第31話 俺そんなにかっこいい苗字じゃない。
その人はそのままぐんぐん教室の中を移動して、一番後ろの窓側の席に足を組んで腰掛けると、長い髪をパッとはらった。
茶色い髪が空をパッと舞って、すぐ降りてくる。
しばらく見ていたのだが、そういえばそんなことをしている場合じゃなかった、と思う。
女子を見てたってだけでやばいやつ認定されるほどここは荒れてないと思うけれど、教室の前でぼーっと突っ立ってるのはやばいやつだ。
もう何も怖くない。
それでもビクビクしながら教室に入り、席はどこなんだと思う。
そうじゃん、席わかってないんじゃん!
どうしよ、教室の外に一旦出る?
でも、そしたらなんか、「あいつ席もわかんないのに入ってきたんだぜ、」みたいな空気にならない?なりませんか?なったりしませんか?
あーもう無理っひハインリッヒチューリッヒ。
変な言葉が作られるレベルには混乱している。
でもこれ語呂がいいな。
使お。
………そんなことしてる場合じゃないんだよ。
俺は何回我に帰ればいいんだよ。バカか?なぁ。
もう嫌なんですがぁ!?
考えすぎで狂いそうになっていると、声がした。
「あら、もう来てたのね。」
振り返ると、教壇に女の人が立っている。
ピンヒールにタイトスカート、スカートには浅めのスリットが入っている。
白いシャツに黒いローブ。
同じローブでも、俺がフェマさんからもらったのと違って、上等そうで、胸のあたりに、止めるための金色の金具がついてるんだけど、あれ多分金メッキとかじゃなく金だよ。
純金かはわからないけど。
「私はこのクラスの担任のアーリャ・ペンドルトン。どうぞよろしく。」
そして彼女は俺の方に歩いて来て、
「───みんな、転校生を紹介するわ。ナオ・リトニアくんよ。」
と言って教壇に立たせた。
待って。
待って。
俺そんなかっこいい苗字じゃないよ。
”畑下”だよ。
リトニアって。
でもカッコいいから結構好きかも。
確かに、”ナオ・ハタシタ”だと、「えっ………?本当にこの国の人?」ってなるもんね。
ってかアダムさんもフェドさんも、リオさんもセシリアさんもみんな俺のこと”ナオさん”やら”ナオくん”って呼ぶけど、俺の名字が”ハタシタ”であることを知ってるのかな?
知ってた上で、この名字じゃ危ないからって”リトニア”にしたのかな?
それとも、”ハタシタ”って言葉に親しみがなくて、”ナオ”っていう名前に名字を何かつけなくちゃいけないってなって、”リトニア”になったのかな?
「───リトニアくんは北の国から来て………」
という説明をアーリャ先生がしている。
ひょっとするとアーリャ先生は俺が勇者であることを知らないのかも。
学園長先生くらいじゃないのかな?知ってるのは。
てか、俺、”リトニアくん”って呼ばれて自分のことだって思えない自信がある。
俺は日本でも”畑下くん”呼びと、親からの”凪和”呼びが限界だった。
”リトニア”なんてかっこいい名前は俺じゃなくてもっとイケメンの名前だと思って、これからできるかもしれない友達に
”リトニアくん”って呼ばれても絶対自分のことだってわからない………
待てよ。
友達には”ナオくん”って呼んでもらえばいいんじゃん。
ただのクラスメイトからの”リトニアくん”呼びにはなんとか耐えないとな。
……………………なんで友達ができる前提で話してるんだ?
「リトニアくん、自己紹介をお願い。」
アーリャ先生に言われて、俺は”リトニアくん”呼びについて考えるのを一旦ストップした。
「はい。ナオ・リトニアです。北の方から来ました。えっと、この国に来て慣れないことも多いんですが、よろしくお願いします。」
「じゃあリトニアくん、席はあそこだから。」
そう言って指定されたのは先ほど見たツンデレっぽい美少女の隣。
マジで言うとると!?
ビクビクしながら席に座ると、隣の美少女は言った。
「オーリャ・ペンドルトンよ。よろしく。あなた、北の方から来たのに、訛りもなくて綺麗にこの国の言語を話すのね。」
意外と優しそうである。
「よろしくお願いします、ペンドルトンさん。」
「それだと違いがわからないわ、オーリャって呼べばいいわよ。」
?
「オーリャ、さん。」
「そう。」
もしかしなくても、オーリャさんはアーリャ先生の親戚だよね。
だって、”ペンドルトン”だもん。
この学園にいるってことは貴族だろうし、そしたら同じ名字がポンポンいるはずがない。
親戚であることは確実だ。
「アーリャ先生とは、ご親戚ですか?」
すると彼女はため息をついて、怪訝な顔をした。
「あ、ごめんなさい!気を悪くしたなら謝ります。」
交友関係を1日目で躓かせるわけにはいかない。
彼女は、
「別にいいわよ、はぁ………。」
それから声を小さくして、
「姉よ。………あーあ、あんまり言いたくなかったの。だって、えこひいきって思われそうなんだもの。」
「あ、だから俺はオーリャさんの隣なんですね。」
急に合点がいった。
編入生をこんな微妙な席に座らせた理由がわかったのだ。
「え?」
「多分アーリャ先生、オーリャさんなら俺のこと色々面倒見てくれるだろうと思って隣にしてくれたんじゃないでしょうか。」
妹のことを信頼してる、ってことでは?
「………そう。」
オーリャさんは少し黙ってからそれだけ言って、窓の外を見た。
小さくて白い耳が、桜色に染まっている。
人間は、いくら顔に出さずとも、耳が赤くなれば、照れていることがわかる。
なるほど、ツンデレキャラの称号をほしいままにしていそう、と言うのは間違った認識だ。
ツンデレキャラの称号をほしいままにしている、と言う断定系がよいだろう。
読んでくださってありがとうございます。
ごめんなさい、完全に忘れてました。
もうこんな遅くになってしまったので寝ます。あしたも学校があるので。
それでは、次のお話で、できるだけ早くお会いできるように頑張ります。




