手配書の女①
俺は今、"魔竜"を共に討伐した時の元英雄の姉妹達と訳あって一緒に暮らしている。
姉妹達と一緒に暮らし始めて、早一週間が経とうとしていた。
その姉妹の姉は、幾つもの奇跡と言うに相応しい数々の魔法を自在に操り又、慈愛の心も持ち世間では【聖女】で通っている……【聖女】――。
大切な事なので二回も思い返してしまった……。
そして彼女の名は"プリシラ"。
彼女は今、俺の右腕にしがみついて眠りこけている。
栗毛色の髪は腰まで長く、毛先が少し癖毛の掛かっており、絹よりもサラサラとし気品さを感じる輝きを持つ。
耽美と言うのはプリシラの事かと言う程に美し過ぎる顔立ち。俺の人生の中でプリシラは"一番の美女"と言っても過言では無いと俺は思っている。
ただ天は二物をと良くもまぁ言ったモノでプリシラは、ビックリする位の貧乳だ……今も俺の腕には申し訳程度に柔らかい何かが『ちょん』と当たる感じだ。
本人はその事を滅茶苦茶、気にはしているし触れてはイケナイ事でもある。
対する妹は、名を"アヒーナ"と言い姉のプリシラ同様に美しい栗毛色の髪。彼女は姉とは正反対に肩程に伸ばしたショートボブだ。
顔立ちも大人の気品在る姉とは真逆、愛らしいさ溢れ活発と言う言葉が似合う所謂、童顔なのだが胸に関してはもう……なんと言ったら良いか。
そうだな……巨乳だな。
巨乳。爆よりの巨だな……うん。
そのたわわな巨に俺の左腕は挟まれ彼女も姉同様、深い眠りについている。
俺の人生史上、経験をした事の無い柔らかさに寝たくても興奮し寝付けない俺は今、耐え難い程の生地獄を味わっている。
「うぅぅ……生殺しだよ、こんな状況は。それに二人共、良い香りが……美女に囲まれ寝るも幸せだが今はまだ一線を越える訳には――」
今は朝方、日も昇り切ろうとしている時間。
窓に掛かるカーテンの僅かな隙間から射し込む日の光が嫌味の如く、俺の目に突き刺さる。
「にゃむぅ~ん。――にぃししぃ~……」
アヒーナが言葉になっていない何かを呟きながらニヤニヤしている。その寝言に俺は反応し、アヒーナの方へと頭を静かに左に動かした。
「寝顔も可愛いが……可愛いんだがこの状況が日々繰り返しなんて、流石の俺も辛抱堪らん――」
「んふ~可愛いだなんて嬉しい事、言ってくれるわねぇ。良いのよ私は……ガイゼル? 無理しなくたって……さ。私達は何時でも良くってよ」
「うっ!? プリシラ! 起きて……たのか?」
俺はプリシラの声を聞くなり反射的に彼女の方へと顔を向け返した。
「うん。多分、ガイゼルが目を覚ましたのと同時かしらぁ~んふふっ、相思相愛かしらね? なぁに照れてるのよ? 目隠しの無い私の素顔に見惚れちゃった? まぁ今は目さえ開かなければ何も問題は無いわ。ねぇ私今日も綺麗? アヒーナばかり見てるなんて妬けちゃうじゃないの……」
プリシラがまだ寝ていたと思い込んでいた俺は驚きの余り、彼女の問い掛けの内容が全然、頭に入っては来なかった。
「えっ……あっ? 何を……プリシラさん?」
「もぉ~そんな照れなくても良くってよ。ねぇそれよりもぉ~おはようのキスはまだかしら? 昨日はちゃぁんとしてくれたわよねぇ? キ・ス!」
プリシラは額に掛かる髪を右手でかきあげると、色白なツルツルとした肌を俺の口元へとキスをせがみながら近付けて来た。
「ちょっと待て! 待てってば……プリシラ」
急なプリシラの行動に俺は戸惑うもお構い無しに彼女は俺にキスをせがむ。
「何でぇ~? 昨日はちゃんとチュッてしてくれたわよね? ねぇお願いしてよぉ~! してくれたら今日も私頑張ってお手伝いするからぁ~」
俺よりも三歳上のプリシラは今、幼い少女の様な素振りでキスを懇願して来るのを止めない。
俺と彼女の攻防戦は俺の根負けで幕を閉じた。
――チュッ――。
俺はこれでもかと言う位に顔が熱を持ち、恥ずかしながらプリシラの汚れなき綺麗な額に軽くキスをした。
「――っ! これで……良いか? 満足か……。はぁぁっ! 慣れないよ……ってか恥ずかし過ぎるっ!」
「んっ、よろしい! ありがとうねっ! 私凄く幸せよ。私もガイゼルにしてあげるね……」
――チュッ!
美女からのキス。
唇同士では無いものの、絶世の美女からのキスはまるで夢の様だった。
プリシラは迷い無く俺の熱を帯びた左頬にキスをした。柔らかく少しだけひんやりとした彼女の唇は、頬から離れても、夢見心地の俺はキスをされた感覚だけがまだ頬には強く残って居た。
熱い頬が少しだけ冷えた気がしたが、キスをされた事が現実味を帯びるとまた顔面が火を噴いて仕舞いそうな位に熱を帯びた。
未だ、素直になれない俺の性格が疎ましくも思えて来た。
「むむむっ! 二人ともぉ~アタシが寝てるのを良い事になぁぁに抜け駆けしてイチャイチャしてるのかなぁ?」
「あら? 起きたのアヒーナ? おはよう。貴女もして欲しければガイゼルにちゃぁんとお願いしなさいよ!」
「ちょっ! プリシラ何を勝手に――!?」
――チュッ!
「にししっ! 先手必勝! これでお兄ちゃんはアタシにお返しのキスをしなくてはなりませんっ! さぁアタシにもお姉ちゃんにした様な甘くて蕩けるキスをして下さいな! さぁ額にっ!」
アヒーナも姉、プリシラと同様に前髪をたくし上げ、額にキスをしろと言わんばかりに俺に迫る。
不平等はイケナイ。
姉妹、平等にしなければ……しかし正直、今は目を瞑り見えないとは言え、横にはプリシラが居る。
恥ずかしさと照れと欲望の狭間で俺の心は葛藤する。
「ほらほら、アヒーナが待って居るわよ……旦那様」
「お兄ちゃん早く早くぅ~お返しのキスはまだですかぁぁ?」
「えぇぇいっ! 毎回! 毎回、二人の思い通りになると思うなよっ!!」
……………………
………………
…………
……
「うん! 流石は将来の主夫! 相変わらずお料理が上手ね。毎日、こんなにも美味しくて愛情たっぷりのご飯が食べられて私、世界一の幸せな将来のお嫁さんねっ」
プリシラは顔を緩めながら朝食の玉子料理を頬張りる。
俺は姉妹の邸宅に来て以来、基本的には家事を担当している。炊事洗濯、掃除にと毎日が慌ただしくも過ぎ去り早、姉妹との共同生活も一週間が経とうとしていた。
そう、なし崩しに家事は俺の仕事になってしまって居たのだ。
結局、ゴミ溜の部屋はあの一室のみでどうやら二人はメイドさんが居ない数日間だけその部屋だけで暮らしそして、ゴミ部屋を短期間で作り上げたのだ。
そしてその部屋は、俺が独りで二日間掛けて元に戻した……ただしその間は二人はただ遊んでいた訳では無かった。
教えてはくれなかったけど二人は何やら仕事をして居た様で頻繁に屋敷を出入りして居た。
「うん、うん! やっぱりお兄ちゃんのご飯は最高だよねっ! 前に"魔竜討伐"の時も野宿する度にご飯を作ってくれてたもんね~!」
「あぁ、懐かしいな。あの時は毎回俺が料理番だったよなぁ? 結局はお前達は一回も作った事が無かったよな? 何かにつけて逃げてばっかりで……」
俺は懐かしみながらも呆れた様に呟き、カップに口を着け中身を一気に喉へと流し込んだ。
「だってお兄ちゃんが一番ご飯作るの上手だったしさぁ~! それに『俺じゃ無きゃ駄目だっ! 任せろ!』見たいにカッコつけて調理じゃん!」
「それは……それはお前達が……いや、何でも無い」
魔竜の討伐に選出された俺達は、五人で編成された隊で挑んだ。
国中から選りすぐりの精鋭として……だが俺が配属された隊には男は俺一人のまさにハーレム状態だった。
残りの四人は女子だ。
その四人と俺は訓練等の下準備の期間も含めて、約一年近くを共にした。
プリシラ、アヒーナ、槍術使いの兎の亜人、後方支援の狙撃手の少女、まさにハーレムの他ならない。
何とも懐かしくも時には地獄の様な時も過ごした……俺。
内、一人はプリシラを庇い命を落としてしまった事が盾役の俺は今でも悔やみ続ける。それはプリシラとて同様に――。
「懐かしわよね。私が……私がしっかりしていれば……そうよ。私のせいであの子は……」
「もぉお姉ちゃんのせいじゃ無いって何回言えば……んんん~! はいっ! もぉ昔のお話はお仕舞い! 終わり! 終了でぇ~す! あっ、お兄ちゃん新聞読む?」
朝から湿っぽくなるもアヒーナは察してか、無理やり話題を反らそうと翻弄していた。
苦肉の策か俺に新聞を押し付けてきたが今は仕方なく受け取り、取り敢えず俺は開いて見ることにした。
その時、折り込みの一枚の紙が床へ舞い落ちた。
「――よいしょっ」
俺はその一枚の紙を取り上げ、ふと見る。
それは周辺の"知らせ"かと思ったが違った。
紙にはデカデカと描かれた、黒髪女性の似顔絵の人相書きで在った。
「人相書き……か? 珍しくも無いが女性かぁ」
尋ね人、それは犯罪者でも行方不明者等様々だが今俺が手にして居るのはやや、事情が違ったのだ。
「何? 何? お兄ちゃん! お尋ね者ですかい? それと人探しかい?」
アヒーナは興味津々で俺の手元を覗き込み、紙に書かれた文面を読み上げ始めた。
「何ぃ~! この者、重罪人につき……要注意。殺人、拷問? 傷害事件……他多数ぅ! えっとぉ……密教? 邪教ぉぉ? の【悦ばしの聖家】所属ぅ? 懸賞金額……金貨120枚……ってかなり危ない女性だねぇ? 金貨凄い量だね! 危険性が高過ぎる証拠だね」
確かに金貨一枚在れば一ヶ月は生活が出来るだけの額。その懸賞金は単純に十年は生活が出来るだけの額が提示されていた。
懸賞金額はその人物の危険性に比例するがこれだけの金額は中々、出て来る事の方が珍しい。
精々十枚以下が大抵なんだが――。
描かれた女性は長い黒髪におっとりとした表情に優しく垂れた両目。それに修道着らしき服装で描かれていた。
とても書かれた罪は、似顔絵の人物がしたと思えない程に女性の犯した罪は不釣り合いに思えたら。
俺は何処か不安になる様な、上手く言えないが少しだけ恐怖を感じだ。
虫の知らせか……。
「早く捕まると良いな――」
俺の言葉に姉妹は「そうだね」と答える。
少しは元気を取り戻したプリシラは突然に俺とアヒーナへ問い掛ける。
「ねぇ二人共、今日は三人でお買い物なんてどうかしら? そう言えばガイゼルが来てからまだ三人で外に出た事が無かったわよね? 折角だから行きましょうよ! デートしましょ? デート!」
プリシラの提案にこれと言った予定も無い俺は、気分転換にと快諾した。
勿論、アヒーナも俺に同じだ。
「さて……いい加減に片付けたいから二人共、早く朝食を済ませてくれよな!」
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