第九話:エルフの助言と白銀の聖竜
峡谷の激闘を終えた三人と一匹は、アルヴィンと名乗るエルフの案内で岩壁の中腹にある洞窟へと身を寄せた。そこは僅かに陽光が差し込み、野盗たちの目も届かない安全な高台だった。
「はい、これを。女の子がそんな破れた服じゃ、落ち着かないだろう?」
アルヴィンが差し出したのは、エルフの織り子が手ずから織ったという、透き通るように薄く、それでいて驚くほど温かいマントだった。「ありがとうございます……」 ルピーネはマントを羽織り、裂かれた上衣を隠した。手触りの良い薄衣は、羽のように軽い。
アルヴィンのサファイアブルーの瞳が、彼女の脇から覗く紋様を食い入るように見つめた。「ちょっと、あんまりジロジロ見るなよ!」 ロドルフがすかさず二人の間に割って入る。敬意こそ失っていないが、その瞳には明確な不快感が混じっていた。「おっと失礼。いや、あまりに美しい『竜の物語』だったものだから」
アルヴィンは悪びれず、のんびりとした口調で語り始めた。「その紋様はね、竜の魔力に反応して、その持ち主の血筋や物語を浮き彫りにするものなんだ。……君のことは、リントヴルムの子を預かった時から、この紋様が記録し始めているんだよ」
「リントヴルム……」ルピーネがその名を反芻する。 「そう。この子竜の種族さ。白いリントヴルムは古来より幸運をもたらす『聖竜』として崇められることもある。……もっとも、その力を欲しがる連中も多いけどね。よければどうしてその子を連れているのか、教えてくれないかい?」
ルピーネは、母竜から卵を預かることになった経緯を全て二人に話した。ロドルフは、今まで遠慮して聞けずにいた詳しい事情が判って、内心ほっとしていた。
「この紋様は多分消せないし、消さないほうがいいね」 アルヴィンによれば、ルークはルピーネの体内で孵化したことで、彼女の獣人としての生命力と強く結びついているという。ルークがルピーネを「ママ」と呼び、言葉を介さずとも意思を伝えられるのは、紋様が二人の魂を繋いでいるからだった。
「帝都に行くなら、僕も同行させてもらえないかな? 僕は発明が趣味でね、帝都でもっと面白い素材や最新の技術を手に入れようと思ってエルフの谷を出てきたんだ。このクロスボウも自作だし、君たちの力になれると思うよ」
「……あんた、いくつだ?」ロドルフが胡散臭そうに尋ねると、アルヴィンは「68歳さ」と事も無げに答えた。「えっ、68!?」 「まあ、エルフの年齢は人間で換算した場合、大体四倍から五倍ぐらいと言われているね」
「そうか、エルフの寿命は長いから、四分の一として計算すると……」 ルピーネが指を折って数える。人間の年齢でいうと、17歳。 「まさかの年下かよ!」 ロドルフが調子を狂わされたように声を上げた。
当のアルヴィンは、ルークにシルバーブロンドの長髪を巣のようにかきまわされながら、楽しげに笑っている。「実は道に迷って一ヶ月ほど彷徨ってたんだけどね。帝都まで案内してくれるなら助かるよ」
「方向音痴のエルフなんて聞いたことがないわ!」 ルピーネは思わず吹き出した。絶世の美形でありながら、どこか抜けたところのあるアルヴィンに、彼女は微かな親しみを感じ始めていた。




