1
新しく始めたゲームがある。
ありきたりな、素材を集めたり、モンスターを倒したりといったもので、これといって奇をてらったものではなく、まぁ一定数、のめり込んでやりこむ人たちはいるだろうなといった王道のものだ。
そのゲームをアルバイトや大学の時間以外はずっとやっている。
理由は至極簡単で。
だけどきっと誰もが共感出来ることではない。
そう、
―――ゲーム内で気なる人ができたのだ。
ことの起こりは、いつものように新発売のゲームを販売初日にDL版で購入し、ゲーム配信開始時刻、深夜0時ぴったりに始めたことから遡る。
このゲームはオンラインでリア友同士で遊ぶこともできるし、ゲーム内でできたフレンドと共にモンスターを倒すこともできる、いわゆるMMORPGといった種類のゲームに名前を連ねている。
PCゲーを昔からやりこんでいる自分にとっては、いつものように淡々とゲームを進めていた。
そのうち、クエストの中でどう考えても1人ではクリアできないものがあり、ゲーム内掲示板でメンバーを集ったのだ。
**********
エンペラーオーガのメンバー求む
VCなし希望
Lv20前後希望
少人数でのクリアが理想のため、希望レベルは高いです。
**********
時刻は4時を示しており、集まらなかったらやめようかといったような気持ちでいた。
レベル帯もゲーム配信開始からこの時間までやってる人ではないと到達しないような、若干の意地の悪い募集になっていた。
装備や消耗品といったものを補充してしばらく、
ゲーム内チャットにメッセージが送られてきた。
ーLv19、VCなし、若干レベル足りないですが参加希望です。
まあ、それくらいあれば十分だろうと偉そうなことを考え、問題ない旨返答を返した。
結果としてそれが現在のこの状況のもとである、Tsumugiとの出会いだった。
TsumugiもかなりPCゲーに親しんでいるようで、キャラコンも何もが慣れている雰囲気を感じさせた。
クエストを通じ、VCなしでの連携がかなりやりやすく楽しいものだったため、自分からフレンド申請をしそこからちょくちょくTsumugiを誘ってマルチ用のクエストをこなすようになっていった。
回数をこなすうち、チャット欄でのやり取りも気安いものになりお互いのプライベートも若干共有するようになっていた。
気のおけないフレンドができたことで、自然と自分の中でそのゲームをやる順位も上がり、共有する時間が増えるうち段々とTumugi本人についても気になるようになっていった。
そして順当に、オフで1度会って話がしてみたいと思うようになり、顔も声も知らない人間からそんなこと誘われても気持ち悪いだけだろうと思い諦める、そういったルーティンが続いていた。
「最近どうした?」
ふたり暮らしをしている兄からそう聞かれるぐらい悶々と悩んでいたようだ。
今日は2人ともバイトも大学もないため昼ご飯を一緒に囲んでいる。
茶碗から米を口へ運ぶのを一旦やめ、喋る。
「…いや、なんか、言いづらいんだけど、気になる人ができて、」
兄弟仲は悪くない、喧嘩もあまりしないし、相談ごとがあれば一番の候補に上がるぐらいには仲がいいと思っている。
そうでなければふたり暮らしもしないだろう。
これはきっとちょうどいいタイミングだと思った。
今回に限っては、大学の友人に相談するよりは兄が最適だ。
思い切って持ちかけてみる。
「はぁ、…今やってるゲームのフレンドがすごい気になって、オフでも会ってみたいなって思ってるんだけど、VCなしでやってるし、そんな俺から誘っても気持ち悪いだけかな、と思って悩んでる。」
リビングでテーブルを挟んで反対側に座っている兄は、1度食事の手を止めて飲み物を飲む。
「なるほど、流からそんな話初めてされてお兄ちゃんすっごい驚いてる。」
「まぁ、確かに、…初めてかも。
コミュ力お化けのそんな涼さんから何かアドバイスありますか?」
互いに食事を再開させながら、会話を続けていく。
「まぁ、俺だったらとりあえずVCありで一回喋りません?とか相手が不快に思わない程度から始めていくかなぁ。ぶっちゃけ今誘ってみるのもありだと思うし。」
「いや、現状誘うのは俺だったらすぐ断るよ。そしてフレンド登録解除する。」
「相変わらず極端だなお前…
んじゃあ、VCありから始めてみれば?
相手に断られても自分はつけてればいいじゃん。
少しは好感持ってくれるでしょ」
「…そうか、会ってもいいって思うくらい好感度あげるのか、なるほど。」
兄はこちらを子猫がボールにじゃれているのをみるように微笑んでいる。
「その顔やめてください。大男が大男を見てる顔じゃない。」
「ふふ、はいはい、頑張ってね」
兄という存在はどうもくすぐったい。
兄のアドバイスを受けて自分なりに考えた結果、やっぱり先にVCありでゲームをしてみようと思った。
自分もまだ誘う勇気もでないので、相手がどう思うかを確認するにはとてもいい方法なんじゃないかと兄の部屋の方向へ合掌。
大変助かります。
明日は大学もバイトもない。夜更かしし放題。深夜帯でやっていれば遭遇するかなとPCの電源を入れた。
ゲーム内装備を集めるために少しレベル帯を落として作業ゲーでモンスターを倒していたとき。
―Tsumugiさんがログインしました。
待ちかねたログイン通知。
心臓がドクドクと打ちマウスを握る手から冷や汗が止まらない。
すごい緊張する。
いや、でもチャンスは自分で作るもの。
――
深呼吸を一つ。
普段通りにクエストに誘う、それだけ。
―あ、Tsumugiさん、こんばんは
ちょっと今素材集めてて、空いてたら一緒にやりません?
変な部分がないか何回も確認してメッセージを送る。
すると、すぐに返信通知。
やばい、心臓が…
―こんばんはー、全然おkです
息抜きなのでレベ帯低めでも良いです?
これは、ちょうどいいのでは?!
―今1人で延々と素材集めてただけなのでどこでも大丈夫です
…あと、ちょっと今日自分VCありでやろうかなと思ってて、
自分が一方的にVCつけるだけなので、うるさいとかあればやめますんで…
必死すぎて、長文になってしまったメッセージをええいままよと送信。
ずっと心臓ドクドクしてる、うわー緊張やばい。
心臓のあたりを右手の握り拳で叩く。
あー、打ってしまった。涼、後戻りできないぞ。
断られたら終わりだ、Tsumugiさん一緒にやってくれなかったらどうしよう。もう繋がりがこれしかないのに。やばいやばいやばい、ピロン
―私はVCつけれないですが、うるさいとかはないので大丈夫です。
神様仏様流様!!
頭に血がカッとのぼり、視界が若干赤みがかる。
座っている椅子の背もたれに思い切り重心を預けだらしなく寄りかかる。
よかった。これで一歩踏み出せた。
自分の状況が伝わらないよう、極めて冷静に取り繕う。
―ありがとうございます、いつもの場所で落ち合いましょう。
心が荒んだときに読みたい自家発電小説、、にしたい。