第十六話:初依頼と影狼
帝都から半日ほど歩いた場所にある、今は打ち捨てられた廃村。かつては豊かな農村だった面影は、不気味に垂れ下がる蔦と、崩れた石壁に覆い尽くされていた。
「……いるわね。嫌な気配」 ルピーネは、改良したスリングの感触を確かめながら低く呟いた。狼獣人の鋭い五感が、暗く漂う闇の気配と獣の臭いを捉えている。
「影狼は、物理的な影の中に潜む。実体化する一瞬を叩かないと、剣は空を切るよ」 アルヴィンが、自作の連射式クロスボウを構えながら冷静に助言する。
その時、石造りの井戸の「影」が、生き物のようにうねり、跳ねた。 「ガァッ!」 漆黒の毛並みに、赤く光る眼。三頭の影狼が、音もなくルピーネの背後を強襲する。
「させない!」 ルピーネが瞬時にスリングを振り抜いた。アルヴィンが設計し、ドワーフが作り上げた「重力操作」の術式が発動する。放たれた石礫は、空中で重力加速度を増し、不可視の衝撃波を纏って先頭の影狼の眉間を撃ち抜いた。
ドォォォン! たった一発の石礫が、影狼の頭部を粉砕し、さらに背後の井戸の石積みまで派手にぶち抜く。 「……すごっ。威力がありすぎて、反動が腕にくるわ」
「こっちはまかせろ!」 横から飛びかかってきた二頭に対し、ロドルフが雷光を纏うハルバードを一閃させた。 「ハッ!」 パチリと銀色の火花が散ったかと思うと、白銀の雷光が刃から扇状に広がり、二体の影狼の体を同時に焼き切った。ルークの魔力を宿した「雷の魔法」は、影に潜む魔物にとって最悪の天敵だった。
「きゅいきゅい!」 ルピーネのマントの中からルークが顔を出し、得意げに喉を鳴らす。 「助かるよ、ルーク。お前が近くにいてくれるだけで、雷の威力が強まるみたいだ」 ロドルフが珍しく柔らかい顔をして、フード越しにルークの頭を撫でた。
「……ふむ。やっぱりこのパーティー、バランスが良すぎるね。僕の出番がなさそうだよ」 アルヴィンが苦笑しながら、遅れて出てきた最後の一頭を、クロスボウの精密射撃で仕留めた。
ザムエルが予想したであろう「苦戦」とは程遠く、討伐時間はわずか数分。 三人は手際よく依頼達成の証拠となる影狼の牙を回収した。
「……ねえ、これ。あの受付の男の人が言っていたほど、大変じゃなかったわね」 ルピーネの言葉に、アルヴィンが肩をすくめる。 「いや、普通のFランクなら全滅していただろうね。……さて、サッサと報告に戻ろうか。帝都のギルド長、今頃は『疾風のアルヴィン』がどこかで道に迷ってないか、ハラハラして待っているはずだからね」
「……その心配は、あながち間違いじゃないと思うわ」 ルピーネは、早速反対方向へ歩き出そうとしたアルヴィンの腕を、ロドルフが黙って掴んで正しい道へ誘導するのを見ながら、小さく吹き出した。




