第三十八話:紅炎と氷原の襲撃者
『樹氷の魔女』クレメンティアの館を辞した一行は、「常冬の森」を抜けて、さらに十日ほど北上した。そこに待っていたのは、皇帝から依頼された調査地である「北の大森林」の入り口、そしてすべてを拒絶するかのような純白の地獄だった。
もはや馬橇も役に立たず、ここからは徒歩で進むことになる。エルフのマントとドワーフの鎖帷子は、驚くべき遮熱・保温能力を発揮していたが、北へ進むほどに雪は深まり、風の刃が三人の体温を削り取っていく。
その時、ルピーネの紋様が熱を持ち、彼女は無意識に指先を鳴らした。 (――灯れ!) その願いに応えるように、ルピーネの指先からこれまでの火種とは比較にならないほど巨大な「紅炎」が噴き出した。炎は一行の周囲を温かな結界のように包み込む。 「これはありがたいな」 アルヴィンが感心したように呟いた。
「キュイー、ロー!」 突然ルークが鋭く警告を発した。 「……来るぞ。上だ!」 先頭を行くロドルフが叫び、ハルバードを構える。樹氷の陰から音もなく飛び出してきたのは、雪原の暗殺者、雪豹の魔物の群れだった。保護色に守られたその巨体は、吹雪の中では目視することすら難しい。
「――はあっ!」 素早く『紅炎の両手剣』を構えたルピーネが、切っ先から炎の奔流を放つ。純粋な破壊の炎となって雪豹の一頭を直撃した。ルークの魔力とルピーネの意志が、完全に同化したかのような威力だった。 「すごい……これが、私の力?」
「驚くのは後だ、ルピーネ! 右からも来るよ!」 アルヴィンが鋭い声と共に、ミスリル製レイピアを一閃させた。吸い込まれるような刺突が別の一頭を正確に刺し貫く。 「油断するな。こいつら、随分と気が立っているみたいだ」 ロドルフの雷光のハルバードが、雪豹の一角を周囲の雪ごと豪快に薙ぎ払った。
それでも、足場の悪い中での乱戦と魔物の執拗な連携に、氷原での死闘はその後数時間も続くこととなった。




