第三十五話:白銀のキャラバンと雪原の旅
帝都に本格的な冬を告げる風が吹き荒れる十一月の末、皇宮の正門前には、これまでの冒険とは一線を画すような重装備を整えた一行の姿があった。
「いいかい二人とも、ここから北は一歩進むごとに気温が下がる。エルフのマントとドワーフの鎖帷子は魔法で体温を一定に保つけど、首元の隙間はしっかり締めておくんだよ」 アルヴィンは、まるで過保護な親のようにルピーネとロドルフの装備を細かくチェックしている。
彼らの背中には、皇帝から下賜された最高級の保存袋がいくつも揺れていた。中身はアルヴィンが厳選した贅沢な糧食だ。ルピーネは出発早々、馬車の揺れに身を任せながら、柔らかいパンに肉を挟んで頬張った。 「ねえ、アルヴィン。この保存袋に入ってる『鴨のコンフィ』と『木苺のパイ』、信じられないくらい美味しいわ」 成人の儀を終え、少し大人らしくなったはずの彼女だが、旺盛な食欲は健在のようだ。
「……ルピィ、おいち?」 ルピーネの肩口から顔を出したルークが、短い前足でパンをねだる。魔術式が刻まれたおかげで、銀の首輪はルークの首にぴたりとサイズが合っている。 「ルークにもあげるわね。はい、アーンして」 「ルピーネ……ピクニックじゃないんだぞ。これから一ヶ月、難所の多い雪原を行く長旅なんだからな」 ロドルフが呆れたように笑い、その傍らには、アルヴィンの手で威力を大幅に増したハルバードが鈍い光を放っていた。
予想通り、北への旅路は険しかった。帝都を離れて三日も経てば、街道は深い雪に覆われ、一行は小型の馬橇に乗り換えた。ロドルフが何度も地図を確認し、本能的に向かうべき先を察しているらしいルークと協力して先導を務める。だが、アルヴィンの奏でる竜笛の調べなしには、ルークでさえ視界を失うほどの猛吹雪に見舞われることもあった。
それでも、一行の足取りは驚くほど軽い。 「ふふん。装備をケチらなくて正解だっただろう? 防寒具も食料も潤沢にある。君たちのアーマーは軽くて動きやすいし、僕のナビゲートがあれば野宿だって快適さ」 アルヴィンは白銀の竜笛を指先で回しながら、雪原の先を明るい目で見据える。(いや、お前のナビゲートが不安だから陛下は俺たちを同行させたんだろ……)とロドルフは思ったが、口には出さないでおいた。
「まあ、もしルーちゃんが成獣であれば、北への旅なんて三人を乗せてひとっ飛びなんだけどね。二日もあれば着いただろうさ」 「二日……。今は一ヶ月かかる道のりなのに、竜って本当にすごいのね」 ルピーネは自分の腰に手を当てた。そこには、服越しでもかすかに感じる熱を帯びた『竜の物語』の紋様がある。
「ルピィ……ルー、いる」 ルークが自分がいるから大丈夫だと言うように、ルピーネの頬にすり寄った。その小さな体からは、北の冷気を打ち消すような、力強い鼓動が伝わってきた。
「そうね、大丈夫よ。私たち、きっと辿り着けるわ」 ルピーネの視線の遠く先には、空を突くような白銀の山々が、厳かな沈黙を保ったままそびえ立っていた。




