第十話:帝都の輝きと発明家の目
【キャラクター紹介】
ルピーネ: 狼獣人の族長の娘。もうすぐ16歳。 剣を父に、投石器を母に学ぶ。遭難した山で母竜から卵を託され、自らの身体で竜を孵すという数奇な運命を背負う。ダークシルバーの髪とヘーゼルの瞳は祖母譲り。
母竜: 二千年を生きる古竜。 瀕死の状態でルピーネと出会い、「契約」をする。彼女に卵を託し、その命を繋いだ。
ルーク: ルピーネの身体を借りて産まれた白銀の子竜。 ルピーネを「ママ」と呼び、彼女の腰の紋様を通じて意識や魔力を共有する。雷・火・光の魔法を操るが、母竜から教えを受ける機会がなかったため、加減を知らずに周囲を巻き込むことも。
ロドルフ: 狼獣人の若き戦士でルピーネの幼なじみ。18歳。大きな戦斧を操る。村を追われたルピーネを守るため、すべてを捨てて同行する。燃えるような赤髪とアンバーの瞳が特徴。
アルヴィン: エルフの発明家。68歳(人の17歳相当)。 連射式クロスボウを自作するなど天才的な発想力を持つが、一箇所にじっとしているのが苦手。エルフの国を出るが、方向音痴で迷走中。シルバーブロンドにサファイアブルーの瞳を持つ。
その晩、三人と一匹で焚き火を囲む中、ルピーネはそっと自分の手首をさすった。野盗に捻られた痛みが僅かに残っている。 (もっと、強くならなきゃ。ルークを守れるくらいに……) その決意は、傍らで拳を握りしめるロドルフも同じだった。
「……ルピーネが無事だったのは、あんたのおかげだ。恩は返す」 ロドルフは渋々といった様子で頷いた。「よし、決まりだ! 帝都への道中、よろしく頼むよ。……あ、ちなみに帝都はどっちの方角だい?」 「逆よ、アルヴィン!」 ルピーネの明るい笑い声が、険しい峡谷の空気を束の間、和らげた。
歩き始めて三日目の朝、峡谷の湿った冷気が、乾いた草原の風へと変わった。 最後の急斜面を登りきると、視界は一気に開け、黄金色の夕陽に照らされた大平原が眼下に広がっていた。 「……見て、ロドルフ、ルーク! あれが、帝都よ」
地平線の先、幾重にも重なる巨大な石造りの城壁と、天を突くような尖塔の群れ。それらが夕陽を反射し、まるで伝説の宝物庫のように輝いている。 《ママ! キラキラしてる!》 ルークがルピーネの肩で翼を羽ばたかせ、興奮を紋様を通じて伝えてくる。
「……ああ。デカいな。村がいくつ入るか想像もつかん」 ロドルフはハルバードを握り直し、圧倒されるような光景に目を細めた。だが、その隣でルピーネが不意に顔をしかめ、自分の左手首を押さえた。
「ルピーネ、痛みがひどいのか?」 ロドルフが即座に駆け寄り、彼女の手首を覗き込んで眉間に皺を寄せた。野盗に捻られた痕が、さらに腫れている。 「大丈夫よ、少しジンジンするだけ。昨日のルートは岩登りが多かったから。帝都に着いてから薬を探すわ」
「それなら、僕の出番だね」 アルヴィンがひょいと二人の間に顔を出し、革袋から小さな青い容器を取り出した。 「これはエルフの里の『月露草』を精製した軟膏だよ。即効性の治癒効果があるんだ。……ほら、貸してごらん」
アルヴィンがルビーネの手首をとり、慣れた手つきで軟膏を塗り込む。ひんやりとした感覚とともに、腫れが目に見えて引いていく。 「わあ、すごい……。痛みが消えていくわ」 「当然さ。僕の作る薬は、臭いや味は最悪だけど効き目は一級品だよ」
アルヴィンがルピーネの手首を優しく撫でながら微笑むのを見て、ロドルフの眉間にますます深い皺が寄った。 「……おい、もういいだろう。治ったんなら離せ」 「おや、ロドルフくん。そんなに怖い顔しないでよ。医療行為だよ?」 アルヴィンはサファイアブルーの瞳を悪戯っぽく輝かせ、わざとらしくのんびりと言い返す。
ロドルフは鼻を鳴らし、話題を逸らすようにルピーネの腰の投石器を指差した。 「それよりアルヴィン。あんた発明家なんだろ? このスリングの調子を見てやってくれ。ルピーネの唯一の遠距離武器だ」
アルヴィンは待ってましたと言わんばかりに、スリングを受け取り、鑑定士のような鋭い目で観察し始めた。 「ふむ……。いい革を使っているね。お母さんのお手製だったっけ? でも、この接続部の編み込みを少し工夫して、もっと伸縮性のある弦と組み合わせれば……」 アルヴィンの目が、面白い玩具を見つけた子供のように輝く。
「射程を今の二倍、威力は三倍に伸ばせるよ。……ルピーネ、君のスリングショットを『魔道具』に進化させてあげようか?」 「三倍!? そんなことできるの?」 ルピーネの問いに、アルヴィンは「エルフの知恵と僕の技術を甘く見ないでよ」と胸を張った。
帝都まであと数日。三人と一匹のパーティーは、それぞれの想いと希望を抱えて、最後の坂道を下り始めた。




