第五十七話:灯籠祭りと甘い余韻
今回の大公の訪問の目当てでもある、一週間にわたるエルフの「灯籠祭り」が始まった。その最終日。祭りの盛り上がりの中、ルピーネの17歳の誕生日が巡ってきた。
いつもの冒険者装束とは打って変わり、エルフのシルクドレスと白銀の装身具を身に纏った彼女は、月光に照らされた女神のような輝きを放っていた。 「レディ、貴女のダークシルバーの髪は宝石のようだ」 「何か欲しいものはないかい? ぜひ私に贈らせてほしい」 美貌のエルフの若者たちが、次々とルピーネを口説きにかかる。 「エルフってのは、一途なんじゃないのか!?」 焦るロドルフに、アルヴィンが楽しげに耳打ちした。 「彼らは独身さ。本気の恋人を探しているんだよ。つまり、正しく君のライバルだね」 ロドルフは「一刻も早くこの国を出なきゃ……」と、かつてない危機感に襲われていた。
屋外のパーティー会場でダンスが始まると、「ダンスは不得手で」と申し込みを断り続けていたルピーネに、アルヴィンが優雅に手を差し出した。 「見様見真似で大丈夫、僕に任せて」 アルヴィンのリードで、驚くほど軽やかにステップを踏むルピーネ。一曲終えると、アルヴィンは「はい、交代」と彼女をロドルフの腕へと預けた。 最初はぎこちなかったものの、流石はAランク冒険者の運動神経。次第に音楽に乗り、身を寄せ合って踊る二人。 川面には、何千もの色鮮やかなランタンが、幻想的な光の帯を作っていた。
「……これ、ささやかだけど今夜のために作ったんだ。願いを込めて流すものらしい」 ダンスの後、ロドルフは内緒で作っていた紙製のランタンをルピーネに差し出した。 「嬉しい……一緒に流してくれる?」 二人でそれを川へ流していると、アルヴィンが近づいてきた。誇らしげに新しい銀の首輪を光らせたルークを肩に乗せている。 「遅くなったけれど、君の腕輪に竜人の角を埋め込んだよ。今まで通り、デザインはルークとお揃いだ」 「わあ、なんて素敵なの! ありがとう、アルヴィン」 やりとりを聞いていたロドルフが、少しだけ複雑な表情を浮かべる。 アルヴィンが気を利かせて立ち去ると、彼は躊躇いがちに再び口を開いた。
「本当はもう一つ、贈りたいものがあるんだけど……そっちはもう少し時間がかかるから、待っていてくれ」 「成人の祝いでもないんだし、贈り物なんて……もう十分だわ」 「……ルピーネ、もう分かっているんじゃないのか?」 真剣な琥珀色の瞳に見つめられ、ルピーネの心臓が早鐘を打つ。 (私、何を期待してしまっているの……!) 高鳴る鼓動を抑えるように、彼女はロドルフの逞しい胸に、思わずそっと身を寄せた。
その後二週間をかけ、一行はエルヴィン大公を無事に帝都東の離宮まで送り届けた。英雄パーティー『白銀の疾風』によるS級護衛任務は、こうして、少しばかり甘い余韻を残して、幕を閉じた。




