第十四話:宿の夕餉と大食い美少女
職人街での装備強化を終えた三人と一匹は、ようやく宿屋を兼ねた食堂へと腰を下ろした。
「じゃあとりあえず、エールを三つ!……それでいいよね?」 アルヴィンの問いに、ルピーネはやや口ごもりながら「あと二ヶ月もしないで成人だけど、私はまだ未成年だから、果実水で」と答えた。 「あ、そうなんだ。じゃあ、誕生日には何が欲しい?」 「いやいや、もう沢山もらってばかりなんだから、本当にやめて!」 食い気味に断るルピーネ。二人のやりとりを、ロドルフは眉間に皺を寄せて眺めている。
乾杯の後、運ばれてきたのは帝都名物の魔猪の香草焼きと、色とりどりの蒸し野菜。 「いい匂い!」 空腹だったルピーネは、夢中でナイフを動かした。獣人らしく、大きな肉にかぶりつく姿は実にかっこよく、同時に愛らしい。 「……んんっ、美味しい!」
「ふふ、ルピーネは美少女なのに、かなりの大食漢なんだね」 不意にアルヴィンが言った。彼は食事をする横顔すら、一幅の絵画のように美しい。 「……び、び、美少女!?」 ルピーネは喉を詰まらせかけ、顔を真っ赤にした。狼獣人の社会では「美しさ」よりも「狩りの腕」や「体躯の強さ」が讃えられる。面と向かって「美しい」と称賛されることに、彼女は全く慣れていなかった。しかも、目の前の絶世の佳人に言われてしまっては、絶句するしかない。
「おい。エルフっていうのは軽口を叩くのが仕事なのか」 ロドルフが不機嫌そうに低く唸る。アルヴィンは不思議そうに首を傾げた。 「本当のことじゃないか。ねえロドルフ、君もそう思うだろう? ルピーネは綺麗だ。可愛いというより、凛とした美人系かな。……ね?」
「なっ……!?」 いきなり同意を求められたロドルフは、飲んでいたエールを吹き出しそうになった。隣ではルピーネが、今にも頭から湯気が出そうなほど赤くなって固まっている。 「……まあ、その……。キレイ、だとは思うけど……っ」 最後の方は消え入りそうな声でモゴモゴと呟き、ロドルフは逃げるように残りのエールを煽った。
(私が、キレイ……? ロドルフまで……?) ルピーネの心臓が、ルークの雷撃でも受けたように激しく跳ねる。
「ほらね、素直なのが一番だよ、二人とも」 確信犯的に微笑むアルヴィンのグラスを、ロドルフがひったくるように奪って飲んだ。 「お前も人間で言ったら未成年だろうが。酒を飲んで戯言を抜かすな」 エールを続けてあおったせいか、ロドルフの頬にも朱が差している。アルヴィンは苦笑しながら、ルピーネのフード内で首を傾げるルークに、細かく切った肉を一切れ放ってやった。
帝都の夜は更けていくが、共に旅をしてきた三人と一匹の距離感は、この賑やかな街の灯りよりも、少しだけ温かくなっているようだった。




