第六十二話:新居の建設と村の未来
獣人村の両家の父母たちは、かつて死を覚悟した愛娘と、頼もしく成長した末息子の帰還、そして二人の婚約という吉報に、欣喜雀躍して二人を迎えた。
獣人の村には、結婚式を挙げる前に新居を完成させるという古くからの慣わしがある。そのため、婚約から式までは数ヶ月から一年をかけて準備を進めるのが常だ。冒険者として幾多の死線を越え、上級任務をこなしてきた二人の懐は、村の常識を遥かに超えて潤沢だった。
「ルピーネが、一生不自由しない家にしたいんだ」 ロドルフの気合いは十分だった。族長の娘として育った彼女が暮らしやすいよう、最新の魔導設備を取り入れ、間取りにも工夫を凝らす。 「なあ、ルピーネ。子供部屋はこれくらいで足りるか?」 「えっ……いや、そんなに必要? まだ一人もいないのに……」 「まあ、それはルピーネ次第だけど……。俺としては、その、頑張りたいと思ってるし」 「な、何を言ってるのよ、バカ!」 顔を真っ赤にして照れ合う初々しい二人だったが、結局、ロドルフの一言で決着がついた。 「もし子供が少なくても、アルヴィンたちが遊びに来た時の客用寝室にすればいいさ」 そうして、将来の家族と、いつか訪れる「親友」を迎えるための部屋がいくつも作られることになった。
数ヶ月後に、ロドルフの本気と潤沢な資金、そして一流の職人たちの技が合わさった結果、村の丘の中腹に建ったのは、領主館と見紛うばかりの豪邸だった。白壁に重厚な石組み、洗練された意匠は、まるで貴族の小別荘のような風格を漂わせている。 (……少し、やりすぎたか?) 完成した家を見上げ、ロドルフは冷や汗をかいた。皇宮や「新月宮」での滞在に慣れてしまったせいで、自分たちの住居への感覚が、知らぬ間に最高レベルに引きずられていたのだ。
この「やりすぎた家」は、思わぬ波及効果を生んだ。村を訪れる商人や入植者が、あまりに立派な二人の家を領主館と間違えて訪ねてしまう事態が多発。これでは領主館(ルピーネの実家)の面目が立たないので、そちらも負けず劣らずと立派な邸宅風に建て直されることになった。
さらに、A級冒険者二名と『幸運の竜』ルークが定住しているという事実は、村に絶大な信頼をもたらした。街道が整備され、入植者が増え、獣人村はかつてない繁栄を極めていく。 数年後、そのあまりの発展ぶりに、帝国はルピーネの父リヒトをこの一帯を治める正式な領主として認め、男爵位を授けた。その上――。 「『救世の英雄』たるA級冒険者たちを、平民にしておくわけにはいかぬ」という皇帝の一言で、ロドルフとルピーネ自身も準男爵の爵位を授かることとなったのである。
「……勘弁してくれ。俺はただ、ルピーネと静かに暮らしたかっただけなのに」 叙爵の知らせに顔をしかめるロドルフ。今や男爵領となった村に滞在中のアルヴィンが、涼やかな顔でとりなす。「元々Aランク冒険者は下級貴族と同等の扱いなんだから、今更だよ。しかし、今や君たちはロドルフ・フォン・ノルムンド準男爵とルピーネ・フォン・ドラッヘン=ノルムンド準男爵か。……ふふ、こんな日が来るなんてね。おめでとう。」
今、完成した家での新婚生活に期待を膨らませている二人は、まさか数年後、自分たちにこんな未来が待っているとは、知る由もなかった。
数年後、ルピーネの父で族長のリヒトは、旧狼獣人村の周辺地域一帯を収める領主として、男爵位に叙爵され、リヒト・フォン・ドラッヘンと改名
同時にルピーネとロドルフは準男爵位に叙され、それぞれルピーネ・フォン・ドラッヘン=ノルムンド、ロドルフ・フォン・ノルムンドと改名




