第五十三話:洞窟の救出劇と不戦勝
読んでいただきありがとうございます。【1,000ユニークアクセス超え記念企画】全三話の二話目として書きました。海でのクエスト、楽しんでいただけると嬉しいです。
「私、ママじゃないって言われちゃった。ちょっとショック……」 と零すルピーネだったが、事態は別の方向に深刻だった。ルークには、獣人の耳にも届かないクラーケンの高周波の鳴き声が聞こえていたのだ。
この春の最初の嵐の時、引き潮に攫われ、岩壁の狭い洞窟に閉じ込められたキング・クラーケンの赤ん坊。両親は我が子を助けようと何度も必死に腕を伸ばすが届かず、その大きい体はとてもこの洞窟には潜り込めない。彼らのその焦燥が、洞窟のある海域一帯での暴走となり、周辺の海と港を荒らしていた。洞窟の周りは陸に向かって引く潮の流れが強く、子クラーケンは自力では脱出できないでいた。
ルークに導かれるまま、洞窟に船を寄せて中をのぞいたルピーネたちは、幼体のキング・クラーケンがまだ細い触腕を必死に伸ばしているのを見て、全ての事情を察した。「こりゃあ討伐じゃなく、救出依頼に変更かな。行くぞ!」 ロドルフが軽々と小舟から岩壁に飛びうつり、狭い洞窟へと身体を潜り込ませる。そのまま荒れ狂う潮が頭上から襲う中、一抱えもある子クラーケンを確保し、大事に腕に抱えて洞窟の外へ連れてくる。
親のキング・クラーケンが暴れないかと心配して、ルピーネはスリング、アルヴィンはクロスボウを構えて警戒していたが、ルークのおかげか、それとも助けに来た者だとわかるのか、彼らは静かにロドルフが戻るのを待っていた。後は小舟に子クラーケンを乗せて、外海へと導くだけだ。 無事に戻った我が子をかき抱いたキング・クラーケンの夫婦は、昨日まで怒り狂って暴れていたのが嘘のように静まり、一行に感謝を示すように一度大きく触腕を振ると、沖合の巣へと帰っていった。(よかった。ママってクラーケンのお母さんだったのね……)
「こんなに早く解決するとは!本当に、本当にありがとうございました!」 港に戻ると、市町村の首長たちが駆け寄り、三人の手を握りしめる。 「結局魔物は一頭も討伐してないけど、これで依頼達成でいいのかな?」 首を傾げるアルヴィンに、この漁港都市の市長が力強く頷いた。 「もちろんです。海に平穏が戻ったのですから。ここに依頼達成証がありますので、サインをいただけますか?」 「今回はルークのお手柄だったな」 ロドルフに頭を撫でられ、ルークは「ルー、えらい!」と得意げに胸を張った。




