第五十話:故郷への帰還と小さな希望
三人は皇居近くにある騎士団の練兵場と、ギルドの訓練場を往復し、鍛錬に明け暮れる日々を送っていた。S級やA級の依頼は報酬も高額だが、それゆえに依頼数も限られているからだ。アルヴィンは相変わらずドワーフの工房へ熱心に通い詰め、ロドルフとルピーネは最近、新人冒険者の指導も担当するようになっていた。
しかし、その翌月。一行は帝都での騒がしくも煌びやかな日々を離れ、ルピーネたちの故郷、狼獣人の村へと向かっていた。夏の上級クエストが始まるまでに二ヶ月余りの時間があると分かったため、ロドルフの提案でアルヴィンとルークを伴って里帰りをすることにしたのである。
村を追われるように旅立ったルピーネの心は不安に揺れていた。だが、魔導馬車に揺られる道中、ロドルフが時折彼女の両親に手紙を出し、二人の無事を知らせていたことを知る。 「……ロドルフ、本当にありがとう。そんなことをしてくれていたなんて、私、ちっとも気づかなかった」 「気にするな。自分の親に連絡するついでだよ。それに、おじさんたちの顔を思い浮かべたら、放っておけなかっただけだ」
村の入り口では、両家の両親が涙を浮かべて彼らを出迎えた。ロドルフの両親は、A級冒険者として立派に成長した息子を抱きしめて喜んだ。ロドルフの出奔に責任を感じていたルピーネは、その光景に胸を締め付けられたが、ロドルフの母から「あんたたちが幸せなら、それでいいんだよ」と優しく声をかけられ、ようやく重い肩の荷が下りた気がした。
かつてルピーネを石をもって追った村人たちは、今や帝国の英雄となった『白銀の疾風』と、『幸運の竜』として名を馳せたルークを熱烈に歓迎した。ルピーネは、エルフなど見たこともない獣人たちがアルヴィンを冷遇しないか案じていたが、それは杞憂に終わった。アルヴィンはその美麗な佇まいと余裕ある微笑みで、あっという間に村中の女性たちを虜にしたのだ。 (そうか、獣人にとって魅力の基準は「強さ」……。彼は文句なしのSランク冒険者だものね) ルピーネは温かい歓迎に戸惑いつつも安堵していたが、隣に立つロドルフは村人たちの手のひら返しを、どこか冷めた目で見つめていた。
そして、ルピーネを何より驚かせたのは、生後二ヶ月に満たない小さな赤ん坊の存在だった。 「この子の名前は、クルトだ。お前の弟だよ。春先に生まれたばかりなんだ」 父譲りの輝くアンバーの瞳と、母と同じ柔らかなブラウンの髪を持つ赤ん坊。自分を真っ直ぐに見つめるクルトを抱き上げたとき、ルピーネの心に確かな温もりが広がった。 (……ああ、これでいいんだ)
一人娘である自分が族長の道を断たれたことは、ずっと彼女の心の澱となっていた。しかし、この愛らしい「小さな希望」の誕生により、後継者問題は解決する。ルピーネは、何の憂いもなく自分の未来を選び、歩んでいく自由を手に入れたのだ。




