第四話
「A Spring Proposer」通称「あすぷり」は、私が前世でハマっていた乙女ゲームである。私は昔からイケメンが好きだった。そしてそれは2次元、3次元と次元を問わなかったので、イケメンがたくさん出てくる「乙女ゲーム」という存在に沼らないはずがなかった。
そして、私が一番気に入っていたのが、この「あすぷり」だった。
あすぷりは、中世ヨーロッパを基調とした、魔法が使える世界という設定になっている。
この世界には、炎、水、風、土、雷、そして光の全6種類の属性があり、人口のほとんどが魔法を使える。といっても、平民は僅かな魔力量しかなく、日常で火をおこしたり手を洗ったりといった、いわゆる「日常魔法」しか使えない者が殆どである。
魔力量というのは、産まれたときから決まっている。よって、成長してから魔力量が増加する人間はほぼいない。
では何故「いない」と断言できないのか。
それは、ごく稀に15、6歳ほどで「光」の魔力を発現させる人間ー聖女、又は聖人と呼ばれたーがいるからである。
光魔法は、人の外傷を治癒することができる。その特質故に、それを持つ者たちは「聖女」「聖人」と呼ばれ民に尊ばれてきた。
ゲーム内でヒロインは、14歳のときに突如光魔法が花開き、庶民でありながらも特待生として王立学園への入学を果たす。そこで彼女は攻略対象に会うのだ。
攻略対象は全部で6人。
王道、第二王子レイアス・ド・ルチオール。
悪役令嬢の義弟、オスカー・バートランド。
色気満載の先輩、ルイス・デミトリア。
悪役令嬢の護衛騎士、クロス・ヴァーベナ。
悪役令嬢の幼馴染、シルヴァン・ルキリエ。
ところで、攻略対象にはある共通点がある。
その共通点とは、ある1人を除き、何らかの闇、というか負い目もしくは引け目を抱えているということだ。ヒロインは学園入学後、攻略対象たちの心の闇を取り払い、攻略対象もといイケメンども、いやイケメンな方々と恋愛をする、というようなストーリーだ。
あーイケメンに「ども」とか言っちゃったぁ!いや、ね?イケメンは好きです。好きですよ?でも、ねぇ。流石に自分が悪役令嬢かもしれないってのに、んな攻略対象にやすやす近づけるような強メンタルでもねえんだ……。そしてたとえイケメンでもあんまいい感情を持てねえんだ……。
と、少し苦しい言い訳をしてしまったのだが、私は多分、というか大方あすぷりに出てくる悪役令嬢、フェリシア・バートランドだ。見た目こそあまり似ていないけど。
ゲーム内では、シュッとシャープなつり目に縦ロールという、いかにもな感じだった。でも、目はつり目、というよりはぱっちりした猫目だし、髪もストレートだ。どっちかって言うと、綺麗より可愛い系統?成長したら変わるんだろうか。
とにかく、こんな絶世の美貌を持ち、公爵家の1人娘ということで、幼い頃から蝶よ花よと育てられてきた彼女(私と言った方が正しいのだろうか?)は、「邪知暴虐」「極悪非道」のような最低最悪の四字熟語が似合う、そんな女性だ。
ゲーム内で彼女は、平民上がりのヒロインを気に食わないやつだとして、徹底的に苛め抜いた。しかしそれは攻略対象たちによって妨げられうまくいかなくなったので、彼女は別の手段でヒロインを追い込もうとする。
それが、「噓の噂を吹聴する」ということだ。しかも、この苦肉の策も、最初の内はうまくいっているように見えたが、実は攻略対象により仕掛けられた罠だった。彼女を泳がせておくことによって、ヒロインがフェリシアに苛められているという証拠を握り、断罪するための材料を集めていたのだ。
そうして、悪役令嬢フェリシア・バートランドは、卒業パーティーにて断罪される。
そして、プレイヤーが「第二王子レイアス」ルートをプレイ中の場合獄中死、その他のルートでは公爵家から廃摘され最果ての国の修道院に向かう途中で何者かに襲われ死亡する。
うわぁ、こっわ!!
ゲームだからこそ「うぇーいざまぁww」とか言えていたが、自分がそうとなると話は別なのだ。嫌だぁ!まだ死にたくないっ!私は、明確な使命を持ってこの世界に転生したんだから。
そう、今生では絶対に嘘を吐かずに生きる。これが、果たして今までに傷付けた人たちへの贖罪になるかは分からないけれど。だからこそ多分、ベネディクトさんも「嘘の噂を吹聴して人を傷付けたことで処刑されたフェリシア」に転生させたんだろう。
その為に。まずはフェリシアが、いや、私が生き残れる方法を考えよう。
階段を上る音が聞こえてきた。もうすぐ家族か誰かが来る。
ー戦いの、始まりだ。ー
これからも不定期になってしまいますが、何卒よろしくお願いします!!ブクマ、高評価は本当に励みになります!
いつもありがとうございます!