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第三話:月光と光の子竜

満月の夜、それは訪れた。 ルピーネの腹部が、これまでにないほど強く、脈打つような光を放ち始める。皮膚の下で魔力が渦巻き、彼女の意識を白い熱が焼き尽くそうとしていた。


「……っ、あ……!」

叫び声を押し殺し、ルピーネは寝床のシーツを固く握りしめた。両親が見守る中、彼女の身体を強烈な光の奔流が包み込む。それは「出産」というよりは「顕現」と呼ぶべき、聖なる儀式のようだった。 光が最高潮に達し、弾けた瞬間。ルピーネの身体から、滑り出すように一つの命が溢れ出した。


それは、白銀のように輝く鱗を持った、小さな竜だった。

「……きれい」

息を切らしながら、ルピーネはその子を抱き上げた。生まれたばかりの竜は、濡れた羽を震わせ、大きな瞳でじっと彼女を見つめた。その瞳の色は、ルピーネと同じヘーゼル色。しかし、彼女を見つめる視線には知性が宿り、時折、興奮したように奥底で赤く明滅する。


「ルーク……。光、っていう意味よ」

ルピーネがその名を呼ぶと、子竜は満足げに小さく喉を鳴らした。まだ言葉は話せないようだが、彼女の心は通じている確信があった。 ふと鏡に映った自分の姿を見て、ルピーネは息を呑んだ。左の脇腹から腰骨にかけて、見たこともないアザが浮き上がっていたのだ。三月の中に、竜の鱗を敷き詰めたような不思議な紋様。それは、ルークと彼女を繋ぐ、消えない絆の証だった。



竜の子の誕生に、村には激震が走った。 「不義の子」という誤解こそ解けたものの、村人たちの反応は、ルピーネが期待していたような祝福ではなかった。

「あれは……本当に神の使いなのか?」 「あんな異形の生き物を、人間の娘が産み出すなんて……」

彼らはもはや、ルピーネを「不潔な娘」とは呼ばなかった。代わりに、「触れてはいけない腫れ物」を見るような冷たい畏怖の目で、遠巻きにするようになった。広場を歩けば、人々は潮が引くように道を空け、子供たちは親の背中に隠れる。


産後、驚くほど早く体力が回復したルピーネは、ルークを連れてあの山へと向かった。 しかし、たどり着いた崖の割れ目は、巨大な岩によって完全に塞がれていた。まるで、最初からそこには何もなかったかのように。

「竜のお母さん……」

母竜の亡骸を弔うことすら許されない。ルピーネは冷たい岩肌に手を当て、静かに祈りを捧げた。ルークがその肩に乗り、励ますように彼女の頬を小さな鼻先で突いた。



村に戻ったルピーネは、あの日掘り出した銀鉱石を、昔から彼女を可愛がってくれた村の老鍛冶屋に預けた。 「……これを、フィビュラ(ブローチ)に?」 「ええ。最高の精錬と加工をお願いします。ロドルフの、18歳の成人の儀までに」


本来なら帯飾りにする予定だったが、今のルピーネの立場では、そんな大層な贈り物を手渡すのは憚られた。せめて、マントの下にも身につけられる守り刀のような小ぶりのフィビュラを。 ロドルフの成人の儀まで、あと二ヶ月。


(間に合いますように。そして……その時まで、私がこの村にいられますように)

ルピーネの願いとは裏腹に、彼女とルークを巡る村の空気は、日増しに冷たく、鋭く尖っていくのだった。


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