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僕の事件簿  作者: 三浦猫
入学式

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3/3

入学式:起 後編

桜が舞う中、校舎裏で陰気な少年と胡散臭い先生が小規模ながら決死の取っ組み合いを繰り広げていた。

まるで蟻の巣のように入り組んだ複雑な態勢で。


そして、決着は引き分けに終わり、二人は疲労からベンチに腰掛けることになった。

さながら、喧嘩後のヤンキー漫画のように…。

初対面で分かり合うなら、拳だ!と言わんばかりの謎の爽やかな雰囲気だった。

謎の…雰囲気だった。

「先生、なかなかやるじゃないか。

自慢じゃないけど、格闘ゲームで培ったあのアッパーを受けて窓から崩れ落ちるくらいだなんて…。

それだけで尊敬に値するよ。」

「お前のパナシはたしかに中々だが…。

俺の復帰からのコンボ、いや猛攻を受けて生きているとは恐れ入るぜ…。」

「入学者を亡き者にしようとするな!!」


ー保護者の方々も体育館にご入場ください。ー


入学式開始前から、息の上がった二人に追い打ちをかけるように式が始まるとのアナウンスが流れる。

「保護者って…。もうみんな入場しちまってるじゃないか!」

焦って体育館に向かおうとした僕の肩を先生は掴んで座らせる。

「何するんだ先生!入学式が始まっちまうだろ!」

「まぁ待てよ。一本吸ってからでも遅くねぇさ…。」

「遅いよ!というか、入学式から未成年喫煙なんて手遅れだよ!

さらに、尚更アンタも行かないといけないハズなのになんでそんな落ち着いてるんだ!?」

そんな僕の紛糾を流しつつ、先生はタバコに火を灯す。


「灯条、お前見えすぎてるだろ?」

吸い込んだ煙を吐き出し、僕の目を見据えてきた。

「…先生はこれがなんだかわかるのか?」

「いや、それがどういう物で、何の意味がある、とかは皆目見当もつかんよ。

ただ、俺もそうだが目に見えたり、何かできちまったりそんなのを知ってるってだけだ。

これは持論だが、それ自体に意味はないんだよ。ただ持ってる、見えたり、できるだけだ。

だから、超能力バトル漫画的なものにはならん、流行りの異世界にも飛ばない。

期待するな。」

「僕は、そんなとんでも展開は期待はしていないぞ!」


ちくしょう!!

心の中で仰向けで泣きじゃくる僕。


「あぁ、ない。俺も目に持ってるがつまらん物だ。

生まれたときに貰った大事な粗品だ。」

「大事なのに粗品ぁ!」

と大阪の大手工業漫才事務所にいる某有名漫才師風に同名のツッコミをいれる。


「まぁ、つまり灯条は目に何かある。

そういう何かがわかるってことを持ってる。

まぁ、異なる才能で異能なんて言うが読んで字の如くこういう異能ってのはあるんだぜ?」


意外。

何せこういったものは他人、ましてや身近な人…に相談できるものでもない。

なんとなく子供の頃の周囲とのズレ、不協和音といったもので成長しながら自然と自分だけが異常なのだと知った。理解して殻を作り僕自身を守った。

先生は異なる才能と、随分丸く言ってくれたが僕は異常な才能、つまり正常ではないと思っていた。

ずっと、それこそ粗品どころか、粗悪品だと思っていた僕は先生の言い回し、ただの言葉遊びのようなものなのだけれどもとても救われた気がした。

たった一言だけど僕は救われたんだ。


「先生、ありがとう。

なんだか、上から目線に聞こえるかも知れないけれども入学した甲斐があったよ。」

僕は素直に感謝した。


「いや、礼には及ばないよ。

なぁ、灯条。お前は、自分が見えているものが真実だと思うか?」

「いきなり、難しいな先生。たしかに、僕は人が人に対しての感情が見える。

だから真実…とまでは言わないけれど、それが事実だとは思う。」

「…ふむ、灯条。質問を変えよう。

問:事実と真実はイコールで結べるか答えよ。」

「解:否。

なぜなら真実は一つではない。

真実は常に二つ。被害者と加害者の真実はイコールで結ぶことはできない。」

僕の答えに満足そうに笑った先生はタバコを灰皿に押し付ける。

「この答え合わせは、近いうちにしようか灯条。」


僕はこの胡散臭い、会ったばかりではあるけど恩人とも呼べる男との答え合わせで思い知ることになる。

真実の意味、そして事実イコール真実ではない本当の証明を。


ー入学式の校長の挨拶が風に乗って聞こえてくる。

体育館にふと目を向けると、一本の線が目に入る。


真っ黒。

黒色の線が誰かから向けられている。

殺意だ。

あの日見た僕の自己嫌悪の由来。


「先生、僕いまからだけれど入学式に行ってくるよ。」

「ふーん、そうかい。じゃあ僕も一本吸ったら追いかけるよ。」

吞気にまたタバコに火をつける先生に背を向けて、黒色の線へと走り出す。

「おーい、灯条!何か困ったことがあれば先生に言えよー!」

僕は走りながら振り返る。

そこには煙で顔は見えないけれども、僕に向かって青色の線が伸びていた。

「…ありがとう、先生!」

返事をして、僕は因縁の色に向かって走り出す。

なぜかはわからないが、色が見えるという、僕の異能で証明をするために。


あの日の黒色の事実ではなく、真実を。

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