第37話 キース先生さまさま
次の授業は国語だ。
とはいえども、日本であった国語とは全く勝手が違うことぐらいわかろう。
だって、文学作品とか説明文とか、そこからもう非なるものなのだから。
ていうか、なんで俺が国語が苦手かって話したっけ?
小さい頃から、、めっっっちゃくちゃ本は読んできてる。
………のだが。
どうも俺には語彙力が乏しすぎるらしく、こう、言語化するのができないのだ。
文章中から抜き出してくるだけの問題もあるだろうと言われるかもだが、それも、どこからどこまでを抜き出せばいいのかわからなかったり(国語力がないので、どこまでが必要でどこからがいらないかの取捨選択ができないのだ)、そもそも抜き出せそうな箇所と全く違う場所を選んでしまったりと、まぁそんな有様なのだ………
一発目の授業は文学作品である。
なんとかって人が書いたなんとかって作品で、少年たちの友情を描いたものだ。
あらすじしか覚えてない。
もっとわかりやすい名前にしていただきたいものだ、カタカナや小さい音だらけで発音しにくいったらありゃしない作者名と登場人物名である。
あるて………なんとかさん。
この世界では有名らしく、先生が「みなさん、このかたの作品で何について知っていますか。」って言ったときたくさんの作品名が上がってた。
あぁそうだ。
国語の先生はアーリャ先生じゃなくて、キース・ロイド先生だ。
キース先生は数学以外の座学を教えてくれる先生だ。ちなみに美術と技術はまた別の人らしい。
キース先生はブカブカの白衣を着た細身の先生で、黄色い髪に青い目。
ホワホワとした優しい喋り方をしてくれる先生で、声もとても穏やかなので眠くなってしまいそうだ………。
キース先生はご自分で本を書いたりもしているらしく、なかなか売れているらしいが、ペンネームを教えてくれないんだとか。
生徒たちは在学中に聞き出してやると意気込んでいる。
「それじゃあぁ、まずはぁ、全体として、登場人物のぉ、心情変化をぉ………」
全体的に間延びした声で指示すると、俺の方へやってきた。
「リトニアくぅん、あのねぇ、さっきぃ、君がやってたぁ、入学後の測定テストの様子を見てたんだけどぉ、すごいねぇ。すっごく綺麗な形だったからぁ、もしよかったらぁ、授業終わったらぁ、見せて欲しいなぁ………。
というかぁ、君ぃ、数学とか理科とか、得意でしょぉ。想像も得意そうだからぁ、国語も得意でもおかしくないけどぉ、もしかして、国語は苦手ぇ?」
ニコニコと、ブカブカの白衣に包まれた手を合わせながらコテンと首をかしげるキース先生。
「え、あ、はい………すごいですね、よくわかりましたね。」
俺は空想は得意だけれど、国語で人の気持ちを想像することは苦手だ。
「ふふふぅ。だってぇ、そんな感じがするんだものぉ。君のぉ、風魔法とかを見たらぁ、そうかもなぁ、と思ってぇ。」
「それはまた、どうしてですか?」
「本当はぁ、授業中にぃ、こんなのんびり話してたらダメなんだけどぉ、まぁいいやぁ。君は授業初日だもんねぇ。」
キース先生は俺の机に手をつくとしゃがみ、俺を見上げるような体制になった。
キース先生は童顔なので、なんというか、子供みたいな感じがした。
すみません、先生。
「あのねぇ、君、綺麗な、なんて言うんだろう、複雑じゃない、綺麗な図形にしてたでしょぉ?魔法の形ぃ。だからぁ、想像力は豊かだけどぉ、なんて言うか、ちょっと何か、枠の中に囚われてるなぁ、って感じがしたんだよねぇ。あぁでもぉ、此れはぁ、ぼくの勝手な印象だしぃ、あんまり気にしないで欲しいけどぉ………」
ニコニコ笑いながら言う。
「けど、でもぉ、この学校にいたら、君は今よりももっとすごくなれるしぃ、一緒に頑張って行こうねぇ。国語苦手ならぁ、ぼくの部屋にきてくれればぁ、いつでも教えるしぃ。」
「先生の、部屋?」
「アレェ?北の方は違ったのかなぁ。こっちの方の国じゃぁ、大抵ぃ、職員室じゃなくてぇ、先生たちがそれぞれ部屋を持ってるんだよぉ。」
白衣で見えないのだが、多分一本指を立てて説明してくれている。
「魔法もぉ、一応ぼく、先生なわけだしぃ、ある程度ならぁ、教えられるよぉ。あぁでもぉ、君に教えるなんてぇ、差し出がましいかもぉ。」
全く変わらぬトーンでそう言う先生に、どきっとする。
差し出がましいって、え?
出しゃばってるような感じがする、みたいな意味だよね?
え、どうして、そんな風に………?
「な、なんで、ですか?」
勇者だってことが、まさかの1日目でバレた?
ラノベだってそんな早くねーぞ?
「だって君ぃ、さいっしょっからあんなにすごい魔法を使うんだもん。だからぁ、ぼくが君にあれこれ言うのはぁ、なんか違うかなぁってぇ。魔力もぉ、きっとぼくより多いし。」
眠たそうな目がまっすぐに俺を捉える。
なんだ、そういうこと。
「それでぇ?ここの問題は、できそう?」
ブカブカの白衣が教科書を覆う。
「ど、どうでしょう………」
曖昧に返答すると、先生は微笑んで、
「じゃあ、一個ずつぅ、ぼくとやって行こうねぇ。」
そして、白衣の袖を捲って、教科書の文をなぞり始めた。
白魚のような手とはまさにこのこと。
全国のどんな著名な作家さんでも、彼の手を見たらそんな比喩表現しか飛び出ないと思う。
先生がなぞっていくと、そこに蛍光マーカーで引かれたように色がついた。
「1問目はぁ、この文がすごく重要なんだよぉ。なんでかわかるぅ?」
「えっ………と、主人公が友人についてどう思ってるかが書かれてるから?」
「そうだねぇ。すると、そこに心情について書かれてることも多いんだよねぇ。じゃあ、今度は探してご覧、心情について書いてあるところを。」
「は、はい!」
そんな感じで、キース先生のつきっきりの指導のおかげで、その文章については完璧に理解することができたんだ!
読んでくださってありがとうございます!
最近情緒がぐちゃぐちゃになること多くてちょっとあれですけど、ちょこちょこ小説書いています。
大変なことも嫌なことも楽しみなこともあって、なんか感情が忙しいです。
まあでも頑張ります!
それでは次のお話でお会いしましょう。




