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幸せのパン屋さん

作者: 黒沢敏行

私が普段、通勤に使っている商店街。

そこに気になるパン屋さんがある。

帰り道、いつもその店の前を通るが

この匂いを嗅ぐと仕事が終わって帰ってきたのだなと思う。

だが一度も入ったことがない。

何年やっているのかも、どんな人がやっているのかも知らない。

私がこの街に来て3年。

わかっていることは定休日は火曜日ということくらいだ。


私はこの街の人間ではない。

短大を卒業し始めての一人暮らし。

今日から社会人としてやっていけるのだろうかという不安と、ついに社会人になったという高揚感に溢れながらこの街にやってきた。

しかし、現実は厳しかった。

社会人1年目の新人として、頑張ろうと意気込んだが初日から研修もなく上司からはねちっこく威張られ、頭のおかしい客のクレームに耐えたのだ。

もう辞めよう。

初日にしてそう考えるほどの何かがこの会社にはあった。

泣きながら帰る私は

はたから見れば彼氏に振られたOLだろう。

目には涙が流れどこを歩いているのか、周りの視線も音も何もかも感じることができないでいた。

そのときである。

焼きたてのパンの匂いだ!

今まで泣いていたのを忘れるほどの良い香り。

2階建の小さなパン屋さんに私は人生を救われたのだと思った。

すぐにでもパンを食べたいと思った。

熱々の焼き立てのパンを、食せるのであれば私はもう何もいらない。

今にして思えば思い立ったそのときに店の中に入ればよかったものを小心者の私は入れないでいた。

店の前で中を覗くことも出来ない私は通り過ぎてしまった。

そうこうして3年が経つ。

帰り道この匂いを嗅げるだけで私は幸せなのだ。

一度も店に行けていないのが悔やまれるが。

きっとこのパン屋さんは常連がたくさんいるのだろう。

この商店街、街の一員としてこのパン屋さんは必要不可欠な存在だろう。

私のようなこの街に来て3年の新参者は受け付けられないと思われるかもしれない。

私もいつかこの街に馴染めば店に行こうと思う。

そして心の中で店主に私を救ってくれてありがとうと言おう。

このパン屋があったから私はここまで社会人として頑張ってこれた。


そして、今日もお疲れ様!私!明日も頑張ってね!


帰り道をるんるんと歩く。

私が一番嫌な曜日。

それはこのパン屋さんの定休日の火曜だ。

普段は帰ってきたと匂いでわかるのだが

火曜日はその匂いがないため帰ることができない迷子の少女のような感覚に陥ってしまう。

やはり今日は定休日でシャッターが閉まっている。

シャッターには張り紙が一枚。

「諸事情により本日7/27をもって閉店致します。」

なぜ潰れてしまったのですか?

なぜ突然こんな中途半端な日に?

誰か知りませんか?

途中、パン屋をパチンコ屋にしたかったけど無理でした。

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