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リントヴルムの揺籠(ゆりかご)  作者: 翠山 朔


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第五話:森の夜と帝都への旅立ち

村を出て、ルピーネとルークは深い森の奥へと足を踏み入れた。 夜は冷え込み、頑健な獣人の家系のルピーネでさえ震えるほどだ。ルークはまだ小さく、その白銀の鱗を持つ身体は見るからに寒そうで、ルピーネは自分のマントでそっと彼を包み込んだ。ルークの背中には、生後二ヶ月にしてはっきりとしたダークシルバーのたてがみが、狼獣人の毛並みのように柔らかく生え揃っている。普通、竜にはたてがみはないという。ルピーネの体内で孵化した影響で獣人の特性転移が起こったらしい。彼のツヤのあるたてがみを指でそっと撫でてやり、ルピーネは心の中で問いかけた。

(どうしようか、ルーク。どこへ行けばいいかな?)


腰の紋様が温かくなり、それを通じて、ルークの感情が直接伝わってくる。ルピーネへの揺るぎない信頼と少しの不安。 《冒険者になる。そして他の竜を探す》 ルークの言葉が、はっきりとルピーネの心に響いた。まだ幼いルークが言葉を理解し、自分の意思を伝えてきたことに、ルピーネは驚きを隠せない。 「冒険者? 帝都に行けば、なれるのかしら」 《人がたくさんいるところに行けばわかる、きっと》 ルークの言葉に、ルピーネは帝都を目指すことを決意した。



翌日、一人と一匹は空腹に悩まされていた。森での狩りはルピーネの得意とするところだったが、幼いルークは腹を空かせると落ち着きがなくなり、獲物を見つけるたびに瞳を赤く輝かせて小さな雷光を放とうとする。


「こら、ルーク! だめよ!」 ルピーネが慌てて制止するも、逃げ惑うウサギはすでにルークの魔力に焼かれ、焦げ臭い煙を上げていた。 「……また焦がしちゃったわね」 ルピーネは苦笑いしながら、焦げ付いたウサギを木の枝で突く。これでは食べられない。 《ごめ、なさ…い…》 ルークはしょんぼりして、肩を落とす。


「いいのよ。そういうこともあるわ」 ルピーネは懐から、投石器スリングを取り出した。石を一つ選び、革の袋に装填する。 「よく見てなさい、ルーク。こうやるのよ」 狙いを定めたルピーネの腕が、しなやかに風を切る。放たれた石は、森の奥にいたカモシカの頭部に吸い込まれるように命中した。ドサッ、と重い音を立てて倒れる獲物。 《わあ……!》 ルークはヘーゼルの瞳を輝かせた。ルピーネの狩りの腕前は、村でも一目置かれていた。母譲りの正確な投擲は、彼女が剣士であると同時に、優れた狩人でもあることを示していた。


ルピーネには野営の経験はない。そのため、自分で火を起こしたことは数えるほどしかなく、今夜もやはり焚き火の用意に苦戦していた。火がつかないまま小一時間ほど経ってしまい、流石にため息が出る。

(私、不器用だなぁ。これじゃ、せっかく捌いたお肉が焼けないよ。)

その時、背後から不意に声がかかった。


「下手くそ。そんな火の起こし方で、よく野宿ができるもんだ」振り向けば、闇の中にロドルフが立っている。ハルバードを背負い、夜の森に馴染むように静かに。 ルピーネは驚きに目を見開いた。 「ロドルフ!? どうして……」 「野営に慣れてないお前が、その赤ん坊と二人だけで旅ができるわけないだろ。貸してみろ」ルピーネが持っていた火口ほくちに火打石を近づけ、瞬く間に火を起こしてしまう。


ロドルフの赤みがかった琥珀の目が、焚き火の炎を映して揺らめいた。ルピーネは、彼の眼差しに、怒りや呆れではなく、深い安堵と、今まで感じたことのない熱のようなものが混じっているのを感じて、少し戸惑った。



その後、三人(二人と一匹)は数日間、帝都へと続く街道を進んだ。 街道は霧に包まれた針葉樹林の中を縫うように走り、時折、石造りの古い関所や小さな集落を通り過ぎる。ロドルフが加わったことで、野営のクオリティは格段に安定し、捉えた獲物も確実に料理できるし、寝床の寝心地も悪くない。ロドルフはルークの「魔力暴走」にも慣れた様子で、危ない時には即座にルークの首根っこを捕まえて、落ち着かせた。


しかし、獣人と子竜という異質な組み合わせは、人々の好奇心と警戒心を呼び起こすようで、街道沿いに出会う人々は、彼らを遠巻きに見ては、ひそひそと囁き合った。


(私たちが一緒にいるだけで、みんな怖がるのね)

ルピーネは、村の外に出た自分たちの置かれた厳しい状況を、改めて痛感していた。帝都への道は、想像以上に険しいものになりそうだった。


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