第14話 あ〜はいはいなるほど納得………ってなると思ったか!?
ドサ、と倒れたはずの俺は、ムクッと体を起こした。
「………は?」
俺がそうやって声をあげたのは、俺のいた場所がフッカフカの天蓋付きベッドだったからではない。
むしろ、倒れたのが王宮だったから、そっちの方が驚かなかったかも。
寝心地良すぎ!やば!くらいは思ったと思うけど。
でも、そうじゃなかった。
真っ白い地面がどこまでも続いていて。壁はなくて、何にもなくて、どこまでも、一面真っ白。
いくらここが異世界だと言っても、この場所は絶対普通じゃない。
ちょっとくらい、魔法使える、よな?
手のひらを上に向け、心の中で、『風属性』とつぶやくと、小さく旋風が巻き起こった。
うん、魔法は使える。ちょっと安心。
俺ができる限り気を張って、あちこちくるくる見ていると。
___トン
と、肩を叩かれた。
「………!」
まるで気配がなかった!
と思いながら急いで後ろを振り向くと、俺は固まった。
ザ・悪役、とかだったら警戒のしようがあったのだが、そうはいかなかった。
なんせ、後ろに立っていたのは、綺麗な銀髪の女性だったからである。
あ、いや。
男性かも。
牧師さんの服着てるし。
服で判断するのは良くない、けど………
あぁ、喉仏あるわ。男の人だ。
なんて冷静に考えてから、我に帰る。
「あ、あのっ。」
俺は声を絞り出した。
「ここ、どこですか?」
男の人はにっこり笑うと、
「いらっしゃい、凪和くん。」
友達が俺を呼ぶみたいに呼び慣れていて、俺はすごく呼ばれ慣れている気がした。
しかし、俺はこの人をミジンコほども知らないのだ。
なのに、ものすごく懐かしくて、久々に会えた!と感動して涙を流してしまいそうなほどで。
おかしいなぁ、と思う。
でも、俺の名前を知ってるし、悪い人じゃない、のかな?
この人が魔王様、ってことはないと思う。
そんな邪悪なオーラじゃないもん。
警戒心と安心とで感情がごっちゃになっていると、銀髪の男の人の後ろから、次々と人が現れた。
「は!?」
その数、6人。
銀髪の人と合わせると7人だ。
黒髪の女の人とか、黒髪と金髪が混ざった男の人たちとか、燃えるような赤髪の女の人とか、真っ青な髪の女の人とか、オレンジ色の髪の男の人とか。
カラフルである。
でもとりあえず、俺は固まる。
なんかこう、神々しいオーラが強すぎるんだもん。
「えっと、どなた様がた、ですか?」
俺がアワアワしていると、銀髪の人がにっこり笑顔を崩さずに言った。
「私たちは神です。」
………
………
………
へぇ!あ、そう!神様!どうりて神々しいわけね、はいはい。神様なんだからそりゃ神々しいよね、はーいハイハイ、なるほど納得。
…………
ってなると思った!?
待って、俺が知ってる神様、こんな、こうやって、こんな感じで、はっきりと視認して、会話できるもんだっけ?
失礼だとは思ったが、オレンジ色の髪の男の人の腕に手を伸ばした。
掴める。
!?
神様って触れるものなの!?
訳がわからなくて混乱しっぱなしの俺に、銀髪の人はふふ、と言って、
「少しずつお話ししますよ。凪和くんは多分しばらく起きられませんから。」
「………何でですか?」
一つ一つの言葉をゆっくり言って、警戒心むき出しの俺。
銀髪の人は優しい笑顔をキープしたまま、
「あんな大量の情報を一気に流されたらしばらく気絶しちゃいます。凪和くん、今からぼくたちは全てを説明しますから、聞いていただけますか?」
丁寧にそうおっしゃる神様。
神様に俺みたいな凡人が逆らえる訳がない。
「は、はい。」
とりあえず、頷いた。
そのあと、オレンジ色の髪の人と青い髪の女の人が協力して、クッションと机とお菓子と紅茶を持ってきた。
「どうぞ、食べてください。」
と言われ、俺は神様たちの顔色を伺うようにしながらお菓子を口に運ぶ。
見た目は美味しそうなフィナンシェだ。
一口食べた途端、俺は口元を抑えた。
「美味しい!」
思わずそう声に出すと、神様たちは一瞬体を強張らせた。
それに合わせて、俺の動きも止まる。
え、え?今の発言にアウトな部分あった?ないよね?お菓子が美味しいって話だよね!?
俺が心の中でぐるぐる考えていると、黒髪の女の人が言った。
「よかった〜!」
俺は目が点になる。
本当に綺麗な点である。
黒ごまみたいな点である。
女の人に続くように、皆さんがそれぞれ発言し始める。
「あまりに緊張していたので、私たちもドキドキしてしまいました。変に怖がらせちゃいけませんし………」
と、銀髪の神様。
「ほんとだよなぁ。よかったぁ、もっと食べていいぞ!」
と、オレンジ色の髪の神様。
「よかったですわ、本当に。あ、お紅茶も美味しいですのよ、どうぞお召し上がりになって。」
と、青色の髪の女神様が頰に手を当てる。
「やっぱ甘いものが一番緊張をほぐすんだよ。」
と、金髪ベースの髪に毛先が黒い神様。
「それ言ったのポーなんだが!?」
と叫ぶ、毛先だけ金色で黒髪の神様。
わちゃわちゃと穏やかな雰囲気で話し出す神様たち。
それを見て、銀髪の神様が一つ、咳払いをした。
みんなが静かになる。
───きっと、この神様がみなさんのリーダー的な感じなんだろうな。
と、横顔を見ながら思う。
一番落ち着いてる感じだし。
銀髪の神様は青いサファイアの目で俺をまっすぐに見つめながら、
「まずは、自己紹介からしましょうか。ぼくはミーナス。月の神です。潮の満ち引きを司っています。」
腰ぐらいまで伸びたシルバーの髪に、サファイア色の少し垂れた目。ぱっと見は女性に見える。
ただ喉仏は出ているし、牧師様みたいな白いワンピースの上にベスト!みたいな格好をしているから、ちゃんと見たら男の人だ。
ベストみたいなのにもワンピースみたいなのにも、銀色の糸で月の満ち欠けの様子が刺繍されている。
黒色の底の高い靴を履いていて、首から下げられた細いチェーンには、銀色の、サファイアがはめられた指輪をかけている。
「あぁ!あの、全てを陰で支えてくださっているという!」
「………まぁ。はい。それも、ぼくが、やってます。」
真っ白いほおが少し赤く染まる。
あ、照れてる。
周りの神様たちがにやにや笑っている。
ミーナスさんはまた、一つ咳払いをして、
「なんでご存知なんですか、凪和くん。」
と聞いた。
「あ、えーっと、俺がダンジョンをでてしばらくしてから、家に泊めていてくれた女の人が教えてくれたんです。といっても、この異世界の時間っていうか、季節の区切りの名前だけですけど。」
「なるほど。なら、ぼくたち神のお名前もわかりますか?」
「あぁ、えっと、区切りの名前が神様のお名前なんですよね。ミーナスさんは、全てを陰で支えてるから、全部の区切りが〇〇の月、ってなってる、って聞きました。」
「ぅ………」
消え入りそうな声を出しながら、もっとほおを赤くするミーナスさん。
優しそうで落ち着いてる感じだったから、こういう可愛いところはギャップ萌えである。
「あ、じゃあさ!」
黒髪の先がぴょんと跳ねている、いかにも、元気!って感じの女神様が手を挙げて提案した。
「あたしたちの名前、当ててみてよ!」
「ちょっと、無茶振りがすぎますよ。」
とミーナスさんがたしなめるが、他の神様は乗り気のようで、ポージングを始めた。
俺は左の神様からみていくことにした。
一番左にいたのは、胸の下で腕を組む赤髪の女の人。身長は高い、と思う。
高いヒールを履いてるけど、それが10センチくらいあるとして、160センチの後半はあるんじゃないかな?
燃えるように真っ赤な髪が肩ぐらいまであって、少しカールしてる。目の色は綺麗な朱色だ。
深くスリットの入ったドレスは真っ赤。
でもその赤がものすごく似合うんだ。
金色のティアラを頭につけている。ティアラは、バラ模様みたいだ。
ちなみに、あの、えっと………
すごく、魅力的なスタイルを、されて、ます。
俺、顔赤くなってないよね!?大丈夫だよね!?
自分に叫びながら、この女神様はどの神様だろう、と思う。
でも、こんだけ髪色や服が真っ赤ってことは………
「えっと、一番左の女神様は、火の神様、ですか?」
「そうよ、正解。」
ふん!って感じのポージングだったから、気位の高い怖い人かと思っていたら、そういうわけじゃないみたいだ。
「では改めて自己紹介を。」
そう言うと、優雅にドレスの裾をつまんでハイヒールを履いた足を引いてお辞儀をした。
「わたしはフィオ。火の神よ。この世の全ての火を司り、火事を起こしたりするの。どうぞよろしく。」
顎を引いて、ちょっと見上げるようにして笑う。
俺はなんだか恥ずかしくて、顔を真っ赤にしながら頭を軽く下げる。
その反応を見て、フィオさんの右隣にいた黒髪の女神様が挙手した。
「じゃ、あたしは、あたしは!」
俺はその勢いに少し押されながら、頷いて、考え始めた。
読んでくださってありがとうございます。
昨日言っていた嫌なことは解決いたしました。
ってか聞いてください。
僕が連載してる、「氷の王子様」シリーズがあるんですけど。
なんと、この「ダンクリ」がその連載話数を超える、というね。
どんだけ「氷の王子様」シリーズを投稿していないかがわかりますね、すみません。
それでは、次の話でお会いしましょう!
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