第10話 火属性、水属性、氷属性に風属性
確かに、頭の中で変な洞窟は思い浮かんできた。
けれど、なぜか体が知っていて、なぜか一ミリも迷うこともなく洞窟につくなんて、俺は思わなかった。
ま、いいや。
洞窟は暗いし、ジメジメしているけれど、住めなさそうなわけじゃないし。
とりあえず、座る。
マントを膝にかけた。
季節的に、眠れなくなるほど、凍えるほど寒くなることはないと思うけど………
やっぱ、心配だよなぁ。
食べ物とかも。
逃亡生活って大変だよな。
事件の犯人とか、どんな風にして逃げてたんだろ。
………あれ?
なんで俺、逃げてるんだ?
なんで俺、指名手配されてるんだろ。
だって、なんも悪いことしてない。
いや、まあ、確かによそ者だけど。
あのダンジョンって、もしかして大切なものだった?
そんなわけないか、街の人の反応見る限りは。
俺が、勇者かも、しれない。
いや、そんなことない、そんなわけない。
俺みたいなやつが、そんなわけない。
だって、勇者って、すごいじゃん。
魔法が使えるとかだけじゃダメじゃん。
かっこいいこと言えないと。
自分を慕ってくれるようになった人を励ませる言葉をかけられる人じゃないと。
そんな風に、自分は勇者じゃない、って、思おうとしてた。
けど。
勇者だったら、と思った。
俺がもし勇者だったら。
かっこいい。
俺がたくさん読んでるラノベみたいに、魔王を倒して、みんなに感謝される勇者。
そうだったら、かっこいい。
なってみたい。
難しい魔法を使いこなして、体術もできて、大きな聖剣をカッコ良く操って。
いいじゃん。かっこいいじゃん。
そんなわけない、って気持ちと。
そうだったらいいな、って気持ちが。
一緒に心の中にあって、一つ一つをちゃんと、じっくり考えて、紐解こうとすると、気持ち悪くなってきた。
「あー、もう、いいや!!」
俺はそう言うと、一回全部を考えるのをやめた。
好きな音楽を頭の中で流して、リズムをとって。
あー、すっきりした。
慣れてきたら、この洞窟も、悪くない、かも………
歩いてたのが祟ったのだろうか。
それとも、緊張がとけたのだろうか。
俺は、日本にいた時よりもずっと早い時間なのに、眠り込んでしまった。
………ん?
「あ、寝てたっ!」
俺が叫ぶと、鳥がぴよぴよ言いながら飛び去っていく音が聞こえた。
びっくりさせちゃったな、ごめん。
「俺、不用心すぎ。誰かに連れ去られても文句言えねーな。」
そう声に出して反省すると、起き上がった。
何も盗られてない。
ま、こんなとこまで来る人の方が特殊か。
とりあえず、昨日もらったやつを食べて………
軽く朝ごはんを終えると、俺は一度外に出た。
何をするでもない。
外の様子が見たかった。
日本のウサギのような動物や、インコみたいなやつや、鹿みたいなやつ。
生態系や食べ物とかは、割と日本に近いな。
うん、ちょっとわかった。
近くの大きな岩に座って、日光浴。
あったかくてポカポカして、気持ちいい。
猫にでもなった気分だ。
ん〜!
伸びをして、起き上がる。
「これからどうすっかなぁ。」
俺は、今まで読んできた異世界転移物の小説や漫画を思い返してみた。
大抵、神様がなんらかの助言や世界の情報を教えてくれるものだけれど、あいにくそんなことはなかった。
え〜っと、こういう時は、あの作品の主人公はどうしてた?
俺と極めて近い環境にいる主人公のラノベを思い出す。
わけわかんないうちに異世界に放り込まれ、目の前に自分を呼び出した魔道士様がいて………
「あ!」
そうだ、そうだ!
魔道士様に頼まれて、とりあえず、魔法を使おうとしてみるんだ。
自分の力を試すんだ。
呪文なんてわかんないから、炎よ起これ!的な感じで、念じて使うんだ!
自分が何をできるかは知っておきたい。
やってみよう。
えっと、まずは………
「炎よおこれ、的な。」
口に出して呟いてみると、突き出した両手の前に、巨大な火の玉が出現した。
森が一気に明るくなる。
やべっ!人が集まっちゃう!
慌てて両手を握ると、炎がパッと消えた。
ほっ。
次に、水。
「え〜っと、水の球。くるくる回って、綺麗な奴。」
そう言うと、空中に、巨大な水の球が出現。
わ、綺麗。
デ◯ズニーみたい。
俺はその水の球を消さないまま、デ◯ズニー映画で見た美しい氷の彫刻らしきものを想像してみた。
一気に球が凍り、広がり、先の方が少し丸くカーブを描いた。
うん、綺麗。
あと、何があったっけ。
火属性水属性、氷属性に、あ。
「風属性!」
そう叫ぶと、風が吹き荒れた。
落ち葉がくるくると舞い上がり、動物たちが驚いた顔をする。
「ごめんごめん。」
と片手を使って謝りながら、風をやませた。
そよ風だったら、体を浮かせたりできるかな?
そんなことを考えると、体が軽く舞い上がった。
「わっ!」
不安定に揺れ、頭がぐわんぐわんする。
「ストップ!」
と言うと、風が優しく止んで、俺はゆっくりと地面に立った。
「俺、すげー!!」
思わず、そう叫んでガッツポーズしてしまった。
結構何でもできるな!便利!
あー、じゃあ、あれ、できるかな。
ずーっと昔、恋愛系の聖女様のお話で見た、思い浮かべた料理を作り出せる能力。
今は、そうだなぁー、
「ハンバーガーが食べたい!」
そう言うと、手元にポンと美味しそうなハンバーガーが現れた。
「!?」
俺が、イッチバン大好きな味のやつだ!エビ!エビ!
「A〜BCから〜、」
と歌いながら、岩の上に腰掛けた。
包装を剥ぎ、大口を開けて食らいつく。
「ん〜、美味しい!」
と思わず声を漏らした。
もぐもぐ、パクパクと口に運んでいると、後ろの方で、
「ガサッ」
と音がした。
俺はハンバーガーを喉に詰まらせかけ、胸を叩きながら、音がした方を向いた。
「誰だっ!」
と精一杯声を張る。
震えてる。かっこわり〜。
じっと茂みを見つめると、そこから人が現れた。
「!?」
ゾロゾロと出てきた4人は、一人だけパッと華やかな顔立ちで、そんでもって、
───さっき、フェマさんのところで見た警察みたいな人たちと、おんなじ格好をしていた。
読んでくださってありがとうございます。
もう少しで三月ですね。
僕にとって三月は楽しみなことがいっぱいです。
めっちゃ好きなコンテンツのCDが発売されるし。
めっちゃドラパ楽しみ。
大好きなアニメのコラボメニューみたいなのがとあるチェーン店であって、三月は僕の推しのグッズがもらえる期間だし。
三月を楽しみにして行こうと思います。
それでは次回は月曜日!またお会いしましょう。
(もしかしたら少年陰陽師を投稿するかも。)