プロローグ
雨の滴る憂鬱な昼時。
街を行き交う人々は色とりどりの傘を指していて、ざあざあと音を立てては水たまりに雨粒を落としていった。
信号が赤になり、人の流れがぴたりと止まった。
どこかで水が薄暗い路地の排水口にぽちゃん、と落ちた。
まるで、こちらに進むのを誘うかのように。
信号が変わり、再び人々が動き出せばその路地は息を潜める。
何事もなかったのかのように、私は薄暗い路地です。とでも主張してるつもりだろうか。
街の雑踏はしばらくすると学生で溢れてきた。
その頃にはすでに雨も上がり、夕日と星空が混じっているような状態だった。
ふと、その路地の横を女子高校生が通りかかった。
「ねぇねぇ知ってる?こんな噂。この街の何処かに、願いを叶えてくれる宝石屋さんがあるんだって」
一人の女子高校生が内緒話のように友人に話しかける。
「多分迷信でしょ。そんなの。あってもパワーストーンくらいなんじゃない?」
呆れたようにもう一人の友人は返した。
その目の前を大型トラックが通り過ぎていく。
先程の雨で出来た水たまりが、大きく飛沫を飛ばした。
「うわ、最悪…制服濡れたんだけど…早く行こ」
そう言って女子高校生は友人の手を引いて強引にゲームセンターの中に入っていった。
友人の方は、
「え、ちょっと待ってよ」と焦りながらも騒がしい女子高校生にゲームセンターに引きずり込まれていった。
さて、信じるか信じないかは別として、
確かに「願いを叶えてくれる」という宝石屋の噂は実在する。
しかし、対価として何か大切なものを失ったり自分の人生に大きな影響を与えてしまったりという噂が絶えない。
しかも店主は魔女だとか、それを知るには実際に遭遇してみるしか方法は無いのだとか。
だがしかしはっきりと言えることは、
【宝石を手に入れた持ち主の運命は欲によって左右される】ということだ。
強い願いであればあるほど宝石はその力に呼応して能力を発揮する。
その能力は実に巨大で人知を超えた存在であり、最悪死に至るとまでされている。
まあ、欲望に任せていれば何時しか最悪のパターンが起きるということである。
「ま、あくまで噂ってところなんだけどね、エーテル」
薄暗い何処かの小屋で、青年が黒猫に声をかけた。
瓶が所狭しと並べられていて、中には多くの宝石が詰まっている。
大釜の中には何処かの植物、燃えているのは緑色の火。
いかにも魔女というようなロープを着た彼は、何かを調合していた。
彼にエーテル、と呼ばれた黒猫は、にゃおん、と鳴いて青年に頬を擦り寄せた。
“月夜の晩。不思議な魔女に声をかけられても。着いていったらいけないよ。どれだけ綺麗な宝石があっても”