第30話 壮大すぎる決意
「さ、つきましてよ。」
セシリアさんはそう言うと、率先して魔動車を降りた。
リオさんを待ってからだけど。
やっぱリオさんを立てる、ってことを考えてるんだろうなぁ。
セシリアさんは学校の大きな門をバックに大きく手を広げて、
「ようこそ、聖ハント王立学園へ!」
と、まるでアニメのように言った。
「この間もきたけれど、やっぱり大きいね。」
「そうでしょう!大きくて、そして立派で、最新鋭の設備が整っておりますの。」
自慢げに胸をそらすセシリアさん。
「さ、行きましょう。」
リオさんが俺の手を引いてくれる。
………のだが。
この状況目立ちませんかね!?
超弩級イケメン第一王子様と、美少女第一王女様と一緒に登校してくる冴えないヒョロ男。
めっちゃ人が注目しない?
俺だったら見ちゃうよ?
自分の国の有名人が全く知らない奴と手繋いで歩いてきたら。
ほんとは、かなり距離をとって歩きたい。
けど、迷子になったり、絡まれたりしそうで怖い。
まぁこんな学校に通うのは貴族様ぐらいなものだから、そんな野蛮なことはしないと思うけれど、警戒するに越したことはない。
できるだけ気配を消すようにして、リオさんと手を繋いだままにすることにした。
やばいやばい、「みんなが俺を見てる」とか、「注目されてる」とか、「変な風に思われてたらどうしよう、嫌われたらどうしよう」っていう感情が押し寄せて、汗かいてきそう。
俺の手汗がリオさんに伝わるのだけは避けたい!
とか思ってるからほらまた汗かきそうだし。
永遠ループとかまじつらい、ほんと頭ん中ぐっちゃぐちゃ、一回何も考えないようにしなきゃ、深呼吸しなきゃ、
あぁああああ、もうやだ!!
「ナオさん、大丈夫ですか?顔が随分赤いですし、汗もかいているようですが。」
リオさんが首をこてんと傾げて俺の顔を覗き込んだ。
「あ、だ、大丈夫です、すみません。」
「なんで謝るんですか、ナオさんは何もしてませんし、僕も何も被害を被ってませんよ。」
「お兄様、ナオさんは緊張していらっしゃるんですわ。」
「お恥ずかしながら、そうなんです、なので、あの、暑くなって、汗かいちゃって。」
「大丈夫ですよ。みんな優しいですから。」
リオさんの言葉に、セシリアさんも頷いているけれど、でも、
それはリオさんたちが王族だからでは!?
もうやだ、これがフィクションの世界で、全部パッと何もかも上手くいってくれたらいいのに。
って、そんなことありえないんだから考えるの無駄で………
「───ナオさん。」
トントン、と肩を叩かれて、ぐるぐる考えていたことがパッと弾ける。
「大丈夫ですよ、大丈夫です。何かあったら、僕やセシリアがいます。」
「そうですわ!遠慮なく頼ってくださいませ!ナオさんに何か危害を加える方がいたら、わたくしがビシッといってやりますわ!」
小動物のような愛らしい顔でそう言って空を指差すようにするセシリアさんと、その様子を見てにっこり頷き、慣れなさそうな感じで同じポーズを真似するリオさん。
「………ふふっ。」
俺が緊張しないようにしてくれてるのかな?
「───ありがとうございます。ちょっと心が軽くなりました。ふーーーー。スーーーーー。………よし。」
目を閉じて深呼吸をして、目を開けて、気合いを入れ直す。
大丈夫。俺には神様からもらった力も、俺を応援してくれてるみなさんもいるんだから。
(こんな壮大な決意をしているけれど、ただの学校に行く前準備である。魔王を倒すとか、そんな大きな次元の話じゃない。)
「それでは、ナオさんが大丈夫になったところで、わたくしたちは教室の方へ行きましょう。お兄様、また帰るときに。」
「あぁ。それじゃあナオさん、頑張ってください。応援してますから。」
綺麗な目が見えなくなる代わりに長い睫毛が見える笑い方をして、リオさんは小さな顔の横で左手を握った。
「ありがとうございます、頑張ります。」
俺も左手で拳を作って応じる。
リオさんが行ってしまってから、セシリアさんがパン、と手を叩いて、
「さぁ、わたくしたちも行きますわよ。授業に遅れてはいけませんもの。」
そして俺の手を掴んでリードしてくれる。
………ウゥ。
さっきまでリオさんだったからまだ大丈夫だったんだけど、女の子と手をつなぐの、幼稚園以来かも………
しかも、そんな可愛い子と………って、俺が言うとキモいな。
セシリアさんがズンズン引っ張ってくれるおかげで、俺は迷子になることはないが、目立つことにはなりそうだ。
でも善意でやってくれてることだし。
俺たちの学年の校舎に着くと、
「では、わたくしの教室の階はここですので、ナオさんはあと二つ上におあがりくださいませ。わたくし一番上にはいったことは無いんですけれど、階段がたくさんあって大変だという噂を聞いたことがありますわ。お気をつけて。また後でお会いしましょう。食事の時には食堂でご一緒しましょうね!」
セシリアさんは上品に手を振って俺が上に上がるのを見送ってくれた。
木の階段を上って行くにつれて、一緒に登っている人が少なくなり、二つ目の階段を上っている時には横には誰もいなくなったが、誰かが後ろからついてきていることはわかった。
足音がするし。
大変だと聞いていたが、毎朝毎帰りダッシュしていた俺にとってはなんでも無い。
足はめっちゃ疲れたけど、息が上がるほどではなかった。
初日から息を切らして登校したら目立つし、そういう事態を避けられてよかった。
教室のドアの前で、入るタイミングを伺っていると、
「何、入らないの?」
という声がして、後ろから人が通り過ぎ、俺を追い越して教室に入っていった。
気の強そうな、漫画の中なら”ツンデレキャラ”の位置付けをほしいままにしそうな美少女だった。
読んでくださってありがとうございます。
二ヶ月ぶりだというのに。
本当にお久しぶりです。
最近めっちゃ忙しくて全然なろう開けてなかったので、めっちゃ小説書きたかったけど無理でした………
ワンチャン今日中に少年陰陽師の新しい話を出せるかもしれないです。
あとそろそろ氷の王子様の二期を公開しなきゃなあと思って原稿見てたら、そう言えばここで新キャラ出すのに新キャラの設定集どっかやっちゃったから探さなきゃって思ったとこで止まってました。
探さなきゃ………
それでは少年陰陽師の方仕上げてきます!
また後でお会いしましょう!!できれば早いうちに。




