り、隣国との戦は唐突に始まり、国境にある村は丸ごと焼かれた。
天狗に攫われ異界から帰ってきた子供は不思議を見る術を持って帰ってきたのだと、誰もが知った。