住めば都のゴミ屋敷
「――えっ?嘘だろ……!? 二人はこの屋敷に住んでいるんだよ……な?いやいや、そもそも本当にっ! 此所がお前達の屋敷なのか――?! 俺はにわかに……信じられない。お前達と一緒に旅をして居た時はそんな事は微塵にも感じなかったのに……」
俺は目の前に広がる惨状たる光景に言葉を選びながらやんわりと、招き入れられた部屋の状況について二人に問い掛けたのだ。
「ん~そんなに酷い? 私は普段見えないから分からないけど……。まぁ確かに昔に比べれば私達は怠惰な生活になって来ているかも……アヒーナ、貴女も酷いと思う?」
「えっ? まぁ、何れはやらなきゃいけないとは思って居たけどさぁ……ちょぉっと怠けすぎたかなぁ~あははっ。やっぱり……酷すぎるよね?ってな訳でお兄ちゃんっ!! 先ずはお部屋のお片付けとお掃除を手伝って欲しい……なぁなんて……」
俺は今、プリシラとアヒーナが住んでいる屋敷に連れて来られた。
それは大層、良い意味で外観は年季の入った立派な造りの大邸宅に姉妹は住んでいる。
数時間前までは俺の自宅に居たが、二人の突然の来訪そして過去の"約束"を問われ、俺が思い出したと思った途端、二人はベタベタに俺にくっ付き甘えて来た。
そしてプリシラの転移魔法で遠く離れた二人の自宅へと半ば強制的に連れて来られたワケで――。
此所は俺の住む場所から遠く離れた都市部に位置する。
彼女達は地元でも有数な豪商の令嬢でも在り、二人共がそれぞれが人知を越えた能力を持ち、俺と同様に"魔竜討伐"に選出されたのだ。
何故、金持ちの娘がしかも二人揃ってそんな特殊な能力を持って生まれたのか……俺の育ちと違う。昔から姉妹は自分達の過去を素性を話したがらない。
そんな姉妹を俺は、些か不思議に思うも気にはなるが話を振ってもはぐらかされて仕舞う――。
そんな彼女達の住まう屋敷の惨状……それは脱ぎ散らかされた衣類に食べ終えた食器類、読み散らかした数々の書物と、言い出したら切りがない位の物に溢れ、散らかし放題の部屋に俺は顔が引きつった。
それに何やら魔法か魔術の実験でもした痕跡が伺える箇所がチラホラ視界に入る。
いやいや、やる場所が可笑しくないか?とさえ思えるこの魔境の様な空間……最早、"魔竜の巣窟"の方が清潔感が在りまだマシにも思えてきた。
「いやさぁ……俺がとやかく言う立場では無いと思うが流石に、この部屋の乱雑具合と言うか……どうしたんだよこの状況は? メイドさんはどうした? これだけの暮らしなら居るだろメイドさんの一人や二人は?」
そういやこの馬鹿にデカイ屋敷に姉妹二人だけで住んで居る事に俺は、疑問を感じ姉妹に問い掛けた。
「うん、一人だけ居るよ~! 今は所要で数日は戻らないんだけどね。アタシ達が討伐から戻って来るまでは一人で屋敷を守ってくれてたんだよ。だから当分は三人だけ~ラブラブ過ごそうね!旦那様ぁ~っ!」
一人は居たのか……それにしても酷い有り様だ。それと俺はまだ旦那様では無いぞと思う。
だが俺は二人とは討伐の旅を共にしたとは言え、一緒に居た時間は長いようでそうでは無かった。
それでも俺は二人の事は少し位は理解していた気になって居たようだ。でも俺は何も分かって等、居なかった事に少しショックを受けた。
「そう……なのか。居るには居たんだな――」
「そうそう。昔っからアタシ達姉妹の面倒を見てくれたエルフの半種。アタシにとってはもう一人のお姉ちゃんなんだ!」
アヒーナはそう言いながら俺の左腕に纏わり付いて来た。俺の腕に伝わるアヒーナからの温もりと柔らかさ。
本日二度目の幸せな感覚――。
「にゃぁはぁ~! この腕、アタシ大ぁぁぃ好きぃぃ~んっふぅ~! はぁぁお兄ちゃんの香り最高!」
俺の鍛え上げた腕は平均的な? 女性の太股位は在りそこへはムニムニと、大きく立派に育った両胸の柔らかな袋がこれ見よがしにと押し付けられる。
「ちょっとぉっ! アヒーナばっかりズルいじゃないの? 私にもガイゼルの温もりを味あわせなさいよ! 私だって……二ヶ月も我慢してたんだんですからね!」
「んふふっ。だったら早く来なよ~お姉ちゃん! まだ今は二人だけの旦那様なんだからねっ!」
『今は二人だけ?』と言うアヒーナの言葉に俺は疑問と不安を抱いた。
直ぐ様、プリシラは俺の右腕に吸い寄せられるが如く、両手で抱き付き纏わり付いた。
心なしか、彼女のスラッとした脚が俺の脚に絡み付いた気がし――いや、ガッチリと絡み付いた。
プリシラの板の様な胸が腕に当たるも、アヒーナの時の様な感覚には残念ながら襲われ無かった。
「オイオイ。俺はお前達に無理やり着の身着のまま連れて来られて、俺はまだ上半身は裸なんだぞっ! 少しは自重と言うかその何だ……二人には恥じらいと言うモノは――」
「「無いっ!!!!」」
俺が言い切る前に二人は、互いの顔を見合わせた後俺に満面の笑みを向けてハッキリと言い切った。
「せめて何か……羽織る物位は貸してくれないか?」
俺はそう言うと、プリシラは渋々腕から身を剥がし、俺の右手を握り『着いて来て』と言う様にして手を引き歩きだした。
「ん? お姉ちゃん何処に行くのォ~??」
「良い所よ」
そうとだけプリシラは言うと、物に溢れ散乱した室内を器用に置かれた物を避けながら俺を導く。
その動きは盲目の筈の彼女には有り得ない程に機敏でそれは恰も見えて居る様な動きで……。
アヒーナは相変わらず俺の腕からは離れる事は無く、非常に歩き難い……でも幸せを感じる柔らかな感触。
この大部屋らしき部屋を出るとそこには、長く終わりが見えない位に奥まで続く廊下に出た。
此所だけ無事なのか、何故か廊下はゴミひとつ無い様な、さっきまでの光景が嘘だと思える程の状況に、俺は頭が混乱してきた。
「なっ――!? スゲェ長い廊下……てか、此所だけ綺麗すぎじゃないか? なんでだよ……」
「お兄ちゃんは気にしすぎだよぉ~! 幾らさっきの部屋が散らかってたからってぇ~流石に廊下まで散らかす私達じゃ無いよっ! ほら、早く行こうよ。はーやーくぅー!」
俺は足を止めそう呟くもアヒーナは気にするなとばかりに、俺を急かす。
再びプリシラに手を引かれ俺は止まっていた足を一歩、また一歩と前に出し進む。
廊下は長く真っ直ぐに伸びており、等間隔に部屋の扉が左右に見えた。
ちゃんと数えた訳じゃないけど軽く一〇部屋位の扉の前を通過した気がする。
想像以上の規模だと改めて痛感した。
そして急に廊下の終着地、そう行き止まりに辿り着いた。
最初に廊下に出た時には見えなかった筈の行き止まりが突然現れたのだ。
この屋敷は迷宮かと俺は一瞬、そう思った。
「はい、着きましたよ。良い所……これこら先、未来永劫……私達が一緒に過ごすお部屋。愛のお城ですのよ!」
プリシラはクルリと服の裾を靡かせながら俺の方を向き、ニッコリと口元を弧を描き微笑んだ。
「愛の……お城……だと!?」
プリシラのぶっとんだ発言に俺は何故か身が竦んでしまった。
俺達の目の前に在る扉は此所に来るまでに見た扉とは一線を画す、この扉だけ装飾からその存在感から何から何まで違っていた。
プリシラの言う通り此所はお城かもしれない……と。
そして俺は、今になってとんでもない……取り返しのつかない約束をしてしまった……と。
あの時は緊急を要するとは言え、軽はずみな発言を今になって後悔をした。
それが超絶に美人で可愛らしい姉妹と結婚するとしても、結婚と言う姉妹と添い遂げると言う責任の重さに押し潰されてそうで……。
「あれあれあれ~? お兄ちゃん顔色が悪くない? 大丈夫ぅ? さっきの散らかったお部屋……臭かった?」
俺のそんな気持ちを知らずかアヒーナは、顔面蒼白になって居るで在ろう俺を心配そうに顔を近付かせ見つめて来る。
小柄なアヒーナは身長一八〇センチを越える高所にある俺の顔に近付ける為にしがみつき、腕を登る様にして自身の顔を近付ける。
その度にアヒーナの豊満な谷間に俺の腕は埋もれ、胸の鼓動が徐々に高まる。鼓動は周囲に聞こえて仕舞いそうな位、激しく早く脈を打つのが分かる。
「だだだだ大丈夫だよ! あ……ありがとな。ただ、プリシラが何か凄い事を急に言うからさぁ……俺はちょっと……戸惑――」
「あら? ガイゼル嬉し過ぎてもしかして照れてるのかしら? 良いのよ照れ無くても……さぁお入りなさい。貴方の為に私達が心を込めて用意したのよ……さぁ、いらっしゃいガイゼル」
――ガチャッ。
プリシラの手が扉のノブを掴み捻り、扉をゆっくりと開けた。
開かれた扉の先に広がったのは華やかな明るい、最初に通されたゴミ部屋とは大違いの綺麗に数多の植物に彩られた部屋だった。
例えるならば"室内庭園"と言う感じだろうか。
「――っ!?嘘……だろ?」
余りの光景に俺は息が止まる程の驚きと、五人位は余裕で寝られそうなひとつのベッドが目に止まり、思わずアヒーナへ視線を移した。
「んふふ~っ! やっぱり気になるよね? ベッド! 今日から三人、あのベッドで仲良く寝るんだよっ。ねぇ~お姉ちゃんっ!」
いや、まぁそれもそうなのかもしれないが――。
その時、プリシラが艶っぽく俺の耳元へ爪先立ちで近付き『ポツリ』呟いた。
「えぇそうよ。今日からずぅっと一緒にね。さぁ共に愛を育みましょうね……ガイゼル」
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