第二十七話:白炎と白銀の竜笛
その頃、ルークがいなくなったことに気づいたアルヴィンは、落ち着いた様子で懐から『白銀の竜笛』を取り出し、音の出ない旋律を吹いた。 「あれ、戻ってこない。あちゃー、もう手遅れかな」
小一時間後、下町からの通報を受けたギルド職員と一緒にアルヴィンが駆けつけた現場――アジトのあった路地裏からは、元々あった家屋が消し飛び、細い煙が上がっているだけだった。 そこにあったのは、原型を留めぬほどに焼かれ、灰燼と化した複数の「かたまり」と、その残骸を見張るように陣取り、不機嫌そうに喉を鳴らすルークの姿だった。
「……殺っちまったか。しょうがねえな」 少し遅れて現場検証に現れたギルド長のバレンティンが、頭を掻きながら呆れたように呟いた。ルークは「キュイ」と短く鳴き、ならず者の一人だった男の残骸のすぐ横を、再び威嚇の炎で舐める。
「すまんが、今度こういうことがあったら生け捕りにしてくれるか? こいつらに聞きたいこともあるんでな」 バレンティンがルークにかけた冗談めかした言葉に、遠巻きに見ていた冒険者や生き残った悪漢の残党は総毛立った。可愛らしいマスコットに見えた白い竜は、実は生ける災害そのものだったのだ。
アルヴィンが銀の笛を取り出し、再び無音の旋律を吹いた。 「ルーちゃん、落ち着いて。僕だよ」 すると、荒ぶっていたルークが魔法に解かされるように鎮まった。ようやく自分の「獲物」から目を離すと、アルヴィンの足元に擦り寄り、抱き上げられて嬉しそうに鼻を鳴らした。 一方、ザムエルと悪徳商会は、手駒が跡形もなく消し炭にされたと報告を受けて、顔面蒼白で震え上がるしかなかった。
「あなたが無事でよかった。でもね、いくらなんでもやりすぎよ、ルーク。関係ない人が怪我したらどうするの! 手加減することを覚えてちょうだい」 その夜、クエストから帰ってきた「ママ」にたっぷりと叱られたルークは、尻尾を丸めてしょんぼりと肩を落とした。
この事件については、ルークの正当防衛が認められ、結局お咎めなしとなった。これをきっかけに、アルヴィンの竜笛が、ルークを呼び寄せるだけでなく、『幸運の竜』への指示や指導にも極めて有効であることが分かったのは、不幸中の幸いと言えた。




