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第六十話:別離の朝とエルフの祝福

お互いの想いを確認した翌朝。朝日を浴びて立つルピーネの左手薬指には、昨日まではなかった「炎の真珠」が誇らしげに煌めいていた。


「……ようやっと、そういうことになったわけだ」 やれやれと首を回しながら、アルヴィンが呆れたような、けれど嬉しそうな溜息をつく。 そこへ、最近めきめきと語彙を増やしているルークが、トテトテと寄ってきた。 「ルピィ、ローの匂い、するー! 」 「ぶっ――!?」 無邪気な暴露に、二人は瞬時に茹で上がった。 「い、いや、そんな……大したことは、してない、から……!」 動揺のあまり、意味不明な言い訳を口にするロドルフを、アルヴィンが逃さず揶揄からかう。「ほう、「大したこと」って何かな。僕にはサッパリ分からないなあ」 「お前……っ!」 顔を真っ赤にして絶句する二人を見て、アルヴィンは声を上げて笑った。



その後、一行は冒険者ギルドへ向かい、バレンティンにルピーネとロドルフの婚約を報告した。 夏の結婚式と新生活の準備のために、二人は一度故郷の獣人村へ帰ることも。「めでたい話だが、最高戦力のAランク冒険者が一度に二人も抜けるのは痛いなあ」 ギルド長は頭を抱えたが、受付嬢のミリーは笑顔で二人を祝福した。「寂しくなりますが、そんな予感はしてたんですよ。でも、またすぐ戻ってきてくださいね」


そして、アルヴィンとも、明日から一旦お別れとなる。 「僕はまだ、世界に残っているという、悪魔の魔力の残滓を探さなきゃいけないしね。陛下からも仰せつかっているし。……また手を貸してほしくなったら、会いに行くよ」 そう言って微笑むアルヴィンの足元では、ルピーネの従魔であるはずのルークが、彼にくっついて離れようとしない。 「ルーちゃん、すぐに会いに行くから。いい子で待っていて」 アルヴィンがルークを抱き上げ、その額に優しくキスを落とす。 (……何、あの二人。絵になりすぎじゃない?)その耽美な情景を目にした人々が、全員骨抜きにされる中、ルークは寂しそうに鼻を鳴らした。



翌朝、「新月宮」の前には、二人と一匹を獣人村へと運ぶ魔導馬車が到着していた。 「荷物は全部積んだ? じゃあ、元気で。結婚式、楽しみにしてるよ」 アルヴィンはルピーネを抱き寄せると、慈しむように、その額にお別れのキスを落とした。 「あ……」 途端に背後から、肌を刺すような殺気が放たれる。 「おいおい、お別れの挨拶だよ。これは流石に容赦してくれ。ほら、ルーちゃんだって」 ルークはアルヴィンのシルバーブロンドの髪にまとわりつきながら、彼の額に「チュッ」と鼻先を寄せていた。 狼獣人は、特に「唯一」のつがいに関しては、恐ろしいほど嫉妬深いのだ。


「……しょうがないなあ。じゃあ、君にも。僕は博愛主義だからね」 アルヴィンは、まだ眉間に皺を寄せているロドルフの肩を強引に引き寄せ、その頬に唇を寄せた。 「ちょっ、お前、何してるっ!?」 「これはエルフの祝福だよ。縁起がいいんだから。……ルピーネには、ロドルフから渡しておいてね」 目を白黒させて赤くなるロドルフに、アルヴィンは悪戯っぽくウィンクした。



魔導馬車がゆっくりと動き出す。美貌のエルフの貴公子は、朗らかに微笑みながら、遠ざかっていく二人と一匹を載せた馬車が見えなくなるまで、いつまでも見送っていた。

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