第21話 普通の食卓とは
………ん?
俺はゆっくりとベッドから身を起こした。
壁際のおしゃれな時計を見る。
現在、5時32分。
………
俺が寝た時、まだ部屋の中は明るかった。
しかし今、外が暗くなり、部屋の中の電気がついている状況だ。
………
太陽が沈んでるってことは、つまり、夜が近づいているってことだ。
つまり俺は、寝落ちたということだ。
前話で言った通り、俺は初めての体験がいっぱいで疲れている。
でも、でも、こんな寝落ちてしまうほどだとは思わんかった。
多分もうそろそろお夕飯の時間だと思うから、頑張ってこのまま起きてよう。
ちなみに目はもう限界である。
あまりの眠気にギンギンである。
まず、このベッドの寝心地が良すぎる!
人をダメにするなんとかなるものが最近売り出されていたけれど、これは人をダメにするどころではない。
人をゴミにするレベルのベッドだ。
フッワフワのマットレス、羽のように軽くて暖かい掛け布団、しかもどれも生地がサラサラだ。
もう無理である。
これで寝ない奴がいたら俺はその人になんらかの方法で賞を与えたいと思う。
睡魔に打ち勝ちましたで賞的な賞を。
賞品はエナドリとかにしておこう。
俺はベッドに座るのをやめることにした。
ベッドにいるから眠くなるんだ、カーペットの上に座る分には何もないだろう。
と思い、近くにあったクッションを引き寄せてカーペットの上に座ると、俺は一瞬で瞼を閉じかけた。
「はぐうっ。」
と変な声を上げると、俺はクッションをひっぺがしてワインレッドのソファに投げつけた。
「おま、お前なぁ!?」
あまりの動揺に言葉が出てこない。
「な、な、え?おま、そんなにフッカフカなクッションとは聞いてねぇぞゴラァ!?」
それにっ!
「なんだこのカーペット!あったけえなおい!夏だからちょっとは不快に感じると思ったけどそんなことねぇなぁおい!幸せやなぁおい!」
俺が一人で部屋の調度品にキレ散らかしていると、ノックの音が聞こえた。
「失礼します。」
「あ、はい!どうぞ!」
俺はキレるのをやめ、カーペットの上に正座した。
扉が開き、一人の女性が入ってくる。
年齢はわからないが、フェマさんよりも少し上くらいの方なんだろう。
この人がエラさんか。
黒くて長いスカートに、白いエプロン。
髪の毛はサイドを編み込んで後ろをお団子にしている。
「ディナーのお時間です。どうぞ、ついてきてくださいませ。」
そう言って頭を下げられ、俺は頷いて立ち上がる。
部屋を出て、歩くこと2分ちょい。
なんでご飯を食べるために長いこと歩かにゃならんのだ。
そんなことを思いながら部屋につくと、エラさんが扉を開けてくれる。
ちょっと気後れして、そして緊張をしながら、中の様子を伺いつつ、入る。
大きくて、上座に座っているアダムさんの顔がはっきり見えなくなるレベルには長いテーブルに、金の燭台がいくつもおかれている。
さっきも言ったように、アダムさんは上座。
俺から見たアダムさんの右側(手前)にリオさん、左側(手前)に一つ席が空いていて、そのもう一つ隣にセシリアさん。
そしてリオさんの隣を一つ開けてリアさん、セシリアさんの隣にエシリアさん。
うん、一人、足りない。
「ナオくん、こちらへどうぞ。」
と、開けられていたリオさんの隣に入らせてもらう。
リオさんは優しく微笑んで、
「そんなに緊張しないで。ここはただの家の食卓です。」
ただの家の食卓はこんなに長くないし、こんな大量のカトラリーが並んでいるわけもない。
「それに、礼儀もあまり気にしていないから。だからあまり緊張しないで。」
アダムさんにもそう言われたのだが、一つ一つの言葉を受け止めるたび、心臓の萎縮が止まらない。
「お兄様、そうお声をかければかけるほど、ナオさんは緊張してしまわれますわよ。きっとしばらくしたらお慣れになると思いますから、今はそういうことについてとやかく言うのはやめましょう。」
セシリアさんが口元を手で少し隠してくすくす笑った。
「そうですわよ。いくら勇者様といえど、このようなところでお食事をされたようなことはないでしょうから。」
エシリアさんにちょっと横目で見ながら言われて、『これ、馬鹿にされてね?』と思う。
アダムさんやセシリアさん、リオさんもそう思ったのか、
「こら、やめなさい。」
「エシリア。何を言っているんですの!」
「言葉に気をつけなさい、エシリア。」
と次々注意する。
それに対してエシリアさんはフン、って感じで笑うだけ。
アダムさんはそれを見てため息をついた。
俺はちょっとモヤっとしたものの、もっとモヤっとするものを感じたので、ほっておくことにする。
───セシリアさんのお隣、なんで空いてるんだろう。
第二王子様、の席なのかな?
俺が前菜の運ばれてくる間ずっとその席を見つめていたのを、多分アダムさんとリオさんは気づいてる。
気づいた上で何も言わないってことは、俺も何も聞かない方がいいってことだ。
そう決めると、俺は俺が知っているマナーを使って、前菜を食べ始めた。
俺の大好物であるキッシュがあったことで、テンションが上がる。
ただ、やはりマナーが気になるもので、隣のリオさんの様子をちょっとずつ伺いながら食べている。
おそらく、それをエシリアさんとリアさんに鼻で笑われてる気がするけど、俺のマナーがやばいのは間違ってないので何も言わない。
ムカつくけどな!
ムカついてるけどな!?
すると、気を使ったのか知らないがリオさんが話しかけてきた。
「ナオさんは、何か好物などありますか?」
「え。」
確かにこの国の製品の名前は全部俺のして散るものと一緒だけれども、しかし日本とかの特有の料理は伝わらないと思うのだけれど。
えっと、とりあえず。
「キッシュとか、あとはクレームブリュレとかが好きです。甘いものが特に好きなんです。」
そう言うと、リオさんは食べながら大きく頷いて、
「僕も、甘いもの好きですよ。今日のデザートにも出ますから、どうぞお楽しみに。」
と優しく微笑む。
するとアダムさんがポンと手を叩いて、
「そういえば、ナオくんは漫画が好きだって言ってたね。」
「あ、はい。アニメとかも大好きです。」
そう答えた途端だった。
「本当ですか!?」
と叫ぶ声が耳元でした。
横を見ると、隣にいたのはリオさんだった。
読んでくださってありがとうございます。
お久しぶりです。
実は今日血を抜かれたんですよ。
あの、血液検査ですね。
腕がぷくっとしてて、変な感じで、そんでもって痛いです。
眠すぎるのでストレッチだけしたら寝ます。
それでは、また今度お会いしましょう。