第二十一話:成人祝いと特別な贈り物
Cランク昇級から数日。帝都の夜空に大きな月が昇る頃、ルピーネは16歳の誕生日を迎えた。狼獣人の女性がこれで成人となる、人生の大きな節目だ。
その午後、宿のテラスでは、アルヴィンと宿の主人テオドールの計らいで、ささやかながらも温かい祝いの席が設けられた。 「16歳の誕生日、おめでとう、ルピーネ。お祝いとしてそのミスリル剣に魔法を付与するよ。今回は、ルーちゃんの力も借りて本格的な術式にしよう」
アルヴィンが地面に大きな魔法陣を描き始める。それは見たこともない、古のエルフが使う本格的な大魔術式だった。 「ルピーネ、剣を陣の中央に。……そして、君も手を添えて」 ルピーネが緊張した面持ちでミスリルの柄を握ると、その手の上にルークが「きゅいきゅい!」と誇らしげに前脚を置いた。
アルヴィンが呪文を唱えると、魔法陣から溢れ出した青白い光がテラス内を満たす。その瞬間、ルークの体から白銀の魔力が奔流となって溢れ出し、ルピーネの手を通じて剣へと流れ込んだ。すると、ミスリルの刃に紅蓮の紋様が浮き上がり、温かい炎が勢いよく吹き上がった。
「これは……火?」 「ああ。付与効果は『火』だ。そして、見てごらん」 アルヴィンが指差した先――剣から手を離したルピーネの指先には、まだ小さな、けれど力強い「一粒の火」が灯っていた。
「私から、火が……」 「本来、獣人は魔力がないから、魔法は使えない。でもルークとの共鳴が、君の中に眠る力を呼び覚ましたんだろうね」 神秘的な光景にルピーネが見惚れていると、隣で驚嘆していたロドルフが、ハッと気づいたように小さな箱を差し出した。
「……ルピーネ。これは俺からだ」 中には、美しい三日月の意匠があしらわれた銀の腕輪と、お揃いのルーク用の首輪が入っていた。 「綺麗。首輪も?」 「ああ。近頃、ルークは『幸運の竜』として有名になりすぎた。変な輩に付き纏われることも増えたからな……これを着けていれば、『白銀の疾風』所属のお前の従魔であることが一目でわかる。少しでもルークを守る助けになればと思って、この間鍛冶屋に行った時、注文しておいたんだ」
「ロドルフ……嬉しい。大切にするね、二人で」 ルピーネが微笑むと、首輪を着けてもらったルークは、まるで勲章を授与された騎士のように「きゅいきゅい!」と胸を張った。
ロドルフに目配せをして、今度はルピーネがアルヴィンに向き直った。 「アルヴィン、どうもありがとう。私たち二人からも、あなたにプレゼントがあるの」 差し出されたのは、銀製の小さな竜――ルークを模した「呼び笛」だった。 「これまでのお礼には全然足りないけど……これがあれば、いつでもルークを呼べるわ。そうすれば、アルヴィンが道に迷うことも減るでしょ?」
「……あはは。これは僕にとって、何より心強い道標だね。大切にするよ」 アルヴィンは少し複雑そうな、でもすごく嬉しそうな笑顔で『白銀の竜笛』を受け取った。
宴の翌日、ルピーネは意を決して、ギルド長を訪ねた。 「ギルド長、いえバレンティンさん。教えてください。竜の巣……ルークの仲間は、どこへ行けば見つかるでしょうか」
バレンティンは静かにルークを見つめ、記憶を辿るように口を開いた。 「……帝都から北へ一ヶ月ほど登った、険しい山々に囲まれた森林地帯で、過去にリントヴルムの目撃例がある。だが、そこへの道のりは険しいぞ」
「北の山林地帯……」 「行きたいなら、まずは実力をつけ、路銀を貯めることだ。焦る必要はない。君の『幸運の竜』が、いつか必ず君たちを導くだろう」
ルピーネはルークを抱きしめ、窓の外に広がる北の空を見上げた。 少女の手に灯った小さな火は、彼らをまだ見ぬ山岳へと続く、確かな希望の光に見えた。
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