ソロでゲーム
ー飽きたな。
大きい。見上げる鵜ような巨体にしっぽつき。身長は2メートルはある。緑色の体は外側がうろこに覆われていて内側はごつごつとした筋肉が目立つ。腰に人間の頭蓋骨をつなげたポーチがあって、一見して敵対しているとわかる。手や足は鍛え上げられたボディビルダーよりも太い筋肉で、太い首の先までみると凶悪な面構え。憎悪の目で人間を見ていて、むき出しになった牙が口の端からのぞいてうなり声をあげて片手剣をもって迫ってくるリザードマン。その片手剣をはじいて愛用の剣を胸元に突き刺す。ぎゃっと声をあげて硬直した体はポリゴンとなって崩れ落ちていく。ポリゴンを突き抜けるようにして四つ足をついて突進してくるイノシシ、火をはいてくる蝙蝠、真っ白な体躯に角の生えた馬などなど。真っ白な廊下の奥から無限に敵キャラが沸いてくるのを倒すだけ。ヒットポイントが空になるまで無限にわいてくる敵を倒しましょう!単純なゲームをずっとやってきた。
ヘッドギアを装着して仮想現実の世界に目を輝かせたのは小学生のころ。新鮮な気持ちでこのゲームをやりたくて攻略サイトを見る前に挑戦したら思いのほか怖くて泣いて逃げ回ったっけ。安心安全とは言え平和な日本で暮らしていたわけで。暴力のにおいに心がつぶれそうだった。無様に負けたのが悔しくて再挑戦しますか?と表示されたウィンドウを何度もタップしてチャレンジした。
さっき倒したリザードマン。いくら武器を変えてもポジションを変えても倒せなくて攻略サイトを頼った思い出がある。リザードマンは素早く攻撃できる。補正がかかっていて避けようにも避けられない。剣で切られたら即座に足蹴りをくらい、プレイヤーは転倒。どたばたと殺気みなぎる敵キャラが殺到して袋叩き。周りに怖いモンスターに囲まれて倒されるのはトラウマものだった。それでだ。弱点は剣をはじくと硬直する。その間に顔でも腕でも足でもどこかに攻撃を当ててしまえばいい。
リザードマンの対処を暗記して滅多切りにしてやるぜと意気込んでたらイノシシがやってきて絶望したり、せっかくリザードマンがくるころにはうろ覚えでどうしたらいいのかわからず倒されてしまったり、何度かやられては倒し方を体にしみこませていった。慣れてくるとばっさばっさといろんな組み合わせで敵の弱点をつき、倒していく爽快感。スコアを1桁ずつ伸ばしていくのが楽しみだった。
「でもなあ」
中学の3年間と高校の春までやってたら飽きる。武器を変えてみる、ヒットポイントのゲージを半分にしてみる、素手でやってみる。配信者の縛りプレイをみながらやったりと工夫はした。殴りかかってくる敵にふっと息を吐いてストンと剣を置いてぼけーっと攻撃されるがままにした。ヒットポイントが5割、3割、1割と削られていってゲームオーバー。
「終わりにしよう」
長いこと楽しませてくれたゲームに感謝してログアウトした。