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第三十二話:はみ出し者と孤独の共有

その日、謁見を終えた三人は皇宮の客室に泊まることになった。朝の大騒ぎもあり、流石にもう「夜空の十字亭」に滞在し続けるわけにはいかない。旅立ちまでは宮殿で世話になることになったのだ。宿への残りの支払いや荷物の移動は、全て騎士団が手際よく済ませてくれた。ルークは皇帝の許可を得た後、アルヴィンが竜笛で呼び寄せた。 ルピーネは、ヴァネッサとハンナに直接別れを告げられなかったことが少し心残りだったが、(でも、きっとまたすぐに会う機会があるよね)と自分に言い聞かせた。


夜が更けた頃、アルヴィンは独り皇宮の中庭に立ち、険しい顔で月を見上げていた。その瞳は、現皇帝ラインハルトと同じ、皇族の証とも言える鮮やかなサファイアブルーに輝いている。 「アルヴィンさん……」 ルピーネが控えめに声をかけると、彼は振り向かずに答えた。 「寝付けないのかい。今日は驚かせて悪かったね」 「本当にびっくりしました。アルヴィンさん、いえ、アルヴィン様が公爵位を持つ皇族だったなんて」 「いや、君たちに敬語を使われるのはごめんだから、やめてくれ。今まで通り、アルヴィンと呼んでほしい。帝位継承権は随分前に放棄しているしね。……ロドルフはまだ自主練してるのかい?」 ルピーネが頷くと、アルヴィンは小さな息を吐いて、自らの出自を静かに語り始めた。


「僕の祖母はね、祖父に自分以外の正室がいたことがどうしても許せなくて、父を産んだ後、すぐに離縁してエルフの国へ帰ってしまったんだ。父も、僕の母と恋に落ちたけれど、皇宮には僕の腹違いのリヒャルトもいたしね。母は宮殿生活の窮屈さを嫌って、住み慣れたエルフの国に戻って僕を育てたのさ」

アルヴィンは寂しげに微笑んだ。 「僕の髪にも肌にも耳にも、祖母と母から受け継いだエルフ の血が濃く現れている。でも、僕の心は人間のように外の世界を求めてしまうんだ。皇族としても、エルフとしても、僕は『はみ出し者』なんだと思うよ」


「……それなら私も、同じ」 ルピーネは隣に並び、共に夜風を浴びた。 「獣人の村にいた頃、私も自分は『はみ出し者』だと感じていたわ。でも、今はアルヴィンさんやロドルフ、ルークがいる。アルヴィンさん、いえ、アルヴィンが何者であっても、あなたは私たちの仲間だよ」


ルピーネの言葉に、アルヴィンは一瞬だけ目を瞬いた。そして、いつもの飄々とした態度に戻ると、彼女の頭を愛おしそうに軽く撫でた。 「嬉しいね。……さあ、明日からは帝国の公費で爆買いだ。宝物庫もチェックしなくちゃ。北の山岳地帯は、今のルークの火でも凍えるほど厳しい場所だからね」


その頃、帝都東の離宮で隠棲しているアルヴィンの父と兄――ハーフエルフの前々皇帝エルヴィンと、クォーターエルフの前皇帝リヒャルトもまた、それぞれの宮殿の窓から見える北の空を眺めていた。彼らの中に流れる、僅かだが確かなエルフの血が、北で起こりつつある「異変」を本能的に感じ取っているかのようだった。

アルヴィンの血縁関係について:

・アルヴィンの祖父にあたる三代前の皇帝フィリップ第二妃エルナがエルフであったため、この国の皇族は代々エルフの血を引いている。

・アルヴィンは、エルナの子でハーフエルフの前々皇帝エルヴィンと、エルフ領邦国家君主のセシリアとの間に、帝国の第二皇子として生まれた、スリークォーターエルフ。前皇帝リヒャルトの異母弟、現皇帝ラインハルトの叔父に当たル。兄帝リヒャルトの即位前に帝位継承権を放棄した際に、領邦国家エルフェンライヒの公爵位を授爵した。

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