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転生してないけど、俺の知ってる劉備と違うんだが!?  作者: まのゆいか
第2章:流転と喧伝、名を上げる旅
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第21話、劉備の仁徳

公孫瓚の使者として平原に現れた若武者、趙雲。その凛々しい姿と立ち居振る舞いは、劉備に強い印象を与えた。

劉備は趙雲を丁重に城内へ迎え入れ、言葉を交わすうちに、その誠実な人柄と、内に秘めた確かな武人の誇りに、ますます惹かれていった。


一方の趙雲もまた、劉備と接する中で、深い感銘を受けていた。国相という立場でありながら少しも驕ることなく、誰に対しても分け隔てなく接する態度。民の暮らしを心から案じ、わずかな財でも施しを惜しまない無欲さ。

そして、関羽、張飛という、明らかに尋常ではない豪傑たちが、心からの敬意をもって付き従っている事実。

趙雲は、劉備の中に、乱世にあって稀有な、真の「徳」の輝きを見た気がした。


そんな折、平原の近郊に、近隣の村々を荒らす賊の一団が出没するという報せが入った。おそらくは黄巾の残党か、あるいは流れ者たちが徒党を組んだものだろう。劉備は、民の安全を守るため、すぐさま討伐隊を編成することを決めた。


「趙雲殿、貴殿は公孫瓚様からの使者としてお越しになった身。危険な役目をお任せするわけにはまいりませんが…。」


劉備が遠慮がちに言うと、趙雲は静かに首を振り、槍を手に立ち上がった。


「劉備様。私も、今は平原の地に身を置く者。民を苦しめる賊を見過ごすことはできませぬ。微力ながら、お力添えいたしましょう。」


その申し出は、劉備にとっても心強いものだった。

討伐隊が出陣すると、賊は予想以上に手強く、地の利を得て頑強に抵抗してきた。劉備軍は苦戦を強いられ、一時は押し返されそうになる。その時だった。


「ここは私にお任せを!」


趙雲が、愛馬に跨り、敵陣へと躍り出た。

その槍さばきは、流れるような動きで敵の攻撃を捌き、繰り出される一突きは、正確無比に敵の急所を捉える。華麗でありながら、一切の無駄がない。その姿は、まるで戦場を舞う白き龍のようだった。


「おお…見事な!」


関羽も思わず感嘆の声を漏らす。


「へっ、やるじゃねえか!」


張飛も、その腕前に目を細めた。

趙雲の活躍に呼応するように、関羽の偃月刀がうなり、張飛の蛇矛が閃く。そして、劉備も的確な指示で部隊を動かし、ついに賊を壊滅させることに成功した。


城に戻った劉備は、趙雲の功績を称え、ささやかな宴席を設けてその労をねぎらった。


「趙雲殿、貴殿のおかげで、賊を討ち果たせました。誠に感謝いたします。」


「いえ、劉備様のご指揮、そして関羽殿、張飛殿の武勇あればこそ。私は、そのお手伝いをしたに過ぎません。」


趙雲は、謙虚にそう答えた。

その夜、劉備と趙雲は、酒を酌み交わしながら、夜遅くまで語り合った。互いの生い立ち、武を志した理由、そして、この乱れた世をどう生きるべきか。理想や志について語り合ううちに、二人の魂は深く共鳴し、強い友情と信頼が芽生えていくのを感じていた。趙雲は、劉備の持つ、私欲のない、ただ民を思う純粋な心に、強く惹かれていた。


(この方こそ、私が生涯を賭して仕えるべき主かもしれぬ…。)


趙雲の胸には、そんな思いが宿り始めていた。


しかし、今は、別れの時。趙雲は、公孫瓚からの使者としての役目を終え、北平へ帰還せねばならなかった。


「劉備様、短い間でしたが、貴殿と共に過ごせた時間は、私にとって得難い宝となりました。いずれ必ず、再びお会いし、その時は…。」


趙雲は、言葉を続けなかったが、その瞳には強い決意が宿っていた。


「趙雲殿…私も、貴殿との再会の日を、心待ちにしております。道中、お気をつけて。」


劉備は、名残を惜しみながらも、固い握手を交わし、若き龍を送り出した。


趙雲が去った後も、劉備は平原の統治に力を注いだ。彼の仁政と、関羽・張飛の武威、そして簡雍の補佐により、平原の地は少しずつ落ち着きを取り戻しつつあった。劉備の名声は、次第に高まっていった。


それから僅かも経たないある日の夕暮れ時。劉備が執務を終え、質素な私室で一人くつろいでいると、見慣れぬ男が彼を訪ねてきた。男は旅の商人だと名乗り、身なりは粗末で、ひどく疲れた様子だった。


「旅の途中で路銀を使い果たし、途方に暮れておりましたところ、平原の劉備様は困窮した者にもお優しいと聞き及び、恥を忍んでお訪ねした次第でございます…。」


男はそう言って、深々と頭を下げた。

劉備は、男がまさか自分を狙う刺客であるなどとは夢にも思わず、その困窮ぶりを心から憐れんだ。


「おお、それは難儀なことであったな。ささ、お上がりなさい。ちょうど夕餉の支度ができたところだ。粗末なものだが、一緒にどうかな?」


劉備は、何の疑いもなく男を部屋に招き入れ、自身の食事を分け与え、温かい茶をすすめた。

そして、男の旅の苦労話に親身になって耳を傾け、時には自身の筵売り時代の苦労話などを、気さくに語って聞かせた。その態度は、計算も裏表もない、劉備の生まれ持った人の良さそのものだった。


男――刺客は、劉備のあまりにも無防備で、そして温かいもてなしに、完全に毒気を抜かれてしまった。暗殺対象であるはずの劉備が、ただの人の好い田舎者にしか見えない。

その曇りのない瞳で親身に話を聞かれるうちに、懐に隠した短刀を抜く気力も、殺意も、どこかへ消え失せてしまった。


(この人を…斬れるわけがない…。)


刺客は、結局、何も行動を起こせないまま、食事をご馳走になり、劉備から「これでも路銀の足しにしてくだされ。」と、なけなしの銭まで渡されてしまった。

彼は、ただただ恐縮し、何か言いかけたが、結局は深く頭を下げ、「ご恩は、決して忘れませぬ。」とだけ言い残して、逃げるように劉備の屋敷を後にした。


「ふう、困っている人を助けることができて良かった。」


劉備は、刺客が去った後、すっかり満足げな顔で、一人ごちた。彼にとっては、ただの人助けをした一日に過ぎなかったのだ。


しかし数日後、簡雍が呆れたような顔で劉備に話しかけてきた。


「玄徳、お前さん、とんでもねえ幸運の持ち主か、それともただの鈍ちんか、どっちなんだい?」


「なんだ憲和、藪から棒に。」


「藪から棒にもあるもんか! 聞いたぞ、平原の劉平って男が、お前さんの評判を妬んで、近頃刺客を放ったらしいじゃねえか!」


簡雍は、劉備を狙った刺客の情報を掴んでいたのだ。


「まあ、お前さんのことだから、うまく追い払ったか、あるいは気づかずに追い返したかしたんだろうが、用心するに越したことはねえぞ!」


「え? 劉平が? 刺客? ……ま、まさか! あの時の旅人は!? ひええええっ!」


劉備は、簡雍の言葉でようやく数日前の出来事を思い出し、事の真相に思い至った。あの人の良さそうな旅人が、自分を殺しに来た刺客だった…!? そう気づいた瞬間、全身から血の気が引き、恐怖で顔面蒼白になった。


「あ、あ、危なかったぁ! もしあの時、斬りかかられていたら…!」


内心、心臓が止まるかと思うほどの恐怖と安堵に打ち震える劉備。

だが、そこへ関羽や張飛、陳たちが「何か騒がしいな。」とやってくると、劉備は咳払いを一つ。顔面蒼白だった表情を無理やり引き締め、努めて平静を装い、そして少し得意げに言った。


「ふふん、何を今更。あの者が刺客であることなど、この劉備、とっくにお見通しよ。」


「な、なんですと!?」


目を丸くする陳。


「我が仁徳の前には、いかなる凶刃も、その心を改め、自ら退散するものよ。全て、計算通りというわけだ!」


劉備は、さも当然といった風に、ふんぞり返ってみせる。内心では、まだ冷や汗が止まらなかったが。

関羽は、そんな劉備を見て、やれやれと肩をすくめた。張飛は、「へっ、さすがは大将だ! 度胸が違うぜ!」と面白そうに豪快に笑っている。そして陳は、「おお! さすがは大親分! 刺客さえも徳で退けるとは! これぞ真の英雄でやんす!」と、尊敬の眼差しで劉備を見つめていた。


この一件は、結局、「平原の劉備玄徳は、刺客さえも、その計り知れない仁徳によって退けた。」という、さらに不思議な評判となって広まることになった。


劉備の、どこか掴みどころのない、大物なのかただの幸運な男なのか分からない人物像は、人々にとって、ますます畏敬と興味の対象となっていった。

平原での彼の基盤は、こうして、実力と、人の良さと、そして少なからぬハッタリと幸運によって、固められていくのだった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

前半は創作。そして後半は、ほぼ史実です。

劉備を殺すために刺客が訪れるが、劉備は彼をもてなす。そして刺客は自らの任務を白状して去っていく。

物語以上のことを平気でやってのける。さすが劉備ですよね。


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執筆の一番の励みになります。

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