第8話 ダンジョンって一人でクリアしたらダメだった。
「フゥ〜、お腹いっぱいだよ。」
人通りも多くなってきた、日の沈みきった夜の街。
慣れない街ではあるが、今日1日歩き回ったおかげでかなり土地勘がつかめてきた。
子供たちとそのお母さんに歓迎され、美味しい夜ご飯をご馳走になってしまった。
お土産に、ふわふわのパンもいただいてしまったし………。
申し訳ない、というと、女性はこう言った。
『こんなにたくさんの子供たちの命には、このほんの少しの食料には変えられないんだよ。』
なんて素敵な考え方だろうと思い、おとなしく受け取って帰ってきたのだ。
帰るときには子供たちにすごく名残惜しそうに服を掴まれたし………
とある1つの酒場の前に着いた時、大きな声が聞こえた。
「大変だよ、大変だよ!号外、号が〜い!」
先日見たばかりの新聞売りの少年である。
酒場の酔っ払ったおっちゃんたちが、次々とそれを買って行く。
俺は金を持っていないので変えず、ぼうっと突っ立っていた。
すると、酔っ払いの一人が叫んだ。
「ありゃ、こないだのダンジョンクリアしたの、一人なんけ!?」
そして、俺も叫んだ。
「え、ダンジョンって、一人でクリアしちゃダメなの!?」
その叫びに、話に花を咲かせていたみんなが、一斉にこっちを向いた。
「お兄ちゃん、もしかして勇者様かい?」
そう聞かれて、俺は慌てて答えた。
「いや、そうじゃなくて、俺、いつか冒険者になりたくて、で、あの、でもあの、一人でダンジョンはクリアしちゃダメだってわかって、焦って………」
「そんなことも知らずに冒険者になろうとしてたってか?そりゃああれだ、ダンジョンはな、一人じゃ、クリアできないんだよ。」
「そうそう。一人でなんてしたら、ダンジョンの中で迷子になって最後にゃ魔物の餌だ。」
そうなんだ………
じゃあ、あのダンジョン(らしきもの)を、一人で出てきたってことは、人に言わないほうがいいのか?
瞬時にそう判断した俺は、おっちゃんたちの愛想のいい笑みを振りまき、
「ありがとうございました。」
と会話をぶった切ると、そのまま一目散に宿へ走った。
おっちゃんたちは酔っ払ってるから、印象にはさして残らない!
大丈夫大丈夫、俺は一般人だ。
ほら、早く帰ろう。
頭の中で『自分は大丈夫』を繰り返しながら、ひたすら走る。
日本で帰宅ダッシュ生活を送っていたせいか、体力だけはある。
しかし息は上がる。
泊めていただいているところに着くと、女の人が外にいた。
「あら!遅かったわね、心配してたのよ。」
俺とは会って間もないのに、俺に怪我がないことを確認して、ホッとしている。
「心配してくれてありがとうございます。とある人の、いなくなったお子さんを探していたんです。」
「あら。それは………疲れたでしょう。ご飯は?」
「それが………」
見つけたお礼に、そちらのお宅でいただいたのだ、と言うと、
「あらよかった!この街に馴染めて行っているわね。」
と嬉しそう。
いい人だなぁ。
まぁ、見ず知らずの俺を泊めてくれるような人だから、いい人じゃないはずもないのだが。
「はい。」
「それじゃ、お風呂に入っていらっしゃい。用意はしてあるからね。」
「あ、これ、そのお宅でもらったパンなんです。」
「あらわたしがいただいていいの?」
「はい、泊めていただいているお礼です。足りませんが………」
「そんなのいいのよ。でもありがとう!」
お姉さんの微笑みに、俺も微笑み返した。
そしてお姉さんに言われた通り、お風呂に入る。
木の浴槽で、シャワーではなく湧き水みたいなものを桶に汲んで、体にかける、という感じだ。
ちなみに石鹸はあった。
いい香りがした。
お風呂から出ると、新しい服が置いてあった。
清潔感のあるシャツに、こげ茶のズボン。
ちなみに、シャツの上の方は編み上げられている。
後、毛糸の靴下も置いてあった。
あったかい。
出てすぐに、女の人に会った。
こうもずっと女の人って呼んでいるのもアレなので、聞いてみる。
「あの………」
「?」
「お名前お伺いしてもいいですか?」
「あぁそっか!まだ聞いてなかったものね。ごめんなさい。」
女の人はそう言うと、一歩後ろに下がって、服の裾をつまみ、優雅に礼をした。
まるでお嬢様のようである。
「わたしはフェマ。どうぞよろしく。ええと、あなたは………?あなたの名前もまだ聞いてなかったわね。」
「俺は凪和って言います。」
「なるほどね。いい名前じゃない。さ、もう夜も遅いのだから、お眠りなさい。ベッドメイキングは済んでいるからね。」
そう言われて二階に向かうと、確かに、清潔なシーツの敷かれたベッドがあった。
心の中でお礼を言いながら、横になる。
思いの外疲れていたのか、すぐに眠ってしまった。
次の日。
まだ日が昇ってすぐ、というくらいの………そう、日本時間で言う所の、7時半くらいの時間帯。
あくびをしながら髪を整えて、一階に降りる。
すると、男の人数人と、フェマさんの声が聞こえた。
柱の陰に隠れて、耳をそばだてると………
「………により、この顔の男が勇者であるとのことで………」
「その子を見つけたら、通報しろ、とのお話ですか?」
「いえ、この家に、この男が入ってくるとの話を聞いたので………」
男の人が持っているであろう写真は見えないが、多分、その『男』は多分俺だ。
俺は音を立てないようにしながら、男の人の死角を利用して、できるだけ近づいた。
わら半紙らしきものに印刷されているのは、俺がダンジョンで例のモンスターと戦っている時の必死の形相である。
やっぱり俺かよ。
そして、もっとマシな写真はなかったのかよ。
フェマさんは、男の人たちに向かって、しっかりと、
「いいえ、知りませんけど………第一うちはわたし一人暮らしですから。あ、人に貸し出したりはしますけど、いまは誰もいませんよ。」
笑って答えるフェマさんに、男の人たちも口調を和らげて、
「そうですか、ご協力ありがとうございます。」
と言った。
男の人たちが行って、扉を閉めると、フェマさんはため息をついた。
俺は男の人たちがいなくなったのを確認してから、四つん這いでフェマさんの方へ向かった。
「大丈夫ですか?」
「えぇ。だって何もされてないんだもの。ただ聞かれただけよ。大丈夫。でも、いつまでたってもあの人たち怖いから、慣れないわぁ。」
と、お茶目に言う。
「そうですか………」
「というか凪和くん。君、何をしたの?王室に指名手配されるだなんて。『勇者』ってあの人たちは言っていたけれど。」
「俺も何が何だかわかりません。」
「そうよね。うーん、どうしたらいいのかしら。
………でも多分、ここは警戒されているわ。本当は泊めておいてあげたいけれど………もしかしたら、ほかの所に行ったほうがいいかもしれないわ。」
「そうですよね。」
俺は正座すると、フェマさんに頭を下げた。
「今までありがとうございました。こんな所、来たのが初めてだったので、どうしたらいいかわからず。助かりました、本当に。近いうちに恩返しさせてもらいに伺いますので、待っていてください。」
「ふふ………どういたしまして。恩返し、待っているわ。」
フェマさんはそう言うと立ち上がって、裏口を案内してくれた。
黒いフード付きのローブをくれて、裏口から顔を出して、
「それじゃあね。気をつけるのよ。あの人たち、あなたを悪いことでは捕まえようとしていないから、もし捕まりそうになったら、抵抗しない方がいいわ。」
とのアドバイスをくれた。
俺は深々と頭を下げて、
「ありがとうございました。」
と言った。
行きざまに、フェマさんが外に出て来て、手にカゴを握らせてくれた。
「サンドイッチが入ってるから。食べてね。」
「本当にありがとうございます。」
「いいえ。それじゃあ、また。」
「はい、またいつか。」
そして俺はフードをかぶり、歩き出した。
読んでくださってありがとうございます。
昨日、楽しく英語の本読んでたら投稿すること忘れてました、すみません。
僕って天パなんですけど、今朝、時間ない中外に出ないといけなくなった時に、寝癖が目立たなくて楽だなぁとおもいました。
あ!
三件目のブクマありがとうございます!
励みになってます。
文字だけじゃ表せないほど励みになってます。
ちょっと一回表せるか試して見ますね。
ありがとぉおおおおおおおおございますぅううううう!
読んでくれてる人がいるぅうううううう!ヤッタァあああああ!
自分の小説を読んでくれてる人がいるってだけでテンション上がるぅううううううううう!
とまぁ、こんな感じです。
取り乱しました。
それでは、次の話でお会いしましょう。