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手配書の女②

 「二人共早く行こうよぉ~! お店が混んじゃうじゃん! 何せ折角のデート(・・・)何だからさぁ」


 アヒーナは俺とプリシラの前を小走りで進み、振り向き様に俺達を急かして来る。


 思ってたよりも外出の準備に手間取り、出遅れて仕舞い今はもう昼になろうとしていた。

 時間が経つにつれてか周囲の雑踏、流れはより活気に満ち溢れて居る。


 先行くアヒーナも例外では無く偉いはしゃぎ様だ。


 「アヒーナ! ちょっとゆっくり行くぞ! 今日は休日で人も多いし、少しはプリシラの事も考えて歩けよなっ!」


 「ぶぅ~っ! 分かったよぉ。ごめんねお姉ちゃん! ついついはしゃいじゃったよぉ~」


 アヒーナは頬を膨らませ少しだけ不機嫌な表情で俺達の所へ戻って来た。

 プリシラは訳在って(・・・・)、普段は目隠し(バイザー)で両目を封印(・・)して居る。

 その間だけは彼女は"盲目"なのだ。


 だから今俺は、プリシラの手を握り周囲に気を配りながら街中を歩く。

 実際、プリシラは他者の補助が無くとも多少は、周囲の状況を特に生き物(・・・)だけは強く感じ取れると言うのだが俺は昔の"癖"か、彼女の手を取り歩む。


 「ごめんなさいね。私のせいで不便な想いをさせて……ガイゼル、私一応は独りで歩けるわよ」


 「いや、今日は人通りも多いし……それに今日はデートなんだろ? ちょっと照れ臭いが昔みたいで(・・・・・)なんか懐かしいし良いじゃないか。そう、手を繋いで歩くのも――」


 俺は少しキザ臭い発言に照れながらも繋いだ手に力が入る。それを感じてかプリシラも自然と握った手に力を込めて握り返して来た。


 これは所謂、恋人同士がお互いの意思を確かめ合う"ノック"と言うヤツかと俺は内心思うと、全身が熱くなるのを感じた。


 「うふふっ。ありがとう……やっぱりガイゼル(貴方)は優しいわね。朝はあんなにも照れ屋さん(・・・・・)だったのにね。あぁ、やっぱり私は世界一の幸せ者です」


 俺の表情()を彼女は認識出来て居ないが、それを感じた様に俺の方を向き、ニッコリと口を緩ませ微笑んだ。


 その笑みに俺は心が「ドキッ」とし、言葉を失ってしまった。


 本当にプリシラは綺麗だ。これ程迄に美しい女性がこんな筋肉達磨で田舎者な俺を好いてくれるなんて正直、嘘の様で夢でも見ているのかと感じてしまう。


 やはり素直になれない自分が憎い……。


 「はい! はぁ~い! アタシの存在も忘れないで下さいな! お二人さんっ!! アタシだってお兄ちゃんのお嫁さん(・・・・)なんですからねっ!」


 アヒーナは人目も憚らずにそう言うと、俺の空いた左手を奪う様にして掴み、恋人握り(・・・・)をして来る。


 「分かった! 分かったからあまり大声を出すなよ! 周りに迷惑が掛かるだろ? それと横に広がり過ぎるなよ。それも通行の邪魔になるから――」


 端から見たら俺は美女二人をはべらかす(・・・・・)、いけ好かない男に見られていると思うと心が痛む。


 だがこの世界では当たり前(・・・・)の光景でも在る。


 何故ならば世界的に見て、男性の人口は種族関係無く極端に少ないからだ。比率で言うならば八対二で女性が"八割"、男性が"二割"とされている。


 その原因は未だに不明だが一説には"呪い"とも言われている。

 だからか男性の存在は希少でも在り、種の存続の為にも……世界的に種族も関係無く婚姻関係も一夫多妻(・・・・)が認められている。



 「モテる男は辛いわね!」


 「本当にねぇ~! 姉妹(アタシ達)ガイゼル(お兄ちゃん)に巡り会えた事……本当に奇跡だと思ってるよ! でも何でぇ~二ヶ月前に急に行方を眩ませたのかなぁ? ねぇ何でなのかなぁ~お・に・い・ち・ゃ・んっ!!」


 小悪魔な不敵な笑みを浮かべアヒーナは俺に問う。


 正直に言えばあの約束(・・・・)は完全に忘れていた。二人には信じて貰えないが、国王様から"解雇"を告げられショックの余り……忘れていた。


 それと他者とは極力、関わりを絶とうと思い秘境の小屋で独り、生涯を遂げ様と自虐的な行動を取ってしまったのだ。


 本当に馬鹿だよ俺は――。


 盾役(タンク)で在りながら仲間を最前線で守る役が内心(メンタル)が、ボロクソに弱いなんて笑い話にもならない。


 「いや……まぁ、正直に言うと完全に忘れていた。すまない……俺、あの時は相当に心がやられててさ。なんとか食い繋いで生きる事だけでも精一杯だったというか……さ」


 「アヒーナ! あまりガイゼルを困らせないの! トラウマを呼び起こさせないのっ! 今、こうして居られるのだから結果として良いじゃない! これからは三人、支えあいながら行きましょうよ」


 やっぱり優しいな……プリシラは。【聖女】と呼ばれるだけは在るよな。


 ただし、今は良いが暴走(・・)すると手がつけられないし、要らん"不幸"を連れて来るのが"玉に瑕"なんだよなぁ……。


 「――はぁい! お兄ちゃんごめんなさい。お詫びに帰ったら沢山、癒してあげるね! ンフフ~ッ! それとも今かなぁ、~うぉりゃ! うぉりゃぁ~!」


 在る意味でアヒーナは俺の言い付けを守り、横に広がらない様に俺の腕に引っ付き少しだけ、後ろを着ける様に歩くのだがやはり感じる柔らかな感触。


 今のアヒーナはわざとらしく当て、擦り付けてくる。心なしか何時もより強い(・・)気がした。


 「ちょっ? アヒーナ! 幾ら何でも掴む力が強くないか? 少しは加減してくれよ……お前の方が力が強いんだから」


 「……ごめん。ついつい力が入っちゃった。気を付けないとお兄ちゃんの腕が千切れちゃう(・・・・・・)もんねっ!」


 コイツ……さらっと恐ろしい事を言うが事実、アヒーナに腕力勝負で勝てた事は一度も無い。

 

 恐ろしい女の子だよ、本当に……。


 「そう言えば気になった事があるんだが……決して自惚れな訳じゃないが、俺達って一応は魔竜を討伐した()英雄だろ? なのに街中をこうして歩いて居ても誰一人として……声を掛けて来る人すらいない。指も指されない――」


 「まぁその方がイヤな事も思い出さなくて済むし、静かに暮らせて良いんだけどな! でもなんかさぁ違和感が在ったんだよ……今日久しぶりに街に出て来てさ――」


 俺にとっては久しぶりの街。

 なんと無く感じた違和感を姉妹(二人)に問い掛けた。


 別に多くの人達から誉め、讃えられたい訳じゃないんだがな――。


 「あら? 意外な事を聞くのね。まぁ簡単な事よね。喉元過ぎればナンとやら~って訳では無いけど……今はみんな楽しそうに休日をこうやって過ごしているけど、明日からはまた何時もの日常に戻る人が大多数でしょ?」


 「あぁ、そうだな――」


 「その日常は過酷な事かも知れない。この街は都市部、魔竜の被害はほぼ皆無だった。それはガイゼルだって分かるわよね? でも被害に遭った地域はどうかしら? それも分かっている通り、復興支援が未だに儘ならない状態……明日も無事に迎える事が出きるか分からない不安を抱える人達が居る現実。そして悔しいけど私達の力は戦う事でしか見出だせない力(・・・・・・・)。ならばそこに資金()を使うよりは他の使い道の方が有意義よね? また戦わなきゃいけない様な世界にならない事を祈りながらもそうはならない様にしていかなくちゃね……」


 プリシラは淡々と語った。


 「あぁ……そう……だな……。守り抜くか。この平穏になった世界を」


 彼女の言葉ひとつ、ひとつに重みを感じ改めて俺は無力で無知さを味わった。


 「だから私は英雄(私達)の解任は正解だと思うの……あくまでも私の持論だけどね。って私なんか少し熱く語っちゃってなんか恥ずかしいわね……エヘヘッ」


 プリシラは照れ臭そうに笑う。何時もはなかなか見せない少女の様に無邪気に笑う。


 「なんか今日のお姉ちゃんはなんか輝いていますなぁ~これはデート効果かな?」


 「そうかもねぇ! だってこうして三人で遊びに行くの初めてだもの! それは私だってキラッキラに輝きますよ! そう言うアヒーナだってウッキウキじゃない!」


 三度(みたび)プリシラは繋いだ手ノック(・・・)して来た。俺もそれに応える様にして返し少し手を此方へと引き寄せ体を密着させた。


 急にプリシラ(彼女)が愛おしく思えたから。それには理由なんて必要ないと――。


 そんなこんなしながらも俺達は、目的の料理を提供をしてくれる店を目指し歩みを少し早めた。


 「あと少しだよ~っ! ほらほら見えて来たよっ」


 アヒーナの指差す先には街中には、誰もが目を惹く程のお洒落な田舎調の民家が現れた。

 周りの建物が無機質な同じ造りばかりだから尚更、俺はお洒落と感じながらも心の何処かで懐かしい(・・・・)とさえ感じていた。



 カチャンッ!



 カチャカチャ――。



 ――カチャンッカチャ。



 何処からか金属音が聞こえる。


 周囲の雑踏の音をすり抜け(・・・・)る様に俺には聞こえた。


 否、俺が感じ少しするとプリシラが、ギュッと力強く手を握り小さく呟く。


 「ガイゼル、アヒーナ……警戒しなさいな。多分、見られている……ちょっと遠いけど確実に私達を見てる。かなり狂った(・・・)突き刺す様な視線ね」


 「お姉ちゃんが言うならばそうなんだね。アタシはまだ(・・)感じないけど……了解だよ」


 「何だって……。ついさっき平和について語ったばかりじゃないか。一体何処のどいつが用事が在るんだってのよ!」



 残念だが一旦、予定して居た昼食はお預けに俺達はプリシラが感じた視線の元へ、人の流れに沿いながら近付いた。


 「――居た。接触間近……よアヒ――」


 プリシラの声を打ち消して、おしとやか(・・・・・)な声が三人(俺達)に対して発せられた。


 「ご機嫌麗しゅう。こんにちは。おデート中に失礼致します。なんて羨ましい事でしょうか?こういう時はこう言うのかしら――?」


 目の前には一人女性が黒髪を引き立てるが如く、真っ白の修道着を纏い此方へ笑みを飛ばす。



 「羨ま死ねっっっ!!!!」



 女性(コイツ)、朝の人相書きの……。



 そう俺が口にする間も無く――――。





 ――ガギィィィィィィンッッッ!!






 街中には、けたたましい金属がぶつかり合う音だけけが響いた。

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