紗央莉は遭遇した
話をした翌日から史佳は再び学校に戻って来た。
しかし史佳は休んでいた理由を体調不良とみんなに話し、結局何も変わらないまま更に1週間が過ぎた。
史佳は明らかに私を避けている。
政志に暴露されるのを怖れているのだろう、本当に愚かだ。
お陰で私は遠慮なく、政志と触れ合う時間が増えたから良しとしよう。
「おまたせ」
「紗央莉お疲れ、さあ行くか」
朝からの休日バイトが終わり、迎えに来てくれた政志。
今から私達はパソコンショップへゲーミングマウスを見に行く。
予算は2万円、政志に内緒だけど来月の誕生日プレゼントにするつもりだ。
そして私は政志に...
「どうした?」
「ううん、だいぶん涼しくなったね」
いけない、いけない。
想像しただけで顔が綻んでしまう、まだ完全に勝算が立った訳じゃないのに。
「もう10月だしな、だいぶん仕事も楽になったろ?」
「そうね、夏場の牛丼屋キッチンは結構暑かったから」
「大変だったな」
「お金を稼ぐ為よ」
政志と軽い話をしながら駅に向かう。
私がバイトを始めたのは政志にプレゼントを贈る為だった。
しかし、史佳という存在に政志を奪われてしまった。
あの時は悲しくて、失意のどん底まで落ちたけど、今ようやく希望の光が差している。
後少しの我慢、もうちょっとよ。
「ところで、新聞配達はどう、眠たくならない?」
政志は先週から新聞配達のアルバイトを始めた。
夜遅くまで、毎日オンラインゲームしてるのに身体は大丈夫なのかな?
「朝刊だけだし、終わったら一時間の仮眠もしてるから平気だ」
「私には無理よ、毎朝3時なんか起きられないわ」
低血圧の私には信じられない話。
それにしても、政志はどうして急にバイトを始めたのか、聞いても教えてくれなかった。
「これなんかどうだ?」
到着したショップには沢山のマウスが展示されている。
私達はモニターに繋がれているサンプルで操作性を試す。
照準の動き、ボタンの硬さ、自分の手に合った物を探した。
「良いわ、ワイヤレスだから扱いが楽ね」
「なかなかシャープな反応だし、これが良いな」
「そうね、私もこれが良いわ」
お気に入りが決まった。
当然だけど今日は買わない、後日政志に内緒で注文する。
「さて帰るか」
「うん、何か食べて帰りましょ」
「牛丼が食べたいな」
「パス!」
なんて幸せなの?
これが本当のデートなら最高なのに。
途中ファミレスで遅めの昼食を取り、私達は家路に着く。
本当に楽しい時間はアッという間に過ぎてしまう。
「...政志」
公園を歩く私達の後ろから聞き覚えのある声が。
「史佳?」
「どうしたの史佳?」
史佳は目が虚ろで、髪型も少し乱れている。
「何よ...なんで紗央莉とデートしてるの?」
「いやデートじゃないけど」
「そうよ、今日はパソコンショップにマウスを見に行ってたの」
残念だけどね。
「同じ事じゃない!」
大声で史佳が叫んだ。
「紗央莉は政志の事が好きなんだよ?
それを分かってて出掛けるなんて、浮気にしか見えないわ!」
あんたがそれを言う?
「確かに紗央莉の気持ちは知ってる、だけど俺に関係を迫ったりしないぜ。
俺も節度は持っているつもりだ」
分かってるね、本当は迫りたいんだよ。
「浮気にしないでくれ、紗央莉に失礼だろ」
「政志にも失礼よ」
下心があるのは否定しないけど。
「そんな事言っても、騙されないわ。
それなら紗央莉と距離を置いてよ」
「あのね...」
なんで、史佳にそんな事言われないといけないの?
「信用無いんだな。
史佳がそれを望むのなら考えるよ」
「...そんな」
政志...それはあんまりだよ。
「そうね、私は政志の恋人じゃないし...寂しいけど」
我慢だ、慣れてる筈よ。
「たが史佳、俺からも聞きたい事がある」
「な...何?」
「お前こそ最近変だぞ?
学校を休んでる間、全然連絡も着かなかったし」
「そ...それは身体の具合が悪くて」
「ラインくらい出来ただろ?」
「...う」
政志の追及に史佳は黙り込む。
当然助けるつもりなんか無い、史佳はこうなるのを予想しなかったのか?
「...今日は言いたい事が」
「言いたい事?」
「私も居ていい?」
史佳がチラチラ私を見る、また嘘を吐く可能性がある。
「紗央莉は遠慮してよ」
「いや、紗央莉も一緒に聞いてくれ」
「...どうして?...私と政志の事でしょ?」
狼狽え振りを見るに、やっぱり史佳は信用出来ないな。
「おい史佳」
今度は史佳の後ろから一人の男が現れた。
なんとまあ...
「どうして?なぜなの?」
史佳は口をパクパクさせている、待ち合わせしてた訳じゃないのね。
「悪いが後を追けさせて貰った」
「なんでそんな事を...」
史佳の家からか、思ったより史佳に執着していたんだなコイツ。
「あなたは?」
「俺は廖慈高校サッカー部の下里隆太だ」
なんでわざわざ学校名と所属クラブまで名乗る?
やっぱり下里は理解不能だ。
「廖慈高校?」
「ああ、お前が山内政志だな」
「そうですけど?」
「早速だが、史佳と別れてくれ」
「は?」
全く空気を読まない下里。
政志は呆気に取られてるじゃないか。
「ち、ちょっと隆太...何を急に」
「史佳どういう事だ?」
「いや、その...待って、これはその...」
史佳はしどろもどろで政志を見る。
一体史佳はどう下里に説明したのか、想像が着かないよ。
「お前が居ると史佳が俺の元に戻って来られないんだ」
「戻る?」
「政志...その、つまり...」
「言ってやれよ、俺は史佳の恋人だって」
「恋人?」
「違う!私の恋人は政志よ!!」
これはカオスだ、なんだか訳が分からない。
「俺達は愛し合ってたんだ!
お前が史佳と会う前からずっとな!!」
「...そうなのか?」
「む...昔の事よ!」
「...お前...俺が初めての恋人だって」
「ち...違うんだって!!」
「何が違うんだ?」
次々自爆をする史佳。
早くしないから下里は痺れを切らしたのか?
どうでもいいけど。
「確かに今は俺と史佳は付き合って無い」
「へえ...」
「黙ってろ!」
なんで怒鳴る?
政志は相槌を打っただけじゃないか。
「今は聞きましょ」
「分かった」
バカの高説を聞こうじゃない。
「...俺は過ちで史佳を傷つけてしまった、だけど気がついたんだ。
いかに史佳が大切な人だという事にな!」
「へえ...」
「ふーん」
アホだ、コイツ本当にアホだ。
「だから史佳...俺は...」
「...隆太...」
...更にアホが居た。
史佳、お前は救いようが無い、どうして熱い目で下里を見つめるんだ?
「行こ、政志」
「だな、お幸せに」
バカらしい。
見つめ合う二人を残し、私達は公園を後にした。