一瞬の偶然、少しの必然
4月1日入学式の日。一名は採寸から驚愕の速さで完成した制服に身を包み、入学式へ行く準備を整える。
「よし!準備オッケー!⋯⋯さてこの部屋とも一旦今日でお別れか⋯⋯」
小学生から今に至るまでの9年間使い続けたこの部屋は寮に持っていくものがなくなり、初めてこの部屋に入った時以来の広さがあった。
「なんだかんだこんなに広かったんだなぁ、本とかゲーム機は全部あっちに持っていってあるけど、小物類がなくなっただけでこの広さなんだか感慨深いね」
小さな思い出が詰まったこの部屋を一旦とはいえ離れることになるのは少しの寂しさもある。
「でも、逆にいえばここから変えるんだよね、止まっていた夢を再び始める転換点⋯⋯おっと、そろそろ時間だ」
誰も知らない小さな秘密の思い出箱から離れることにはなるけれど、最後はこの言葉で終わりにするのがいいよね。
「今までありがとうね⋯⋯よ〜し!まずは目の前の入学式だ!!お父さ〜ん!お母〜さ〜ん!準備できた〜?」
情緒ぉぉ!!と言われるかもしれないけど、切り替えが早いといってほしいね!ではレッツラ入学式!!⋯⋯やば!?カバン忘れてる!!⋯⋯さっきぶり部屋!じゃ!部屋、急げ〜!
車で約2時間。入学式が始まるのは12時ちょうどで今は10時30分ぐらいなので早めに行くとしても1時間くらいは暇な時間がある。
「お父さん、やっぱ早く来すぎたんじゃない?」
「ん?そうか?じゃあ暇だしどっか行くか?」
そういえば紹介していなかったので改めてここで紹介しよう。父、名前は桂陽太、確かエンジニア系の会社の社長だったかな?詳しいことは知らないけど⋯⋯。で母、名前は桂優子、父と同じ会社に勤めていて週3くらいで行ってるらしい、主に会社同士の交渉をしてるとかなんとか。
「この辺だと下の商店街とかアリーナがあるっけ?他のはあんま知らん!!」
現在は史然高校のグラウンドの臨時駐車場に車を停めている。この辺りは乙訓市への移行の間に中心地として再開発が結構進んだとかで、いろんな企業が入ったりしたんだっけ?でよ、この史然高校結構立地がいい、徒歩5分ぐらいのところに駅があるし、なんかミニ町みたいな商店住宅街がたくさんあって住民と観光客で賑わっているだとか。
「う〜ん無難に行くならすぐそこの商店街だけど⋯⋯お母さんはどう?」
「そうね〜、近くには長岡天満宮あるからそこがいいんじゃないかしら?確かお花が綺麗に咲いているのよ」
「おっと〜確実に私情が入ってんねぇ」
お参りに行くとかじゃなく、お花が咲いているのよ、なのが強いなぁ心の中に固い意志があるんかねぇ。まぁ他に行くところも思いつかないし、徒歩だと絶妙に遠いところにあるからなぁ⋯⋯うん。
「まっいいんじゃない?それじゃあお父さんレッツラゴー!!」
「よし、最速で行くぞー!」
「法定速度は守ってねぇ〜」
その後、しっかり法定速度内の最速で、長岡天満宮に到着する。お母さんが言っていた通り花が咲いていた、それも遠目からも見えるぐらい、めっちゃ綺麗だった、もう満足ってなるぐらい遠目からわかる綺麗さ、まぁここで、じゃあ帰ろうか!とか言ったら車がモザイクかかる可能性も否定できないから言わないけど⋯⋯。
「それじゃあ行こうか」
「えぇ、行きましょう!」
珍しく母がワクワクしている、これが植物の魅力なのか?僕はあんまりわからんが⋯⋯。向き合い方も、向き合ってきた年数も倍ぐらいあるからなぁ。
「結構鳥居でかいなぁ、遠目でもそうだったけど、それになんと言っても両脇に生える花、いや低木の方が適切か?まぁそこは後でお母さんに聞けばいいとして、時期も時期だから桜も咲いてるのかぁ。
真紅の花と淡い桃色の桜、そして池が三位一体となっていろんな想いを浮かばせる景色。いや〜心が穏やかになるわぁ、ほんとに三色だけではないけど、主に三色だからまぁ三色、絶妙なバランスでいい感じ。
「って、あれ?お母さんは?お父さんどこ行ったか知ってる?」
「あぁそれならあっちに」
父が指差す方向を見てみると鳥居からだいぶ離れた距離のところにお母さんの姿が見えた。いやほんと誰よりも楽しんでるな⋯⋯いいことだね、それにしても歩くのはえぇな。
「あと何時間ぐらいだろ?」
スマホを確認してみる、まぁ10分もかからずにきたからそんなかかってないよね、スマホに映し出された時間は11時ジャスト、じゃあもうちょっと奥に行こうかな?いや〜でも7分?(マップ情報を参考)だとはいえあんま長居するのもよくない⋯⋯、いや、いいや!最悪お父さんがなんとかしてくれるはず!!
「となればすぐ行動!じゃお父さん!僕もあっち行ってくるね!」
「あぁわかった!転ぶなよ〜!」
こんな道で転ばなっ⋯⋯ 危なかった絶妙な段差があるとは⋯⋯。うん、時間はあるんだゆっくり行こうその方が花も見れるし⋯⋯うん、決してビビったとかじゃないよ!!
言った通り、ゆっくりと目の前を流れる景色を見ながら歩く。てかここの池いろんな生き物いるな〜、まぁ亀と鯉しか見てないけど。
「何回言うねんって感じだけど綺麗だなぁ〜、う〜ん花の深さ垣間見たりって感じかな〜」
母みたく家に庭を作るほど魅入られたわけじゃないけど、部屋、寮に鑑賞用?の花置いてみるのもいいかも?そこは後々、よ〜しもう少し奥まで行ってみよ〜、って!
花道の最奥がどうやら十字路っぽいものになっていたようで、人とぶつかった。曲がり角でぶつかるよくある展開を再現したような状態になってしまった⋯⋯、いや正確にいえば僕しか倒れてないんだけど⋯⋯。
「いたたたた」
「あっ、大丈夫ですか?」
「いえ、僕が不注意だったんで⋯⋯」
尻餅をついたのである程度は痛いが、まぁ自業自得だし全然、それより謝らないと。顔を上げて、謝ろうとしたが、一瞬言葉が出なかった。そこには約一ヶ月前入試会場にて、正確にいえば坂道で出会った少女の姿があった。いや出会ったと言うほどのこともない感じだけど、通りすぎた?
「あぁその、ぶつかってごめんね?」
「いっいえ、その大丈夫ですので」
双方辿々しい感じで受け答えをする、気まずい1回顔を互いに見た?ぐらいの関係だけど、それでも0と1では感覚が変わってくる。うむむ、どうしたものか⋯⋯ここで一歩踏み出せないのがもとぼっちの辛いところだよなぁ。
「氷柱!そろそろ学校に戻らないと!」
そこで目の前の少女⋯⋯氷柱さんというらしい彼女の親がきた。慌ててというわけではないが迅速に衣服を整えてその場に立つ。
「あら氷柱?この人は?」
「あっ、その、あの⋯⋯」
うんうん、わかるだってほぼ赤の他人だもんね、そりゃ受け答えに困るよ、僕も困ると思うもん。じゃったらここは僕がなんとかしないとかな〜、う〜むこれは社交会(4歳の時の)で身につけた大人との話し方をフル活用すれば!!なんとか!たぶん!!
「僕の名前は桂一名と言います!同じ高校に通わせてもらうことになってます」
「あらほんと!確かに制服も同じねぇ、うちの氷柱、あっ苗字は中川ね、とにかく氷柱と仲良くしてあげてくださいね、それでは私たちは学校に戻るので、またあとで」
そう言って風の如く、中川一家(実は父親らしき人もいた)は通り去って行った。その間、中川氷柱さんが手振り身振りで何かを伝えようとしてくれた、その時の表情は以前見た時よりもいろがあった、ような気がする。
「おっと、中川さんが行ったってことは僕たちも行かないと!」
その後お母さんとお父さんと合流して一同入学式に向かう。




