エピローグ 紗央莉は愛を叫んだ
「おはよう!」
遂に迎えた政志の誕生日。
登校した私は元気よく教室の扉を開けた。
「おはよう紗央莉、凄い気合いね」
「まあ当然か、いよいよだもんね」
私の様子を見た友人達が笑う。
今日は政志に告白する事をみんな知っているのだ。
「結果は連絡するね」
「どうせ分かってるけど」
「これでダメならウケる」
「そしたら次は私の番」
「...あのな」
口さがない奴等だ、私の友達じゃないのか?
でも政志はモテるから、この反応は当然だ。
私だって、この前まで彼女達と同じだった訳だし。
それだけに失敗は許されない、これでダメなら私は立ち直れないよ、
「まあ頑張ってね、史佳はもう居ないんだから」
「...そうね」
教室にポツンと置かれた史佳の机。
4日前から、また史佳は学校を休んでいる。
今回は1ヶ月前の欠席と明らかに違う。
連絡が取れないのは前回と同じだが、今回は先生からの説明が全く無い。
周りが何を聞いても先生は、
『事情があってな』としか言わないが、その理由を私は知ってる。
栞から聞いた話だと、バカは史佳を妊娠させてしまい、その事が親にバレてしまったそうだ。
そして隆太は高校を退学になり、史佳は遠い親戚の元に預けられる事になった。
お腹の子供はどうなったのか分からない。
二人に明るい未来は無い事だけは確か。
史佳の自業自得と割りきれない物も感じた。
「今頃になって山内君と別れた事、後悔してるんじゃない?」
「それな」
何も知らない周りが好き勝手言ってる。
1ヶ月前に公園でバカ達の醜態を見せつけられた、翌日学校で史佳は私に言った。
『政志と別れるわ、後は政志と幸せにね』
わざわざ学校で言う意味が分からなかった。
そんな事しなくても、政志は史佳にお別れのラインを送っていたのだから。
『史佳、どういう事?』
当然だが、史佳は周りから質問攻めにあった。
また嘘を吐いて、私を悪人にするつもりでは、そう身構えた。
『...隆太とやり直すの』
『隆太って誰?』
『私の元カレ...』
『いやアンタ、山内君が初めての彼氏だって...』
あの時は驚いた。
史佳の頭は大丈夫かと本気で心配したものだ。
『うん...実は中学時代に...』
そのまま酔いしれた様に史佳が語り出し、みんなドン引き。
そして史佳の周りから友人が消えた、仕方ない。
「紗央莉、帰るぞ」
「はーい」
学校が終わり、私の教室まで政志が来てくれた。
さあ勝負の時だ。
今日が平日なのは痛い、制服だし、化粧も殆どしてない。
「ファイト...」
「...ありがとう」
小さな声援に送られ、教室を出る。
政志にも聞こえている筈だが、気づかない振りをしていた。
二人並んで下校する。
このまま私の自宅に行き、そこで政志にプレゼントを渡す。
因みに現在家に誰も居ない、夜まで二人っきりだ。
「さあ上がって」
「おじゃまします」
久しぶりに政志を上げた気がする。
中学時代はお互いの家を行き来して、一緒に受験勉強してたから。
「入って」
「ありがとう」
私の部屋に政志を案内する。
三日前から念入りに部屋の掃除をしたからピカピカだ。
「そこに座ってて、今コーヒーを淹れて来るから」
「そんな、いいのに」
「いいから」
遠慮する政志だけど、今日の為にコーヒー豆も買った。
何度も練習した通りミルで豆を挽き、ポットにお湯を注いだ。
「お待たせ」
「良い匂いだ」
漂うコーヒーの薫りに嬉しそうな政志。
昔から好きだったもんね。
「改めて、お誕生日おめでとう」
「ありがとう紗央莉」
包装紙にラッピングされたプレゼントを渡す。
これも練習したんだ、皺が出来ない様、何度もね。
「開けても?」
「もちろんよ」
政志は丁寧に包装紙を開ける。
几帳面な政志は紙を破る事なく、綺麗に中身を取り出した。
「これは...」
「ゲーミングマウスよ」
箱を見た政志に微笑む。
どうかな?喜んでくれるよね?
「ほら色違いだよ」
ついでに購入した自分用のゲーミングマウスを政志に見せる。
私が赤色で政志のは黒色なの。
「こんな...高いのを」
「良いのよ、この日の為にバイトして来たんだから」
「...そうだったのか」
どうやら気にいってくれたみたい。
「それじゃ俺からも」
「え?」
政志は自分の鞄から小さな箱を取り出した。
何が入ってるのかな?
「開けてもいい?」
「もちろん」
政志から受け取った箱も丁寧に包装紙で包まれている。
細心の注意を払い、中身を取り出す。
「え、これは?」
「ゲームパッドだよ、格闘ゲームにはコントローラータイプの方が良いだろ?」
「あ...ありがとう、でも高いんじゃ」
まさかのプレゼント、受け取って良いのだろうか?
「紗央莉からのプレゼントの方が高いよ、俺のは1ヶ月のバイト代で充分買えたんだから」
政志のバイト代?
「ひょっとして政志はこれを買うためにバイトを...」
「紗央莉...ありがとう」
「え?政志?あの...」
握られる政志の手、突然の事に頭が追いつかない。
「紗央莉が居なかったら、こんなに早く立ち直れなかった」
「政志...」
「俺の目は節穴だった、気持ちが無い奴に必死で、本当にバカみたいだった」
史佳の事か。
「わ...私じゃダメ?」
勇気を振り絞れ!頑張って私!!
「ず...ずっ...」
ずっと好き!
喉まで出掛かった言葉が声にならない。
「昔の男に奪われてしまうような、情けない俺だけど...」
「そんな事無いわ!」
どうして?なぜそんな事をい言うの?
「政志は情けなく無いよ、あれは史佳が悪いんだ!」
「...そうか」
「だって政志は凄いんだよ?
一緒に居て楽しいし、優しくって、私は...私はずっと...」
力を込め政志を見る。
しっかり見て、嘘偽りの無い本当の私を。
「政志が好き!ずっと好き!」
政志を抱き締める。
体裁なんか構うもんか、この一瞬が私の全てなのだ。
「い...良いのか?」
「うん...」
震える政志の腕が私の背中に触れた。
「...私に隠さないといけない過去は無い」
当たり前だけど、言わずにいられない。
「知ってるさ...ずっと一緒だったから」
「だから...」
政志の腕が徐々に私の身体を包み込んで行く。
「俺は...」
政志はなにかを吹っ切るように呟く。
「紗央莉はずっと高嶺の花で...俺は意気地無しで...いつしか諦めてた、だから俺は史佳と...」
そんな事を政志は...
「私も一緒よ。
素直になれなくって、史佳に奪われて苦しんでさ...」
...史佳の失敗があったから、今があるのね。
あの時、史佳は隆太に呼び出されても、行ってなければ、今も政志と付き合っていただろう。
きっと私は絶望して...でも今は違う、幸せは目前なんだ。
「...愛してる」
「紗央莉...」
「もう待ったりしない、私は政志を愛してる!」
「紗央莉!!」
叫びと共に政志の腕が私を激しく抱き締めた。
「ずっと一緒に...」
「ええ...一緒よ」
溜めに溜めた、10年分の想いを乗せ、飽きる事なく抱き締め合う。
感情の爆発、世界が幸せに染まって行く。
簡単に結ばれていたなら、ここまでの多幸感は得られなかっただろう。
『...ありがとう、待ってた甲斐があったわ』
最後に感謝した。
ありがとうございました。