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第四十一話:絶望の盆地と黒い沼

毎日のように魔物と戦いながらも、着実に山頂へと近づいていった一行は、これまで真っ白に染まっていた山の中腹以上の空気が、炭を撒き散らしたように薄黒く濁り始めていることに気がつく。道中で目にする植物や魔石の鉱石も、ことごとく輝きを失っていた。特に息苦しさや体調の異変は感じなかったが、念のためエルフのフードを深く被り口元を覆って、一行は慎重に歩みを進めた。


そしてついに、「北の大森林」を抜けた。「『虚無』らしきものは見当たらなかったね。この薄黒い空気と関係があるのかな」 ルピーネが不安げに囁く。一行は北の山岳の頂へと辿り着き、その辺りで一番大きな巨岩によじ登った。しかし、そこで彼らを待っていたのは、目指すべき「竜の巣」ではなく、無音の死の静寂だった。



「……そんな、まさか」 ルピーネの声が震える。眼下の盆地には、何者かによって引き裂かれた古竜たちの骸が、何体も雪に埋もれるようにして転がっていた。かつて世界の守護者として崇められた強大な命が、無残な物言わぬ肉塊と化している。雪山に囲まれているにもかかわらず、すでに白骨化しているものもあり、惨劇から少なくとも半年から一年ほどの月日が流れていると思われた。


ルークが「キュイイイー……」と、聞いたこともないような悲痛な声を上げ、一体の巨大な古竜の亡骸に寄り添った。その竜の喉元は、まるで内側から弾け飛んだかのように消し飛んでいる。凍りついたその肌は、今は輝きを失い灰色にくすんでいるが、元は白竜だったのであろう。「もしかして、この竜はあなたのお父さんなのかしら、ルーク……」 あまりの怒りと悲しみに、ルピーネの声が掠れた。


「魔力が……反転している。樹氷の魔女の言った通りだ」 アルヴィンが、沈痛な面持ちで骸に手を触れた。その視線の先では、竜の遺骸が集まる盆地から、タールを流したような黒い闇の液体が滲み出していた。それは地形に沿って流れ落ち、真っ黒な澱みを形成する巨大な沼――底知れぬ「大穴」へと注ぎ込まれている。


「竜脈を通じて世界に循環されるべき膨大な魔力が、ここではドロドロとした『暗黒』に変換されている。……ルピーネ、君が出会った母竜は、きっと一族が皆殺しにされる中で最後の卵を守るために、敵の手が届かない遠い銀山まで、命懸けで逃げ延びたんだ」



『虚無』の正体。それは、古竜たちを殺し、その強大な魔力を何らかの方法で反転させて、負のエネルギーへと変えてしまった「魔力の底なし沼」だった。黒い穴は急速に広がり、一帯の土地を侵食しつつある。供給源を失った大森林の魔力は枯渇し始め、この地に住む魔物たちの生態系を狂わせていた。だからこそ、どの魔物も異様に殺気立っていたのだ。世界はまさに、ゆっくりと壊死しようとしていた。


「これは、調査報告だけで済む段階じゃないな……」 ロドルフが油断なくハルバードを構え、盆地の奥、黒い闇が渦巻く穴の中心部を睨み据えた。

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